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第一節 遭遇、電力フロアにて

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 レーターは、王国での権威をわずかながら取り戻した。そして、いかに王妃が甘い考えでいたかを思い知る。

 王城を襲撃され、国王も重症を負ったこの状況。だというのに未来人を名乗る者の言うことに踊らされていた。

 王国の騎士たちを出兵させるなどもしなかった。娘である王女の安全を最優先に考えたためだ。

 同じ穴のムジナである。レーターが息子のジーニアスを溺愛していたように、彼女も娘のリリアーナを病的なまでにかわいがっていた。



 あの悪女とのつながりを持ってまでだ。

 そして隠し持っていた狡猾こうかつさで、レーターをおとしめようとした。

 息子の妻であろうと容赦はしない。骨の一つや二つでも折ってやりたいと考えるが、さすがにそれをしてしまえば問題となる。



 なので、罪人にふさわしい……くたびれた布服に着替えさせた。

 板に両手を括った状態で、鎖は首輪と連結させている。

 靴下も与えずだ。歩くたびに、汗と皮膚によるねちっこい音を立てた。

 本人からしてみれば、実に屈辱的だろう。王妃ともあろう者がこの格好で城内を歩かされている時点で、もはや死も同然の扱いだ。



 そんな彼女に、レーターは聞きたいことがあった。

 彼女と二名の騎士を前に歩かせる。自分は車椅子に座り、もう一人の騎士が後ろから押す形で廊下を進む。


 ある空き部屋の扉が開かれた。

 そこへ適当にしまわれた存在を彼女に見せる。



 八匹の横たわった猫……。

 生き物のように見えるがアンドロイドだ。無傷の彼らは、一向に目を覚まさないという。


「未来人と共謀していたのなら、こやつらの排除法も知っとるのじゃろう?」

 彼らはセツナの姿に変貌した後、王城にいる者たちを虐殺した。

 またいつそのような事態に陥るか。今のうちに対処すべきだとレーターは考えていた。


 ルミナスは、うつむきながら答える。

「アンドロイドの力が必要です。それに、アンドロイド本体が近くにいなければ起動しない……という解説も受けました」

「だからこのまま放置しておくと? ふざけるでないわ!!」

 大声とともに唾を吐き散らす。車椅子の車輪を手で回し、猫の傍まで進む。

 ももの上に置いていた木槌きづちを手に持った。

「どうせ破壊できないというのもうそなのじゃろう!! 一級魔導使いであるワシをめるなぁ!!」


 くぼみにハマっていたトリプランが輝く。つちの形に沿って、魔力の波が集合する。

 武器本来の五倍はある大きさだ。これならば、車椅子に座った状態だろうと当たる。

 レーターは振り下ろした。



 突如、猫の目が光りだす。

「ひぃっ!?」

 既に彼女の脅威を思い知った後だ。レーターは勢いよくもたれると、椅子ごと後ろへ転倒した。

 目から放たれた緑の光が円錐状えんすいじょうに広がっていく。ちょうど誰もいない床にて、人型を形成する。


 白衣を着た女の姿が現れた。

 彼女は、辺りを見回してほほ笑む。

『しばらく見ないうちに……。どういう状況かな?』

「ヒナタさん……!」

 ルミナスが声をあげる。



 彼女は、一年前に王城の医師として配属された女性。

 そして、アンドロイドの襲撃を手助けしたとされている……ヒナタ・アラシである。


 見下ろしてきた彼女と目が合う。レーターは指差してえた。

「貴様か……!! ワシらの国をめちゃくちゃにしおって!!」

『うん、すまない。ウチも怪しまれていたものでねぇ。ああする他になかったんだ』

 騎士たちがレーターを肩で担ぐ。車椅子に座らせる。

 その最中に、ヒナタはルミナスの姿をじっくりと見た。


『あらら。せっかく王女さん達が動きやすいようにしてたのに。余計なことをしてくれたね、おじいちゃん?』

「貴様の都合が良いようになどさせるか!! 王妃と共に、貴様の存在も糾弾する!! クレセント全土で指名手配じゃ。ガハハハ!!」


 強烈な脅しだと思っていたが、ヒナタは澄ました顔で続ける。

『お願いがあるんだ。ルミナス王妃に……と思っていたけど、おじいちゃんでもいいよ』

「貴様の要望などむわけ……!!」

『その猫には自爆機能が付いている』



 またしてもレーターは横転した。

 しかも今度は喉を床に打ち付け、息ができなくなる。

 ヒナタは腹を抱えて笑った。

『はははは!! からかい甲斐がいのあるおじいちゃんだなぁ!! でも従わないんだったら……』


 彼女をまとう空気が一変する。

 笑顔のままだが、顔の半身に陰がにじみ出ている。

『本当にとんでもない不幸が訪れるよ。リリアーナちゃんとセツナちゃんに手を出さないことも絶対条件だ』

 冗談で言っているようには見えない恐怖。

 同時に、レーターにとっては許しがたい条件を提示された。


 ──どいつもこいつも……!! あの小娘どもの肩を持ちおって……!!

