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第五節 戦闘中……城下町にて

☆☆☆☆☆


 大蛇だいじゃ対峙たいじした際、脳の計算が導き出した答えは一つだった。

 闇の魔力でかたどられた生物を撃破するには、核の破壊が必要……。しかし、それは体内に位置しているため、外からでは攻撃できないのだ。


 内部に侵入して破壊するしかない……。したがってセツナは、あえて蛇にみ込まれた。

 蛇自ら舌を伸ばしてきたが、絞めつける力は強烈だ。捕まれば、こちらも致命傷を負いかねない。


 そのため、相手の開口を逆手に取った。

 舌を避けるようにして喉の中へ飛び込んだのだ。

 人間でいう胸の辺りに核があり、それは食道の中からも見えた。幸い、核がどこにあるのかは点滅表示されている。


 胃には溶解液がまっている。すべりの良い流れに逆らわなければならない。

 右腕がただれてしまっているため、足の指を肉壁に食い込ませる。胃への落下を遅らせた。

 あとは、まだ残っている左手で殴り、破壊するだけ。


 そうして振りかざしたところを狙って、肉壁から謎の液体が射出された。

 浴びた左手の感覚が失くなる。


 その正体は……溶解液だ。

 大蛇の体液には、対象物を溶かす能力がある。体内にも渡る防衛本能がセツナを狙ったのだ。

 見る見るうちに左手は崩れ去る。肘から先が消えてしまう。


 痛みは無い。ゆえに、自分の身体が本当に造られたものなのだと自覚する。

 このまま肉体を溶かされ続ければ、全てが終わると本能的に悟った。肉壁は柔らかく、体勢を保ちづらい。つかまるのにも限界がきてしまう。

 足の指を滑らせ、胃液の海へと落下していく……。


 最中、時間がスローになった。

 死が迫っていることにたいした恐怖はない。元より消えた命だというのなら、いま自分がこうしてよみがえったことのほうが奇跡だと感じる。



 だが、後悔が……。

 リリアーナを護れずに終わるという後悔が、死にたくないという気持ちを植えつけた。



 その直後のことである。

 脳の処理能力が、時間という概念を超える加速を始めた。

 セツナの視界いっぱいに文字や絵が表示される。それらが凄まじい速さで下へとスライドしていく。


 そして、一番下にあるものにたどり着き……。

 中身が全画面で展開された。

 銀の床と壁に囲まれた空間。そこを包む、耳障りな高い音と、赤い点灯……。緊迫した状況が伝わる。

 中央に、グレーの長い衣服をまとい、メガネをかけた茶髪の女性が立っている。

 女性は視線を下向かせており、目元には陰が差す。

 冷や汗もかいている彼女の身体は……。


 手の指先と肩あたりから粒子に変化し、消失を始めていた。

 背後の壁から突き出た透明のチューブには、青緑色の液体が流れている。

 そして女性の斜め後ろには、巨大な試験官のような容器がある。中では白い塊が漂う。

 それの正体を、自身の断面を見たセツナは、すぐに察知できた。


『こんにちは。……セツちゃん』

 主しか言わない呼び名を告げられ、セツナの思考回路が揺れる。

 弱々しい声色に、覚束ない視線……。精神のか細さを感じさせる要素がいくつもある。

『あなたが、これを……見ているということは、セツナ・アマミヤとしての知能が作動し、その身体が人間ではないという自覚が最大限まで到達した……ということ』

 だが彼女はめげず、決意したように正面を見据えた。


『時間がない。私の名前は……ナミダ。君のボディを造った』


 つまり、自分をよみがえらせたのはこの女性なのだと、セツナは理解する。

『既に知っているかもだけど、こっちの世界は……魔女リリアーナによって、壊滅的な被害を負った』

 一方その事実は初耳で、とてつもない衝撃を受けた。

『だから、魔女の基……いや、人類自体を断つことで、こっちの平和を……取り戻そうと、考えた。その作戦の為に、私たちは三体のアンドロイドと量産機を造った』

「馬鹿な……。リリアーナ様は……!!」

 世界の敵など、そんなことがあるわけないと否定しようとした。

 しかし、こちらの言葉は向こうには聞こえず、ナミダは続けた。



『私からお願いだ。アンドロイドによる殺戮さつりく……それを止めてくれ』

 矛盾にまみれた発言に、セツナは目を見開く。

『私が造ったのに、変な話だろう? でも……やっぱり駄目だ。命の犠牲で成り立つ未来なんて……』

 瞳が揺らいでいることから、彼女自身も迷っているのだと分かる。

『だから頼む……。あなたの別人格を抑え込んだまま、もう二体のアンドロイドを──』



 ナミダの腹部を、赤黒い刃が貫いた。



「なっ──!?」

 視界全体にも鮮血が飛び散る。伝うようにして赤い液体が垂れ落ちていく。

 突然の出来事だった。ナミダ本人も何が起きたのか分かっていないのか、ただ目を白黒とさせている。

 一体誰がやったのか、なぜ彼女が刺されたのか。限られた情報の中から、セツナは真実を探ろうとする。

 細く長い刃が引き抜かれる。ナミダは、手元にあった長方形の板へもたれかかるように倒れた。


 そうなったことで、彼女の背後にいた人物が映り込む。

 顔は見切れて見えない。赤のドレスに身を包み、闇の魔力を漂わせた……。

 いや、違う。


 それ以上にもっと強大な、何かをまとっている。



『君も私を裏切るんだ』



 その甘く、親しみ深いはずの声に……セツナは戦慄せんりつを覚えた。

 声の主が、体勢を低くしてのぞき込んでくる。

 赤に染まった長い髪の毛。全てを闇に染めるような紫の瞳。しかし……。



 整った顔立ちも、長く綺麗きれいなまつ毛も、三日月型の癖毛も。

 自分の人生を変えてくれた王女……。その人をかたどる特徴と一致した。

 だが、セツナの知っているリリアーナではない。禍々しく、狂気に満ちた笑顔を浮かべていて……。

 



