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Episode 4 束の間の進化

語り手








時は前のお話から19年後。


光と闇の力を持つ復讐鬼グロストは70歳になった。


すっかり大人の風格になったグロストは未だに力を制御出来ずに苦しみを抱えていた。





そしてその間に破壊軍も徐々に力を付けていた。






そうだね、此処で少し破壊軍について説明しようか。


破壊軍は、ある日突然この世界に現れた、心と肉体を持たない謎の軍勢。


重厚な鎧に包まれているのは魂のみ。




君も聴いたことはあるかもしれないけど、僕たち生物を構成してる3要素を知っているかな?




まず1つ。

“肉体”


目に見えるもの。皮膚、筋肉、臓器等、これらは全て肉体に分類される。


次に

“精神”


目に見えない、五感や感情等は全てここに分類される。


最後に

“魂”


生物の核と呼ばれる部分であり、ここは、肉体と精神が一緒にあることで維持が出来るものだ。


肉体は魂を維持し、精神は生物としての存在を提示させるもの。


肉体を失えばもちろん魂は失われ、“死”を迎える。


精神を失えば、魂は残るものの、生物としては存在意義を失う。いわゆる生きた人形のようになってしまう。“死”に等しいようなものだ。


これら3要素があって、僕たちは“生物”として存在出来るんだよ。




破壊軍には魂しかなかった。

肉体が無ければ魂は存在を維持出来ないはずなのに、何故破壊軍兵士たちは魂単体で生を全うできるのか。

これはあの闘いから長い時間が経った今でも分かっていない。


とにかく、彼らには肉体も無く、精神も無いわけだ。


つまり引き裂く肉体も無く、痛みなどの感覚も、感情も。

これらが全く存在しない。



魂が尽きるまで、彼らは動き続けるんだ。


だから平和軍はずっと劣勢だったんだ。平和軍は生物しか居ないからね。

破壊軍とは違い、心もある。恐怖もある。体力もある。


これらを持たない破壊軍とは戦闘能力的には圧倒的に劣勢だったんだよ。



でもこの時期、破壊軍の侵攻を食い止めていたのが、ゴードス。

彼は平和軍の将軍として赴任し、壁の向こうから攻めてくる破壊軍を迎え撃っている。


その身体に宿した強力な灼熱の力で魂ごと鎧も溶かし尽くした。




話が長くなったね。



では、グロストのお話を見ていこうか。




Episode 4 束の間の進化






あれから19年。

人々の領地はまだ変動を見せていなかった。



平和軍に赴任した将軍ゴードスのお陰で、人々の領地は19年経っても侵されることはなかった。




破壊軍自体も徐々に力を付けてきているようだ。


最初は空を飛ぶ破壊軍は存在していなかった。

しかし破壊軍は飛行能力を身に着けた。

壁を飛び越えてくるようになったのだ。


その度に平和軍兵士たちが迎え撃っていた。


人々はその度に犠牲を払いながらも防衛に徹していた。




破壊軍に1人で対応できるのはゴードスただ一人。


彼の存在こそが、今の生物の希望だった。








19年前、破壊軍をこの手で滅ぼさんと門前に立ったグロストは、問題を起こしてしまい、門前払いをされてしまったうえに、ゴードスの手により負傷まで負ってしまった。



力を付けて再び挑まんと誓ったグロスト。


それから19年。



グロストは世界の最東北端の地へと移動し、そこで力をつけていた。




濁ってしまった海の近くに生い茂る密林の中でグロストは暮らしていた。



未だに支配できない力のコントロールに全力を注ぐ毎日。

肉体の強化もひたすらにこなし、前よりも力を鍛え上げた。




周囲は真っ黒になった焦げて燃え尽きた木々が並ぶ。

グロストの修行の際に燃えた木々だ。

制御の効かない力を抑え込むのに時間を要し、辺りに被害を与えてしまう。



「…駄目だ…この程度では…!」


グロストは破壊軍が力を増しているのは知っている。


完膚なきまでにやられたゴードスと匹敵する力を得ている破壊軍と対抗するためには、ゴードスを超え、更にもっとその上の力を得なくてはならない。



もちろんグロストはその力を持っているのだ。

だが、制御の効かない力故、自身を破滅させてしまいかねない。


未だに3割以上の力を繰り出せない力をなんとしてでも使いこなすために、ずっと修行を重ねている。


何十年もの時間を賭けても一向に上達しない力。

しかしグロストは諦めなかった。


それほどまでにグロストを駆り立てる怒りと憎しみの力は計り知れないものであった。



グロストの居る場所は、生物最後の拠点ともなりうると言われている場所。

最東北のエリアだ。



しかし破壊軍は進化を遂げている。


もしかしたら…



平和軍はもしものことを考えていた。




そう

破壊軍がいつか泳ぐ術を身に着け、海からやってきた場合のことだ。



1度に2か所もゴードスは派遣出来ない。


双方で攻められたら北からも攻められてしまうことになるのだ。


そうなってしまえば人々はもっと劣勢に追い込まれてしまう。




もちろんグロストはその発想は無い。


安全な場所で己を鍛え、強くなることと、それを駆り立てる怒りと憎しみしか持ち合わせていなかった。






しかしそんなグロストも時には風に当たりたくなる時があるようだ。




グロストは海に来ていた。