 面白くないが、彼女に逆らうわけにもいかない。逃げた二人へ鉄槌てっついを下せないのであれば、他のことへ労力を回すこととする。

「……要望とは?」


 レーターが問いかけると、少し間を置いてから彼女が口を開いた。

『猫の処理を請け負いたい。そこの王妃も一緒にね』



-----



 二つの意味での最悪が押し寄せる。一つは、セツナの消失を食い止める術が見つからなかったということ。

 そしてもう一つが、悪魔のささやきだ。


 リリアーナの人生を絶望の連続へと突き落とした闇の使い手、ステラ・サンセット。

 よりにもよって、友人エキュードの弟子であるロゼットと共に現れた。


 リリアーナは震える。それでも、き然とした態度で言い放つ。

「い、今……あなたに構ってる暇はないの!! 出ていって!!」

「それで素直に出ていくと思う? あたしは稀代きだいの黒魔術使い。欲しいものはなんでも手に入れてきた」


 ステラが目を狭める。

「だから……」



 そこからの展開は目まぐるしいものであった。

 セツナが、いつの間にかリリアーナの前に出ていた。実体剣でくうを縦斬りする。

 リリアーナの視点からでは何が起きたのか不明だ。

 しかし、ステラのわずかな動きから、魔術攻撃をしかけていたのだと読み解く。



 ほぼ同時。

 ロゼットが、フェリシィの前まで瞬間移動していた。

 彼女のほおをわしづかみする。

「うっ……!?」


 すぐさまセツナは、彼に剣を向けた。

「やめておけ……。俺たちの言うとおりにしなかったら、このガキの頭は見るも無惨なありさまになるぞ」

「それが騎士のやることですか?」

「その騎士を殺したテメェには言われたくねえなァ!?」

 やはりと言うべきか。エキュードを殺されたことへの怒りは続いている。

 彼を殺したのはセツナではない。そう説明しても納得しないだろう。



「アン……タ……」

 両頬りょうほおを寄せられながらも、フェリシィが何かを言おうとしている。

 ロゼットはつまらなそうに見下す。それでも、つかんでいた位置をあごの辺りまで下げた。

 これでフェリシィはしゃべりやすくなる。

 まだ苦しそうにしながらも、声を絞り出す。



「そのマント、どこで手に入れたの……」

 ロゼットは、王城にいたころにはマントなど付けていなかった。今はなぜ……とリリアーナも感じていたことだ。

 ただ、その頃のことをフェリシィは知らない。抱いている疑問はまた別物だろう。

 ロゼットは、エルフ少女の外見をしばらく見続けた。


 そうして鼻を鳴らす。

「その肌と髪の色……。なるほど、ヘタレエルフの娘か」



 今の発言で、事の流れがおおかたは判明した。

 フェリシィの恐怖の表情が、怒りに塗り替えられる。

「なん……ですって……?」

「騎士団権限で譲ってもらった。正義執行の為だ。ありがたく思えよ」

 彼は、フェリシィの父、バレンと会っていたのだ。場所はおそらくネブリナだろう。

 なぜフェリシィが、マントの詳細を気にしたのか。



 彼が身に着けているマントこそ、ジャスミンの作った補助魔導具だからだ。

 しかも彼の口ぶりを聞くに、正当な手段ではない。奪い取った可能性が高い。


「アンタなんかが使っていいものじゃない!! ママががんばって作ったんだから!! 返してェ!!」