 これが初めてではない。

 同様の姿のリリアーナを、一度見たことがある。

 だがいつかは分からない。記憶がチラつく。


 彼女は、屈んだまま語りかけていた。

 現実なのか、悪夢なのか。

 その時の彼女は、辛そうに顔をゆがめていた。




 絶望を演出するように、後方で爆炎が吹き荒れる。

 赤に染まった姫君によって、本当に世界が終わろうとしている。

 痛感したセツナだが、同時にこうも思った。


 自分の目的のために、他の人間を殺す。それは、リリアーナが心底嫌っていた行いのはずだ。

 どのような経緯かは分からない。しかし、もはや正面にいるのは、自分の愛したリリアーナ姫ではない。


「あなたは…………誰ですか」


 対面の動きが停止し、暗転する。

 視界に青が灯った。それを背景にして、再び文字の羅列が始まる。


 先ほどまで未知の言語だったそれらは……解読が可能なものとなっていた。

 標準武装、身体構造、自己再生能力……。戦闘面に関する基本的な情報が、脳内にインプットされていく。

 蛇にまれたこの状況を打破するには、なんらかの優位点が必要だ。しかし両腕の再生は、細胞レベルでの復元が必要なために時間がかかる。


 ならば、足に何か欲しい……。

 人間であるという固定概念を捨て去る。自分は機械だ。魔法などという古代の技術は、科学の前には無力に等しい。


 念じると、そこから未知の武装が出現した。

 両足五本ずつの指すべてがくっつく。縦の幅が長くなり、巨大な刃へと形を変えたのだ。

 落下の途中に片足を伸ばし、肉の壁に突き刺す。

 貫通具合は悪くない。セツナの要望どおりのものだ。


 新たに念じると、今度は肩甲骨の肉が回転する。

 体内に収納されていたジェット機構が現れ、青い炎を噴出させた。

 地面から垂直方向に向けて、セツナの身体が急上昇する。その途中で両脚を大きく広げ、身体を捻らせた。

 回転の勢いで大蛇の食道は裂かれる。ついには核となる胸部にまで刃が到達。

 そのまま横()ぎすれば、大蛇は姿形すがたかたちを保てなくなる。


 それを簡単に許すはずもない。大蛇の首元から、大きく方向転換した舌が伸びてきた。

 セツナの胴体をつかむ。締めつけ、粉砕させてから体内に取り込もうという魂胆だ。

 セツナは念じた。胴体からも何か武器は出ないのかと。


 直後、大蛇の舌を、三本の円刃が貫いた。

「ギィェアアアアアアアアア」

 それらは、セツナの胴囲を基準に、等間隔で旋風のように展開された。きしむ音を立てながら、舌の肉を横にえぐっていく。


 一定の損傷を加えたところで、回旋は実現した。

 舌はバラバラに裂け、血しぶきを上げながら、自らの胃液の底へ落ちていく。

 再びセツナはジェットを加速させる。足から伸びる刃で、核に亀裂を入れた。


 砕け散ったところで、大蛇の肉壁は続々と細分化し、崩れ落ちた。

 血液だけが残り、水風船が破裂したかのように辺り一帯へ降り注ぐ。

 それをセツナは全身で浴びる。目に血が入り込むが、機械である彼女には被害が無いに等しい。

 赤くなった視界に色調補正がかかり、クリアなものに戻る。


 周囲を解析。店舗が多く立ち並ぶ方角に、多数の闇魔力反応がある。

 そこにリリアーナとレーターがいると確信した。


 改めて、暗黒と化したリリアーナの姿を思いだす。

 人を殺し、それでもなお笑い続ける狂気。未来でそうなった引き金は、闇の魔力を操るステラにあると考える。

 あのような未来がまもなく起こるかもしれない。止めるには、ステラの策略と、レーターの凶行をなんとしてもつぶさなくては。

 急を要する事態を解決すべく、セツナは全身から稲妻をほとばしらせる。



 そこから一秒もかからずだ。

 姫を拘束する野蛮な人物に、渾身こんしんの蹴りを放った。

「ぐっ!? な、にいいいっ!?」

 左腕に食らったレーターは、苦悶くもんの表情を浮かべる。一つの体技による威力とは思えないほどの距離を飛ばされた。


 頭部が骨に変化していた男性の姿が、急速に元の身体構造へと戻った。レーターによってそうさせられていたのだろう。

 着地したセツナの身体からは、湯気のようなものが上がる。高速の移動によって、瞬間的に熱を帯びた。それを冷やすためのいわば生理現象か。

 そういうものなのだとセツナは理解した。特に気にせず、それよりも重要な護衛対象を見下ろす。


 レーターの接近を許してしまったが、リリアーナは無事だ。まだ闇の魔力に取りかれてはいない。

 しかし彼女の表情は強張こわばっている。

 主に直視しているのは、セツナの失くなった両腕だ。


「あっ、あ、ぁ……」

 点となった瞳と共に、全身を打ち震わせている。


「リリアーナ様! 落ち着いてください!」

 彼女を安心させるため、セツナは、その腕の断面を眼前まで近づけた。

 リリアーナの顔色がさらに悪くなる。悲鳴を上げながら目を閉じた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……!!」

