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Episode 5 見えない力

~語り手~



…ん?なんだい?





19年も力を付けてるのにいつまでも変わらないなんておかしいって?









うーん…たしかにね。

でも、力を鍛えるだけじゃ本当の強さや力は手に入らないんだ。


それにグロストはまだ気が付いていない。




えっ?君にも分からないって?


そのうち分かるときが来るかもしれないよ。


さ、話を続けよう。


この後グロストは3日眠り続けた。

ずっと強い力を放出してしまったからね。

確かに破壊軍に殺されずに済んだ。


でも力を使うたびに彼の命は間違いなく削られていると思う。




意外とね、単純なんだよ。男って。

僕も男だけどね。

単純だから真っ直ぐなんだ。

だからグロストはそれからも自身の力を鍛え続けた。

何度も限界を超えるような修行を重ねた。


力に頼らなくても破壊軍と戦えるようにするために。



魔力、身体能力。

約30年間鍛え続けたその身体は最強だ。

でも、破壊軍にはまだ届かない。だから鍛える。



しかしここから更に7年。

彼が77歳の時、ある事を経験する。

この経験が力の制御に繋がると気づいたのはもっと先だけどね。


さぁ、ページを開こう。



Episode 5 見えない力














あれから7年。


グロストは77歳になった。

相変わらず同じ場所で修行に励むグロスト。


地耐え上げられた強靭な肉体と大きな魔力。




これだけの力があってもなお…




「グッ…!」



力は未だに使いこなせない。





「何故だ…!何故使いこなせない…!もう30年を超えたのだ…!なのに何故なのだ!!」


身体


蠢く力はあざ笑うようにグロストの身体を痛めつける。

激痛に何度も耐え、時には何もしていないのに急に力が暴発して我を失ったりすることも増えた。


グロストの精神状態が不安定なのだ。


どうやら力は精神が大きく関係しているようだ。

しかしグロストはそれすら気づくことも無かった。


はっきり言うと、単純すぎて、馬鹿だ。





「…」


この日の夜は月明りがよく森に伝わる明るい日だった。


白い月光が森を優しく包み込む。


生き物の鳴き声を聞きながらグロストも眠りにつこうとしていた。




目を閉じて、大木に背を置いて、目を閉じる。


「…何だ…またお前か…」


身体を伝う感触。




グロストの身体を伝ってくるのは小さなモンスターだ。

人懐っこい性格のようで、グロストの巨体など恐れることもなく、身体を伝って、肩へ髪をかいくぐって顔に寄り添う。


ちょっと胴長な小動物のような。そう、イタチのような姿の小動物だ。



「…お前はいつも夜になればここに来るな…。何故だ…?……いいや、モンスターには伝わらんか。」


小動物は首をかしげながらも、グロストの顔に寄り添う。


さらさらとした毛並みがくすぐったいのか、グロストはつい目や鼻を動かしてしまう。


「…少し離れろ…」


グロストは小動物を掴んで足元へ投げた。

しかし小動物はまたすぐに登ってこようとする。

グロストはガッと口を開き、微弱な雷を身体にビリッと走らせた。


小動物は一瞬驚くが、今度は足に顔をよせてすりすりとする。


「…何なんだ…助けねばよかったな…すっかり懐かれてしまった。」





―――時間は1年ほど前に遡る。






夜間、今日と同じように月明りが強い日。

修行をしていたグロスト。


木々をその剛腕で叩き割り、力を放出し、真っ黒に染める。

落ちてくる葉を雷で1枚1枚焼いていく。


「…まだだ、この程度では。」


ゆっくりと倒れていく黒い木。


その先にその小動物が居た。


「!」


咄嗟に身体が動いた。

小動物を覆い、自身が木に直撃した。


痛みはそれほど感じていなかった。

木がぶつかったぐらいでは痛みを感じないほどグロストの身体は鍛えられていた。


「…俺は…何を…?」


小動物は嬉しそうにグロストの身体を駆けまわる。

助けてくれたと自覚しているようだ。


その命の危機を作ったのがグロスト自身であることを知らないのだろうか、気づかなかったのか。



それ以来、夜になったらひょっこり現れてはグロストに懐いてくるのだ。


夜行性なのか、夜しか現れないが、不本意ながらグロストの唯一の話し相手だ。

勿論相手には届いていないだろう。

だが、生き物は逃げない。

敵意を示さぬ限り。


つまりグロストも追い払おうとはするが敵意が無いと小動物は知っているのだろう。

決してこの生き物も馬鹿ではないということだ。



「…まぁ良い…好きにしろ。」



目を閉じるグロスト。


だが小動物はずっと足だけでなく身体中をすりすりと。


くすぐったくて眠れないグロストだった。

「…おい、少し落ち着け…おい…!」

グロストはまた力をバチッと放出。


「…こいつ…動じもしないだと?」

ついには関係ないねと言わんばかりの余裕の表情。


「…全く…本当におかしなやつだな…」

グロストに小さな笑みが浮かんだ。


(…俺は、笑っているのか?…こんな感情は本当に久しぶりだ…?なんだ?身体が楽だ…)


グロストに異変が。身体が楽なのだ。

いつも感じている光と闇の力のそう反する感覚が少しだけだが和らいでいるのだ。


「…どういうことだ…?」




グロストは1年前を思い返していたら、いつの間にか眠っていた。




翌朝、少々不愉快な音が森を飛び交った。




“パァン!!”