 黙って聞いていたロゼットだったが、急に背筋を正す。



 膝でフェリシィの腹を蹴った。

「ぐぇふっ……!?」


 まだ年端もいかない少女への、容赦のない暴行……。リリアーナは黙っていられなかった。

「なんてことするのッ!? やめてッ!!」

 少年騎士は、狂気に満ちた笑みを浮かべる。

「見たところ、まだ俺と二、三歳くらいしか変わらない奴じゃねえか。同年代の喧嘩けんかだと思って黙ってろよ」

「今みたいなことしてるなんて……エキュードが知ったら!!」



 その名を聞いた途端、彼の瞳孔が大きく開く。

「軽々しくあの人の名を出すなって言ってるんだ!!」

 背負っていた直剣を持つ。リリアーナへと向けながら続ける。

「特にテメェはだ!! そんな資格、一ミリたりとも存在しない!!」

「えぇ……?」


 意味が分からなかった。エキュードは、リリアーナにとっても大切な存在だ。

 なぜそのようなことを言われなければならないのか。


 うろたえるリリアーナをよそに、セツナが指摘する。

「ロゼットさん。憎しみの対象はセツナのはずです。あなたは闇の魔力に魅せられたがあまり、感情の制御もできなくなっている」

 怒るにしても、度が過ぎた言動ばかりだ。彼が使用していたオディアンの影響なのだろうか。


 それについて、肯定も否定もせず。

 少年騎士は剣先を、相対する四人へ向けた。

「全員、その場でいつくばれ」

 ここは、おとなしく従うしかない。目配せしつつ、各々のタイミングでうつ伏せとなる。


 よほど面白く見えたのか。ステラは悠々と腕を組みながら近づいてきた。

「ある提案をしに来たの。この世界の為になる、本当にいいことよ?」

 にらみながら、リリアーナは返答する。

「聞きたくない」

「いいえ、聞きなさい」

 余裕めいた表情ながら、彼女の声色には威圧があった。

「帝国で良い気になっているカナリアちゃんは、あたしにとっても邪魔な存在なの」



「だからリリちゃん? セツナちゃん? あたしと協力しない?」

 吐き気を催すようなその発言。

 耳を疑った。リリアーナは息を引きつらせながらも、ステラへえる。

「あなたにどれだけ酷いことされたと思ってるの!? 絶対にだまされないッ!!」


 この提案を事前に聞いていなかったのか。ロゼットも彼女に鋭い目つきを向けた。

 それに気づいたステラは、首を横に振りながら溜息ためいきをつく。

「ダーク・シードに関しては謝っておくわ。でも、これだけは言わせてもらう」

 だが、緩みのない眼差まなざしに変わると……。

 衝撃の事実を明かした。



「オルドの襲撃を計画したのは、あたしじゃない」



 背筋が凍りつく。

 いや、そんな生易しいものではない。

 これまでの想定が全てひっくり返る衝撃……。リリアーナは、思わず口を唖然あぜんと開ける。

「う……ウソだよ!! そんなわけないッ!!」


 結婚式が間近という夜。あの襲撃によって、セツナを含む多くの者が死んだ。

 実行犯がステラであることは間違いない。しかし首謀者が他にいるというのであれば、あの事件の真相はより複雑となる。


「アタシの流儀としてね? 悪人以外の命を、闇の養分にはしないって決めているの。でもあれはそういう依頼だったから……。仕事って、やりたくないこともやらなきゃでしょう?」