「腕は現在修復中です。三十分以内には元に戻ります」

 そう言われたリリアーナは、目を半開きにし、恐る恐る見る。


 断面自体は白くプルプルとしており、血の跡もない。

 よく見ると、何やら細かくうごめいている。さながらウジ虫が湧いているかのようだ。

「えぇ……。や、やだこれ……」

「そういうものなので受け入れてください」


 すると、レーターが接近してきた。

 闇の力の影響で、動きまでやや機敏になっているようだ。

 距離が縮まるにつれて、木槌きづちを高く上げてきた。

「パワード!!」

 魔力が付着し、つちのサイズが増す。食らえばひとたまりもないだろう。


 セツナ自身は余裕で回避できる。しかしそうすれば、リリアーナに当たるかもしれない。

 両腕が失くなっている今、彼の攻撃はしのげないと判断する。

 そのためセツナは、自らリリアーナの前に立った。そして防御の手段を強く念じる。


 すると、胸に埋め込まれた翡翠色ひすいいろのエンブレムが光る。

 身体の前で、光線によって作られた四角い膜が出現した。名を、ビーム・シールドというらしい。

 つちの一撃がシールドにぶつかると、激しい衝撃が起きる。だがダメージはない。


 それどころか、木槌きづちに付着していた魔力構造を分解させた。

「ぐぬぅ!? なんたる能力……!!」

 しかしこの状態の弱点は、防御している間、セツナが不用意に動けなくなるということ。そうしてしまうと、リリアーナに当たってしまう。

 それが分かったのか、レーターは右手を逆立てるように上向けた。

 手の上に棒状の物が現れ、それをつかむ。


 直後、リリアーナの足元に闇の穴が出現。

「えっ……!?」

 そこから伸びたムチのような物体が、彼女の脚に巻き付いた。

「セツちゃ……きゃあああ!!」

 レーターが棒状の物を横へ振るうと、リリアーナは前方へ引きずられ始める。

「リリアーナ様!!」


 彼にとって重要なのは、リリアーナとの接触だ。今のうちにリリアーナを連れ去る算段であろう。

 レーターは黒雲を発生させると、その上に乗る。セツナがいるのとは逆方角へ加速した。



 それに合わせてリリアーナの身体も引っ張られる。

 背中が硬い床に打ち付けられた。

「くっ、ぐぅぅあああ……!!」

 痛みから逃れようと、ジェイドムーンを光らせ、背中に風の防壁を作る。さらに反撃として、ウィンド・カッターの魔法を放つ。

 しかし、消耗しきった今の彼女では精度が足りない。レーターに難なく回避された。

 彼は余裕の表情を見せ、そこから後ろを向く。



 一瞬でその余裕はがれ落ちた。

 セツナも同様に飛行し、レーターを追いかけ始めたのだ。



 飛行は背中のジェット噴射によるもので、付かず離れずの速度を保つ。

 大蛇撃退後に実行した高速移動を使いたいところだが、連発の使用はできない。全身が即座に破裂するという警告文が表示されたので、自粛している。


 レーターは、もう一度棒を振り上げた。リリアーナをもっと自身の方へ引き寄せる。

 徐々にリリアーナが離れていく。今のままの速度では、到底レーターには追いつけない。


 ならばと、足裏にもあるジェットを展開させた。それを起動する。

 今できるだけの最高速度に到達し、間合いを着々と縮める。

 だが炎の勢いは、ときおり途切れ途切れとなる。長時間の持続はできないと考えてよさそうだ。



「なっ──!?」

 セツナのあまりの速さに、レーターは驚く。安心していられる状況はまたも失くなった。

 しかしすぐに、彼女の足裏から炎が出ていると気づく。足さえ取り除いてしまえばと考える。