その音で目を開けるグロスト。



小動物は居ない。

もう自分のねぐらに帰ったのか。

グロストはゆっくりと起き上がる。



“パァン!”


また音がした。

「…これは武器の音か…?銃声にも聞こえたが…」



人間が持つ遠距離武器である魔法を使った銃。


引き金1つで生命を奪える兵器だ。

魔法エネルギーを凝縮させ、引き金を引くとそれは強力なエネルギー弾となり放たれる。

いわば、魔法を使った銃だ。




“パァン!!”


「…騒がしいな…様子を見に行くべきか…修行の邪魔をされても困るからな…」


少し様子を見に行くことに決めたグロスト。


しかしグロストはそれと同時に違うことを考えていた。

それは小動物のことだ。


もし今の銃声が、狩人たちのお遊びなどによるものであるならば小動物とて危ないかもしれない。


どうでも良いことのはずだがグロストは何故か気がかりとなっていた。


密林の入口付近まで歩くと銃声が近くなってきた。


まだ奥までは入っていないようだ。



「…あれか…?」




奥に居たのは人間の3人組。

持っている魔法銃で、威嚇発砲をしている。


生き物やモンスターたちが恐れて逃げ出している。



「ハハハ!たまらないなこの生き物が逃げ回る様はよ!」

「ホントだな。いやぁ、楽しいぜ。」


2人は凄く乗り気だ。

生き物やモンスターの足を狙って発砲している。

動きが取れなくなった相手に銃口をくっつけて



“バァン!”


発砲。




「ハハッ、楽しいな!こんな腐った世の中も捨てたもんじゃねぇな!」

「お、お前らおかしいだろっ!」


残りの一人が言う。

「ああ?何が?」

「お、俺は生き物やモンスターとたわむれに行くって言うから来たのに…!何でこんなひどいことしてるんだよ!」


「たわむれてんじゃん。ほら、こうやって。」

“バンバンバン!!”


何発も放たれる魔法銃のエネルギー弾。

生き物たちやモンスターたちが次々と腹や頭を貫かれて死んでいく。


「や、やめろよぉ」

「フン、臆病もの。」

「だったらそこで待ってろよ。これは俺たちの娯楽なんだよ。」




2人の狩人は娯楽として生き物を殺していた。

この世の中だ。快感を求める人が現れるのは分かり切ったことだ。


グロストはそれを見ていて何やら怒りと焦りがこみ上げた。


「……何処だ…?あいつは…」


グロストは小動物を探しに森を歩いた。


1年は一緒に居た。だがどこが住家かまでは分からない。


「…居た…あいつだ…」


森の奥へと向かうと、小さな巣。

そこにはいつも毎晩自分の肩や、足、胸元に乗っかって懐いてくるあの小動物が居た。


巣…と言っても1匹だけだ。

他の家族は居ないようだ。


1匹でずっとここで暮らしていたらしい。


「…俺だ、お前、すぐにここから離れろ。殺されるぞ。」


言葉は通じないかもしれない。

だが伝えようと思ったのだ。

小動物は何かを感じ取ったのか、急にグロストの前を走り抜けた。


そしてグロストの胸元に飛び乗り、口元に顔を当てた。




「っ…何を…?」


グロストが驚く姿も見ず、小動物は、グロストの肩から茂みの外へと飛び出した。


その瞬間聞こえたのは虚しい音だった。












“パァン!”




「ッ…!」


茂みから小動物が吹き飛んできた。

グロストの胸元に支えられた小動物は、小声で小さく鳴いた。


「まさか…俺を…守ったというのか…!?」


呼吸が段々弱くなる。


(はーはは!決めたぜ今!小さい生き物だが貫いてやったぜ!)

(モンスターの分際で飛び込んでくるなんて愚かだな!滑稽だぜ!)