「答えてッ!! 黒幕は誰!?」

「だから、クライアントの秘密も言えないの。大人になってみれば分かるわ」

 怒りを誘っているのか。いずれにしても、答える気はなさそうだ。


 ここでセツナが、彼女の流儀に対する矛盾を言う。

「あなたが闇に魅入られた十年以上前。その際の大量殺人は、無差別なものだったと聞いています」

「あのときはあたしも未熟だったから、なんでもすぐ殺せばいいと思ってたのよ。けど、その中にどれだけ本当の善人がいたのやら……」

「どういう意味です」

「誰の基準で善悪を決めるのか、ってこと。誰かにとっての善なんて、誰かの悪。社会ってそういうものよ。本当の善人なんてひと握りで、大半には殺されるべき理由がある」


 なにか正論を振りいているようにも見える。だがリリアーナにはこう聞こえた。

 自分が大量殺人を行ったのには理由がある。だから自分は正しいのだ……と。



 納得できるはずがない。

 極めて危険なこの人物に、リリアーナは食ってかかる。

「あなたは自分のやってることを正当化させて、好き勝手に暴れてるだけだよ!!」


 後ろの方で、ライラックは目が飛び出そうになりながら会話を聞いていた。

「ねえ、何でこんなイカれたのにも付きまとわれてるんだよ!?」

「こっちが聞きたいもん……!!」

 ダーク・シードを体内に植え付けてきたのだ。リリアーナの魔女化を狙っていることは間違いない。

 だが、なぜリリアーナでなければいけなかったのかは不明なままだ。


 そして、セツナにも意味ありげな視線を向けている。

 彼女の精神維持が不安定なことについて、手助けしたいという旨を伝えていたが……。



「本当に、この魂の消失を……防げるのですか?」

 その点について、セツナが興味を示し始めた。

「だめセツちゃん!! 聞かないで!!」

 ろくなことではないという予感があった。意地でもこの女の手など借りたくない。


 そんな心境などお構いなしに、彼女はセツナの質問に答える。

「あそこまで見れたなら、真実なんて一つだけでしょう? アンドロイドの心臓は魔導石なんだから、そっちにカラクリがある」

 おそらくそうなのだろう。未来の技術を知っているライラックが驚いていたのだから。

「この世界において、魔導石の魔力構造をいじれる人物はあたしだけ。ワラにもすがりたい気持ちよね?」



 リリアーナの心が重くよどむ。

 彼女の言うとおりではあるが、認められない。認めたくない。

「あなたがセツちゃんを殺したのにッ……!!」




 ピキッと音が鳴る。

 下腹部に激痛が走った。

「ぃぁああああああああああッ!?」

「リリアーナ様!?」


 ちょうど、ダーク・シードがある位置だ。発芽の進行が起きたのだと思われる。

 ステラの介入か。いや違う。魔力の介入など感じられない。



 これは……自発的なものだ。

 過剰な怒りにより、リリアーナの心がまた闇へと近づいたためだ。腹の下を押さえてうずくまる。


 ステラはクスクスと笑う。

「いちいち怒ってたら、このさき苦労するわよ? リリちゃん」


 セツナが立ち上がろうとするも、ロゼットが剣を上げたのでやめた。

 動けば、フェリシィの首が斬り落とされる。

「あたしとしては、あなたに魔女として目覚めてもらったほうが、あらゆる意味で好都合なんだけど」


 このステラの発言に、ライラックが焦りだす。

「おい待ってよ……。ほんとに魔女になるのか!?」

「ええ、もちろん」

「冗談じゃない……!! なんでそんな火遊びみたいな真似する!? 世界を破壊できるだけの力を魔女は持ってるんだぞ!!」

 実際に未来での災厄を目にした人物だ。言葉の重みが違う。


 それを感じているのだろうか。ステラはふむふむと相槌あいづちを打った。

「君……。もしかして未来から来た人? じゃあ君にも来てもらいましょう」


 提案を聞いた途端、彼の顔つきは分かりやすく安堵あんどに変わった。生き延びられると確信したからだろう。

「はいぃ~……。喜んでぇ」

 ステラの邪悪な視線は、フェリシィの方へと向く。

「そのエルフの子は適当に痛めつけちゃって?」



 対して非情な提案。

 フェリシィは青ざめる。首を激しく横に振った。



 痛みに耐えながらも、リリアーナは後ろのセツナと目を合わせる。

 彼女も、黒魔術使いと行動を共にする気など失せたようだ。強い目つきからそう感じ取れる。

 フェリシィが酷いことをされる前になんとかしなくては……。


