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クレセント・リバース 未来の猫と大罪人  作者: 亜空獅堂
第十八章:どちらか一人
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第六節(了) アーガランド帝国、跡地にて

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 夢を見ることもなく、ハッと目を覚ました。

 ダガンは、どこかの建物の屋根の上……。おそらく黒金塔と思われる場所で横たわっていた。

 周囲を見回し……。その変わり用を目撃してしまう。



 帝国のありとあらゆる建物が、火にくべられているではないか。

 地上でまばらに見える影はさまざまな遺体だ。氷漬け、串刺し……。地に埋められている者もいる。

 彼方此方からは砲撃音が聞こえる。帝国の軍隊が、大砲で魔力保有種の集団に応戦しているのだろう。



「おはようございます」

 ダガンは慄きつつ……横を見る。

 災厄の首謀者、魔女リリアーナが、余裕たっぷりの表情で立っていた。北の方角を見つめている。

「あれを見て?」

 そう言われても、今の体勢では何もできない。足首を噛まれたために立つこともだ。

 血まみれの足を引きずりながらもそちらの方へ向かう。



「ぬっ……!?」

 一目見れば異常だと分かる動きだ。

 魔力保有種がみな、王国の外……。北へ北へと歩いていく。


 人間は葬り、魔力保有種は自分の配下とする……。

 私怨が動機なのかと頭をよぎる。

「何が目的だ……。人間に恨みでもあるのか!?」

「今の君たちにはないよ」

「では何故だァッ!!」



 裏返る声を魔女はあざ笑った。

「そうしないといけないから」



 魔女は後ろを向くように視線を動かし、うんうんと頷く。

「もう。分かってるよ。今やろうとしてたところ」


 誰と話しているのか……。

 疑問の答えが得られるわけもなく、魔女が右手を高く掲げた。



 転移術や、過去の回想を見せたときの物とは比べ物にならない……。

 空を塗り替えるほど巨大な闇のホールが出現する。



 そしてそこから。

 縦に長い、先端が三角状の形をした何かが……ゆっくりと落ちてきた。

 カナリアの肩から発射される、追尾型の爆発物と酷似しているが、その大きさは桁違いだ。



「い……いったい……」

「未来の大人たちが、見せびらかすためにがんばって作ったオモチャですよ」



 魔女はテレポートで消失。

 異形の兵器が、黒金塔の天井と接触する。




 空気の弾ける線が見え……。

 一瞬でそのエネルギーが膨張した。


 ダガンが最期に見たのは、愛した妻との想起などではなく……。

 灼熱の中にある白のみだった。





 お仕置きの末に脱出を許可されたカナリアは、ルミナスを抱えつつ北へと向かっていた。

 まだ痛みが収まる気配はないが、早く逃げなければ大変な事態になる……。



 木々の波打つような揺らめき。そして遅れてやってきた轟音……。

 離れているはずなのにその衝撃が伝わり、行進していた魔力保有種たちは転倒を繰り返す。

 ルミナスもその重い風を浴び、息切れを起こしていた。



 振り返ったカナリアは、立ち込める赤の景色を目の当たりにする。

 ミサイルの破裂によって生じた爆炎が、縦にも横にも広がり、帝国中を呑み込んでいく。

 辛うじて生き延びていた者も、隠れていた者も、結局は助からない。みな仲良く消し炭と化す。


 未来世界で核保有国から持ち出した、簡易的な水素爆弾だ。

 カナリア達が生まれた世界と比べれば国の規模は小さい。とはいえ、小国を丸々吹き飛ばすほどには強烈な威力を秘めていた。


 改めて人類は、魔法など無力に等しい、化け物と化すのだと思い知らされた。




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 絶望の叫びが脳内で反響する。

 リリアーナは何かを察知した。汗を流しつつ頭を押さえる。



 腹の奥底に邪悪が入り込んだような、そんな感覚だ。

 リリアーナ一行は、装甲車両に変化したセツナの中に乗っている。


 あるじの異変を、セツナが敏感に感じ取る。

『大丈夫ですか?』

「どこかで……酷いことが起きてるような気がする……。王国じゃないどこかで……」


 壁に寄りかかっているロゼットが指摘する。

「魔女様が大暴れしてるんだろうよ」

 そう断定できる証拠は無いが、何かしらの確信を得ているのだろうか。



 ともかく、リリアーナはロゼットの方を向き、身を乗り出す。

 無愛想な顔を見た途端、ふふ、と笑ってしまった。

「なんだその顔は」

「ん? いっしょに来てくれるなんてねー、と思って」

 言い返しはしてこないが顔を逸らした。



 診療所が丸ごと焼き払われるという攻撃を受けながらも、今こうして目の前に彼がいる。

 あの別れから本当に再会を果たせたというのは、軌跡のような巡りだ。

「生きててくれて……ほんとによかった」

 エキュードの無念な想いをようやく繋ぎ止められると思った。

 ロゼットは横目でリリアーナを見て……ふんと鼻を鳴らす。



「どうだかな……。俺は死んだも同然の存在」

「え……?」

「あと一回死ねば……。もう精神の原型を保てない。テメェらと話すこともできなくなる」



 なにやら深刻めいたトーンで妙な発言をされた。フェリシィは首を傾げる。

「当たり前のこと言わないでよ。笑えない冗談!」

「俺は異空審問官の拠点で二度目の死を遂げた。もう俺の中には、あと一命ひといのち分の魔力しか残っていない」



 車内の全員がロゼットに視線を向けた。

 ライラックの目が点になる。

「はあ?」

「いやいや、ロゼットくんはこうして生きて……」




 無愛想な顔つきだと思っていたが、実際にはそうではなかった。

 彼は深刻な表情を変えていなかったのだ。

 反対に、リリアーナの笑顔が震えていく。

「生きてるん……だよね……?」

「本当にそう思ったのか?」

「っ……」

「あの砲撃を見てか?」



 欠片も残らず散っていった……診療所の有り様が頭をよぎる。

「だ、だってそんな……!」

「あの日、あの瞬間。俺は強すぎる魔力を浴びて死んだ。だがこうして地に足を付けている」



 身体ごとリリアーナの方へ向ける。

 悍ましい現実を口にしているはずだが、彼の瞳は……まだ死んでいない。

「それが鍵だ。魔女を倒すための……最後の手段になるかもしれない」

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