すぐ後ろに狩人たちの声。

撃たれたのだ。

気配を感じ、グロストを守るために立ち向かったのだ。



「…何を…馬鹿な事を…あの程度の銃では俺は痛くもない…だがお前は…」


グロストの肉体に銃はもはや無意味だ。30年も鍛え上げた身体の前ではうまくいってもかすり傷程度だろう。

だというのに小動物はグロストを守るために自身を盾にしたのだ。




「……」


小動物は息を引き取った。


最後までグロストを見て、そして気持ちよさそうに眠った。




「おい茂みに誰かいるぜ!」

「よーし俺に任せろ。」


声がする。

グロストは思い出した。






“あの日”を





「グロスト…生きなさい……!」





グロストは母のことを思い出した。


あの日破壊軍に殺された母のことを。


「……」


1年だったが、グロストの話し相手になっていて、そして、最後まで守ってくれた。

そんな小動物にも、母同様に、好きでいられた自分が居た。


だからこそグロストの中にあったのは

強い悲しみ


そして










「…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」








強い怒りだった




「な、何だ!?うわぁっ!!」


突然茂みから強い爆風が2人を襲った。

吹き飛んで地面に倒れる2人はすぐに体勢を立て直した。


その奥に居たのは…




大きく翼を羽ばたかせたまま、猫背のような姿で背中を丸め、唸るような声。

そして身体中に纏う雷。

だが今回は真っ黒な雷だけでは無かった。

そこにはわずかに白い雷が混ざっており、いつもと違った。それだけではない。


「…貴様ら…絶対に…許さんぞ……!」


そう、本人は無我夢中だから気が付いていないが…

本来制御出来る力を上回っているグロストだが、なんといつものように自我を失っていなかった。


眼は相変わらず真っ赤に染まっていたし、雷ははじけ飛ぶように暴れ狂う。

制御は完全には出来てはいないが、自我が失われていない。

そしていつも暴走した時の雷は真っ黒なのに、今回に限って混ざる白い雷。


明らかに今回のグロストの雷は違った。



「グオオオッ!!」



グロストは狩人の方を向いて、強く地を蹴り、滑空。


「わ、わあああ!!」

狩人は魔法銃を撃つが、そのエネルギー弾はグロストの身体に当たっても、全く無傷だった。

そしてあっけなく1人の首がグロストの剛爪に裂かれ、宙を舞った。

鮮血が飛び散り、血の雨となり降り注いだ。


「……汚い血だ……!」


「ひいいいい!!」

もう一人は逃げようとするが、足がすくんで動けない。


「わわわわわ…悪かったから!許してくれええええ!!!」

グロストは赤く染まった目でもう一人の狩人を強く睨み、顔をわしづかみする。


「~!~!」

口封じをされ、喋れない。


「許せだと…?」



グロストは狩人を思い切りぶん投げた。木に強く叩き付けられてせき込む狩人。



「…貴様は許されるに値するのか…?」

「ぎゃああああああああ!!」


グロストの雷が狩人に注がれた。気絶することすら許されない激しい雷が流し込まれる。


「貴様がやったことと同じようなことを今俺が代わりに貴様にしてやる…!」


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!!!11」

グロストは狩人の両腕を掴み、握りつぶした。


叫ぶ狩人にグロストはニヤリと笑って見せた。

そして…

「ぎゃっ!ぎゃあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

ブチッという音と共に、狩人の両腕は宙を舞った。

血の雨を浴びながら笑って見せるグロスト。


そして頭を踏み、跪かせ…


「どうして欲しい、この銃で撃ち殺してほしいか…?」


グロストは傍に落ちた銃を拾って、銃口を狩人の頭に突き付けた。



「タ、タスケ…」


「なら永遠に楽になって神様にでも天国に行かせてもらえるように命乞いするのだな…!」

銃に雷エネルギーを装填したグロストは引き金を引いた。


激しい光と共に狩人の顔を貫き、大地に大穴を開けた。






「…ハァ…ハァ…グッ…ハ…!!」


激しく息を荒げるグロスト。彼を纏っていた雷が消え、ガクンと崩れ落ちた。




「何だ…今のは…」


グロストは手を前に出す。

「ヌウウウ…!」

本来の力の3割がいままでの限界だった。

それをグロストはあえて超えさせる力を発動させた。

するとどうだろう、グロストが今出している力は全体の4割程度だ。


しかし、痛みが無い。自我も保てる。


しかし4割を超えると強い激痛がグロストを襲った。


だが、今まで以上に力が引き出せるようになっていたのだ。


「……見えない何かが…働いたのか…それは一体…?」



グロストはそこで思考を止めた。

他にすることがあると思ったからだ。

グロストは小動物の元へとフラフラとしながら歩いて行った。



そしてそこで膝を付いた。

「……お前は…俺に一体何をしたんだ。」


グロストは爪で土を掘り、そこに小動物を埋めてあげた。


「分からない。お前が俺に絡んできた時の少し不思議な感覚。そして力のこと…だが…今もそこに居るのなら…こんな愚かな俺で良ければ…守ってくれ…」

グロストはいつもそこに居た肩に手を当てて呟いた。




「こ、これは…!」


「…!」

もう一人の人間だ。

狩りには乗り気では無く、置いてけぼりにされた人間だ。


「ど、どうしてこんな…うそでしょ…!?こんなことって…!」



グロストは悲しみに暮れる人間を影から見た。

あんな酷いことをしていて、のけものにまでされたのに何故あそこまで悲しみに暮れているのかが理解出来なかったが、もはやグロストには力を出す体力が無かったので、そのままその人間を放置した。







そして彼はこの森を去った。






長く過ごしてきたこの森を後にし、新たな居場所を探した。








新たな場所で新たな力の加減の調整と修行に再び時間を費やした。



そしてそれから1年…




彼はついに平和軍の本部へと再び足を踏み入れた。












「希望者はこれだけか?それではこれより、平和軍、入隊試験を始める。」





Eisode5 END





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