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僕らの時代、土手下の大砲  作者: でー・ふぉっかー
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One day on the bank

何とも心地の良い昼下がりであろうか。

程よく風が吹き、どこからともなく小鳥のさえずりが聞こえる。

珍しいことに心持でさえ穏やかである。

いつまでもこうした心持で土手に寝ていられたなら、きっとさぞかし幸せに違いない。

帽子を目深にかぶり寝ようと思うと横で何やら物音がする。

誰かと思って体を起こすとタバコをふかしている多田であった。

彼は僕と目が合うとこれもまた珍しいことにタバコを1本差し出してきた。

ケチ臭い彼がわざわざタバコを寄越すなんて余程機嫌が良いのだろうか。

普段であればあまり吸いたいと思う代物ではないが折角だし礼を言って有難く頂戴することにした。

火を借りてなるべく肺に入らないようにゆっくりとふかす。

ゆっくりと煙を吐き出すと白い筋が風に揺られながら登ってゆく。

縁起でもないがまるで線香の煙のようでもあった。

あまり上等なものではないようだがメンソールが入ってないだけマシだろうか。

「いい日だと思わねえか、なあ重井」

「ああ、全く」

彼は目を閉じ煙をくゆらせながら

「然し、なんで俺たちはこんなことをやってんだろうな」

と誰に言うでもなくぼやいていた。

「さあな、なんかの間違いじゃあねえのか」

と返すと彼は鼻で笑い

「それじゃあ何だ、俺が馬鹿だって言うのか」

と言うから

「無論、あんただけじゃあなく俺もだろう」

と返すと彼は頷きタバコをもう1本取り出し火をつけた。

僕は短くなったタバコをもみ消すと仰向けになり空を眺めていた。

所々に雲が浮かんでいる他は何もない青い空。

どこまでも続いていそうな青い空。

空が青いのは光の分散だとかいう話を聞いたような気がするがいつのことだろうか。

あれは確かまだ中学の時だろうか。

遠い昔を思い出すような感じがしたがまだ10年も経っていない。

僕はいつの間にこんなに大きくなったのだろうか。

いや年老いてしまったのだろうか。

自分はまだ19の青年なんだと言い聞かせるように目を閉じた。

そう、まだ厳密には僕らは大人ですらないんだ。


僕らがこんな良い心持で土手に転がっていられるのは偶然であった。

本来であれば僕らは汗みずくになって対戦車砲を動かしているころだろう。

事実昼前まではそうだったのだが教官が緊急の用だとかで帰ってしまった。

そんな訳で僕らは教練の残り時間を自由に使えることになった。

大半の連中は宿舎でトランプでもしているのだろう。

僕はいい天気だったし折角なら昼寝でもしようと思い土手に来たのだ。


横をちらと見ると多田はもう寝ていた。

彼は僕の同期で歳は1つ上、頭が回るやつで面倒臭いところもあるが良いやつだ。

草が風で擦れる音がする。

僕は考えをまた空に戻すことにした。

鳥が高いところを飛んでいる。

鳶だろうか。

上へ上へと上がっていく様は何とも美しい。

僕もあんな風に自由に飛び回ることができたらさぞかし楽しいだろう。

いや、僕とは違ってあんな風に飛んでいれば色々と面倒なことを考えなくてもよさそうだと思った。

僕は最近色々と考えないといけないことが増えた。

そういうことは何時か決めなくてはいけないのだがそう簡単に決まることでもないし考えていても到底愉快な事ではない。

色々と頭に浮かんできたがそういったことを振り払うように帽子を被りなおした。

ゆっくりと目を閉じる。


どのくらい経ったのだろうか。

体を起こし伸びをする。

日が少し傾いた気がする。

腕時計を見ると3時前であった。

そろそろ格納庫に戻って砲の点検と清掃をしなくては。

後2,3時間もすればこの場所から離れられる。

多田を起こして僕らは格納庫へ戻ることにした。

彼はタバコとライターを胸ポケットに入れると立った。

僕も立ち上がり草の切れ端を払う。

ふと空を見上げる。

相も変わらず空は青く鳶は自由に飛んでいた。


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