 闇の力をまとった五本の剣を出現させた。

 それらは円弧を描きながら、セツナのいる方向へ飛んでいく。

 飛行するセツナのあらゆる角度に回り込み、逃げ場を封じる。

 刃は次々と突進した。


 が……全て無効に終わった。

 突如、セツナを囲んで出現した複数の竜巻。それによって攻撃が弾かれた。

 ちょうどセツナの真下に位置していたリリアーナが発動させたものだ。街道を滑る衝撃に耐えながらも、セツナを守ろうと必死になっている。

 しかし、難を逃れたのは一時的なものである。再び剣たちは、セツナの背後や側面を狙うようにして飛ぶ。

 セツナが追い詰められていることに変わりはない。むしろ好機であるとレーターは考えた。

 再び木槌きづちを光らせる。



 上空に、紫色の魔法陣が展開された。

 そこから出てきたものに、リリアーナの鼓動は早鐘を打つ。

 紫の炎をまとった岩石の群れ。

 規模は小さいが、オルドの地に降り注がれたダーク・メテオと同じ性質だった。


「ひ、ははは……!! なんという力じゃ!! 衰えがうそのようじゃわい!!」

 セツナを襲わんと、隕石いんせきたちは、不規則な軌道で急速落下。待機していた剣も、再び突進を図る。

 リリアーナは、セツナの周囲に球体の風バリアを形成。攻撃を防ぐ。

 一年前よりも硬度を上げたが、それもすぐ限界の声を上げる。襲い来る猛攻の数々に耐えきれず、ヒビが入り出す。

 もう間もなく壊れるとたやすく予想できた。


 アンドロイドの身体がどのようなものか、リリアーナにとっては計り知れないものだ。

 これらの攻撃を全て受け、串刺しになっても生き延びられるものなのか。

 怖い。息が震える。また大切な人を亡くすことになるかもしれない。

 力があれば。今度こそ護る。そう誓ったのに……。


「いや、だ……。イヤだ……ッ!!」

 セツナを救うためにはどうすればいいか。戦闘に慣れていないリリアーナだが、思考をフル回転させる。



 あの日セツナを失った。それでも彼女の想いを受け、すがるように何かしようと考えた。

 そうして学んだのが、あの場面で自分に足りなかった治療魔法だった。


 繰り返すかのようだ。今またセツナは死のふちに立たされている。

 覚えたこの技を使って治療できれば理想だが、アンドロイドの身体に効果があるかどうかは分からない。



 ここで、現在のセツナの身体との最初の出会いを思い出す。

 あれは今のような人間体ではない。猫の姿だった。傷を負っていたので治療を試み、完全な回復まではままならなかったが、腹にできていた傷口はふさがった。



 その事実が後押しとなる。

 一年前を思い出し……今度こそとリリアーナは意気込む。

 翡翠色ひすいいろの魔導石を胸元に当て……攻撃ではない。


 癒やしの力として、全ての魔力を解放させる。

 仲介役となったリリアーナの全身が、淡い緑色に染まっていく。

 両手をかざす。そこから光があふれ、セツナを覆っていたバリアをさらに輝かせた。



 暖かな光。中にいるセツナも、表面温度の上昇を検知した。

 そして大きな変化に目を向ける。

 両腕断面が沸騰するように煮え立ち、筒状となって伸びていくではないか。

 やがて形を変え、新たな腕へと再構成された。

 リリアーナの治療によるものだと悟る。見下ろし、目を合わせた。


 汗を大量に流しながらも、リリアーナはほほ笑む。

 先の事象で精神力を消費していたこともあるだろう。気を失った。


 セツナが怪我をしても大丈夫なようにと、鍛錬を続けていたヒールの魔法だ。

 空白の時を経て、完璧に習得できている。その事実が身に沁みていく。