 そう決意したリリアーナは、ステラに見えないよう、腰に携えたレイピアに触れる。

 四人が全員で転移するには距離が離れすぎていた。セツナはリリアーナの右足裏に指を当ててきたが、特に問題なのはライラックだ。

 気づいてもらえるよう、リリアーナは左脚をバタつかせる。


 彼はその挙動を目視したが、なんのことか分からずといった表情だ。口をぽかんとさせている。

 かといって、あまり分かりやすい動きはできない。リリアーナはいったん正面を向く。



 目の前に、色気を醸し出しているヒール靴があった。

 顔を上げる。ステラが……こちらを見下していた。

 狙いがバレたのだと気づく。咄嗟とっさにリリアーナは、フェリシィの身体へ手を伸ばす。



 同時に、ステラが右手をかざした。

「ぎっ……っ、ぅぅぅぅうう!!」

 呼応して強まる激痛。鉛のような重たさが全身を駆け巡る。



 あと数ミリ。

 指がエルフ少女のもとへ届けば、テレポートを実行する。

 奥歯を強くみしめ、耐え忍ぶ。


 意図を察したのか、フェリシィも手を伸ばしてきた。

「逃がすかッ……!!」

 しかし動いたことで、ロゼットが剣を振り上げる。



 最後のひと押し。

 身体が千切れそうになりがらも、リリアーナは必死に手を動かす。



 ついに指同士が触れ合った。

 すぐさま考え無しに念じる。

 ──どこでもいいから飛んで!!



 首をえぐれていなければおかしい。

 直撃したはずの剣筋だが、激しい摩擦によって防がれた。

「こい……つゥゥ!!」

 エルフ少女の……いや、リリアーナとセツナを含む三人の身体が、白く発光している。

 おそらく魔力の奔流だ。足元には魔法陣も出現。



 次には、その身が姿を消した。

 ロゼットの縦斬りは弾かれ、体勢を崩して終わる。


 もういないと分かっていながら、三人がいつくばっていた床を見返した。

 髪をむやみにき乱す。大きく見開いた眼を黒魔術使いへ向けた。

「どういうことだ……。今のは転移魔法だぞッ!!」


 彼女も顎下に手を置き、考え込んでいる。

 責任感は抱いているのか。いや、そうには見えない。

 ロゼットは詰め寄る。

「テメェが植え付けたダーク・シードとやらで、捕まえづらくなったんじゃねえのか!?」


 ステラは視線を合わせず、ぶつぶつと何か言っている。

「発芽も途中なのに、ノーリスクで出来できるわけがない……。けどやった」

 彼女も、不可解な現象だと思っているようだ。

「まあでも……。遠くまでは行っていないでしょう」


 しかしそもそもで言えば、この事態を生んだ原因はステラだ。ロゼットは憤慨する。

「共闘の提案といい、何を考えてやがる!!」

 本心ではセツナを殺したい。それを我慢してでも、セツナの身柄を得ようと動いていたというのに。

 同じではない。完全に手を結ぶなど……真っ平ご免だった。



 ロゼットの気持ちなど露知らず。ステラは、電力エネルギーが確保されているという機械の方へと歩きだしていた。

 ニヤけながら彼女は言う。

「狙いどおりね」

 研究所でセツナ達を襲撃しようと決めた理由の一つだ。オディアンの魔力から抽出されたであろうこの電力エネルギーを、何かしらの形で利用しようという狙いである。


「おい」

「ひぃッ……!!」

 未来の人間に声をかけた。彼はいまだに身体を伏せたまま、恐怖している。

 ロゼットは、剣の先端を彼に向けた。

「早速テメェの仕事だ。これはどう使う」

「ま、魔力の吸収だけなら……オディアンさえあればいつもどおりできる!! 殺さないでェ!!」

 簡単に聞き出せたが、まだロゼットは、闇の魔力を使い慣れているわけではない。


 ステラは、自身のパンティに引っかけていた魔導石を摘む。

 ここは彼女に任せたほうが良さそうだ。

 ……そう思った矢先。

「ちょっと試したいことがあるの」




 彼女の指に弾かれた魔導石が、血しぶきを上げてめり込んだ。

 ロゼットの腹部にだ。




「がっぁああああ……!?」

 視界が赤に、青に点滅する。

 腹に刺さったそれを抜こうとするも、逆らって入っていく。

「君も……あたしとおんなじになれるかもね」



 意識を失う直前。

 機械から発せられた電撃が、槍状やりじょうに集結する。

 そして、腹の一点を貫いていった。

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