「ありがとうございます……リリアーナ様」

 用意は万端である。セツナの両目は、翡翠ひすいの輝きを見せた。



 絶句したのはレーターだ。

 アンドロイドは人間ではない。人の形を模した兵器……。その認識であるがゆえの動転具合といえる。



 腕の蘇生そせいに伴い、発動可能になった武装名が、セツナの視界内で羅列する。

 そこから二つを選ぶ。まず両手首をぶら下げさせる。

 断面から実体剣が伸びると、両腕を交差させてから左右に振り払った。

 メテオが風の防壁を貫き割ってからすぐ、セツナによる斬撃とぶつかり合う。


 その一撃目だけで魔力の集合は断ち切れた。

 より力がこもった途端に、岩石はバラバラと化す。

 勢いもそのままに、自身の身体をさまざまな方向へ回転させる。メテオと闇剣を切り伏せていく。

 消失と出現を繰り返しているような速度だ。縦横無尽の連閃れんせんが終わった後、セツナの周囲をがれきと魔力の破片が漂う。


 レーターが唖然あぜんとしている間に、セツナは右手の実体剣を収納。

 そのわずかな穴から、ワイヤーとつながった二本の小型ナイフを飛ばす。

 レーターの右腕と腹部に命中する。

「ぐぎっ、あああ……!? き、貴様ァァァ!!」

 巻尺の要領でワイヤーを巻き戻す。その線を辿たどるようにして、セツナの身体が急速接近を始めた。



 レーターは、リリアーナを引き寄せていた棒をついに投げ捨てる。今の状況からの逃避を優先し始めた。

 身体に刺さったナイフを外そうと、それをつかむ。


 直後、金属部分から電流が発生。

「うぎぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 全身を貫く衝撃と痛みに襲われる。

 その間にもセツナの加速は続く。まだ剣を出したままの左腕を振りかざす。


 苦悶くもんのレーターだが、度胸は持ち合わせていた。

 思うように動かない右手を必死に持ち上げ、刺さったナイフを引き抜く。その勢いのまま、セツナへと投げつけた。

 投てきは回避されたが、二本のナイフがそれぞれ真逆の位置にあることで、飛行するセツナは体勢を崩した。空中で大きく背を反らす。


 レーターにとってはこの上ないチャンスだ。つちに闇の魔力を集め、距離を詰め始める。

 魔力の軌道が読まれているのなら、近接で魔力を当てればよい。そう判断しての行動だ。

 両者の間隔が限界まで縮まる。めた魔力を、相手の頭部へぶつけようと手を伸ばす……。



 それはセツナ本来の間合いだった。

 自前の反射能力で、瞬時に身体へ捻りを加える。回避とともに、腕を横に大きく振る。

 セツナの左腕から伸びる剣が、レーターの首元を狙う。

 それにより、彼は防御を余儀なくされた。木槌きづちと実体剣とが激しくぶつかり合う。


 しかしセツナの回転はまだ止んでいない。

 勢いづいた左足の蹴りが、つちを持つ右手の首に直撃。

 レーターは衝撃で武器を落とす。同時に身体も仰け反った。

 そうして間もなくのことである。



 レーターの右肩より下が、裂けるように分断された。

「な……にィィィィィィィ!?」


 えぐった正体は、彼自身が投げ返したセツナのナイフだ。

 セツナの体内から伸びたワイヤーとつながっているそれは、彼女が横に回転したことで新たな軌道を描いた。

 そうして飛び戻ってきたのだ。レーターはそれに気づかず、直撃を受けてしまった。


 セツナの瞳が標的を捉える。足裏のジェットから炎を噴かせ、さらに回転の勢いをつける。

 右足によるもう一段階の蹴りが、レーターの顔面を襲った。

 鼻っ柱やあごなどへ強力な打撃を与える。そのうえただのキックではない。



 足裏から噴射されたジェットによって、皮膚の表面を焼きあぶったのだ。

「い、ぎぃぃ……あぁぁぁあぁぁああぁぁ!!」

 肌がゆがみ揺れるまま、突風のような勢いで斜め下へたたき落とした。


 地面へ墜落すると、バウンドを繰り返して転がってゆく。仕舞いには、街壁沿いの商店に置いてあった木箱に衝突。

 木片を辺りにぶちける。ようやく静止したころには、もう身を起こすのがやっとの状態だった。

 一方でセツナのほうは、レーターから少しだけ離れた位置で着地。飛ばしたナイフをワイヤーで引き寄せ、体内へ引っ込めた。


 すぐ傍に、切断されたレーターの右腕が落ちていた。治療の魔法さえ使えば元に戻ってしまう。

 したがって、そうならないようにする。もののひと踏みで、原型を留めなくなるほどに変わった。


 商品棚にもたれかかっているレーターを直視する。

 彼は、消えた右腕を眺め、放心状態となっていた。

「ワ、ワシ……。ワシの、利き腕……」

 顔の皮膚が半分ただれたことなど気にしていない。自身の能力にれ込んでいた彼にとって、片腕が失くなったことこそ最も辛いことなのだろう。


 彼がこれまでしてきたことは冷酷無慈悲である。ゆえに容赦なく処刑を実行しようとも考えた。

 しかし公衆の面前で殺人を行えば、いま以上に自分の立場が悪くなる。つながるのは、リリアーナが悲しむ姿だ。やめることとした。

 それとは別に、彼には聞いておかなければならないことがある。ひとまず近づき、彼を見下ろす。


「リリアーナ様に脅迫状を送ったのは、あなたですか?」

 オルドで結婚式を開く羽目になったのは、あの脅迫状のせいである。届いた時点で犯人の憶測はできていたが……。

 レーターは目をきつつ、まだ意地悪く笑ってみせた。

「貴様の鼻っ柱を……へし折るためになァ!! 苛立っている様を見るのは、実に心地よかったぞ! ふふ……!!」

 セツナの推理どおりだ。



 今となっては、そうであってほしくはなかった。

 その後に起きた事件が、実に不可解なものとなるからだ。


「オルド襲撃を計画したのも?」

 セツナを含めて、多くの者が死んだ。

 実行犯はステラだったとリリアーナから聞いたが、その動機は不明だという。



 問われたレーターは、明らかに口の回りがにぶくなった。

「し、知らん。あれは……」

 試しに、剣を出したままの腕を振り上げてみる。

 すると残っている手を顔の前まで持っていき、情けなく叫びだす。

「考えてもみろォ!! 結婚の式を台無しにして!! ワシに何の得があるゥ!!」


 実際そうなのだ。リリアーナを子産みの道具にしようとしていたのが、もともとのレーターである。

 そう考えれば、この老人がオルドにメテオを落とすよう命じたとは思えない。

 なにか、底知れぬ悪意を感じる。いったい誰が……。


 思考を巡らせながら、辺りを見回す。

 人々の視線が、セツナとレーターに集中している。

 よみがえった罪人と、無惨な姿の王族。注目しないほうがおかしい。

 聞きたいことは聞けた。再びレーターを見下ろし、冷たく言い放つ。


「あなたの悪逆は周知の事実となりました。おとなしく裁かれてください」

 剣を収納し、背を向けて歩きだす。


 彼女が近づいてきたのを見て、人々は後退あとずさりする。中には、尻もちをついて逃げる者まで現れた。

 騒ぎ立てる一方で、セツナは自分が何を言われようと全く気にせず。

 ただリリアーナへの心配だけを懐き、歩いていく。

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