曇り空、やや荒れ気味な海にグロストの伸びた赤い髪の毛が靡き、強風にあおられる翼を持ちなおした。


ズシン、ズシンと歩く音に地が揺れる。


グロストの身体は常人の竜人を超えて大きい体つきだ。

重量も重く、その足音だけでドラゴンクラス。


砂浜の小さな砂が震動で舞い、風でちりちりと吹き飛んでいく。



「…フゥ……」


ため息をひとつ。

グロストが起きている間の唯一の休憩時間だ。


しかし今日の海は何処か変だとグロストは感じていた。

天候が悪いからだけでは無い、感覚的に妙だと感じていた。


「…おかしい、何か…闇を感じる…この感じは、似ている。」


グロストには感じるものに心当たりがあった。


そう思ったその瞬間…

「何っ!?」


水しぶきが大きく舞い、そこから現れたのは巨大なドラゴンの形の鎧を纏った破壊軍だった。

赤い眼光がその証拠だ。


「馬鹿な…!破壊軍にドラゴンだと…!?いいや、こいつは…!」

破壊軍のドラゴンが水しぶきと共に振り降ろした爪を交わし、体勢を立て直したグロスト。


「こいつは…内側に魂だけを纏った破壊軍…!」


新種だ。


今まで破壊軍にドラゴンは居なかった。

皆人型をしていた。

だが今グロストの前に居る破壊軍は…グロストよりも大きいドラゴンだ。



「グォッ!?」


その振り下ろす腕や振り回す長い尻尾攻撃を間一髪で交わしながらも雷魔法で応戦するグロストだが、大きさが違う。

グロストはドラゴンの連撃を避けきれず、鋭い爪で腕を斬り裂かれた。


「クッ…!ウオオオオオオ!!」


グロストの制御出来る限りの雷を腕に集中させた。

やがてその力は両手に収まり、グロストはその巨体からは想像つかないスピードでドラゴンの攻撃を交わしながら腹部へと翼を羽ばたかせ滑空する。


「くたばれ…!」


まず右手をドラゴンの腹部の鎧へ。

鎧を貫き、その右手から黒の雷が放出され、ドラゴンの鎧の中へと浸透していく。


しかしドラゴンの魂はまだ尽きない。

左手の力をドラゴンに押し流そうとするグロスト。


「グッ!?」

しかし痛みも無いドラゴンは苦しむことも無くグロストの背を斬り裂いた。


「グアアアアアアッ!?」

激しく鋭い爪の一撃でグロストの背から多量の血が噴き出す。


「ガッ…!」

手で腹をわしづかみされたグロストはギリギリと握りつぶされようとしていた。

左腕に宿った力もその場ではじけ飛び、ドラゴンにも感電するが、魂に届かなかったので、ほぼ無傷だ。


「ガ…ッ…!グア…」

ギリギリと潰され、身体の骨がギリギリと音を立て、ヒビが入るのを感じた。


ドラゴンの力は竜人のグロストよりも上だ。

だが鍛え上げられたグロストの身体もそれと匹敵するほどになっている。

しかしその体の大きさと耐久力では負けていた。


破壊軍にドラゴンが居たことは最大の誤算だ。

グロストは雷を放出するが、ドラゴンには全く通じない。



「ここで…死ぬなど…俺は……俺は…!」

グロストは赤く鋭い眼光をした破壊軍ドラゴンを睨み…

そして再び、解き放ってしまった。



「断じて…認めんッ!グオオオオオッ!!」


グロストの力は本来制御できる量を超えた。


グロストの眼が真っ赤に染まり、身体中に真っ黒な雷がバチバチと音を立てた。


「アアアアアアアアア…!!!」

力を放出し、ドラゴンの手を掴んだグロストは無理矢理それを引きはがす。


すぐに距離を取り、更に力を高めた。


大地が揺れ、海が唸り、そして空を覆う雷雲から雷がグロストに引き寄られるように降り注ぐ。


「フキトベ…!!」


右手を前に出し、光、闇、雷。

3つの力がグロストの右手に集う。


右手が力の反動で血を吹きだし、顔や髪、体に飛び散るがそのようなことはグロストはもはや気にも留めない。




右手に集まった光目がけて爪を振り下ろすドラゴンだが、グロストの纏う力が強大過ぎてそれを阻止することは出来なかった。

だが心のない破壊軍ドラゴンは何度も攻撃を試みる。


大地が大きく揺れる。

砂が舞い上がり、激しいうなりがはるか遠方にも届いた。



そう、平和軍にもその地響きは届いていたのだ。





「なんじゃこの揺れは…!?破壊軍か?」

「いえ、ゴードス将軍、これは東北端からです。ああっ、あの雷は…!?」


平和軍の本部からも見えた雷雲。

その雷がある一点に集中的に落雷を起こしている。


「…ワシはあそこへ向かう、すぐに戻る。」

「あっ、将軍!!」


ゴードスは翼を羽ばたかせ、グロストの居る場所を目がけて飛んだ。


(まさか…奴か…!?いいや、何故戦っておるのじゃ…!?まさか破壊軍が海から攻めて来たのか…!?)



ゴードスの悪い予感は当たった。

海からの刺客だ。



グロストに落ち続ける雷はグロストの持つ力を更に増幅させた。


ドラゴンは何度もグロストに攻撃を仕掛けるが、それは全て通用しない。

グロストの眼が大きく開けられ、その大地を揺らす咆哮により右手から巨大な雷が放たれた。


海、大地を巻き上げ、それはドラゴンを見えなくなる程真っ黒な雷で覆った。


ドラゴンの鎧などもはや無意味。


黒い雷は魂など瞬く間に浄化した。

しかしその雷は止まることなく、鎧を溶かし、海中まで降り注いだ。


海中にも破壊軍が潜んでいたようだ。


ぷかぷかと無数に浮いてくるドラゴンの鎧たち。

その数50を超えていた。


もしこれが一度に襲っていたらさすがのグロストでも危なかったかもしれない。




「こ、これは…どうなっとるんじゃ…」


グロストが戦っていた地に着いたゴードスは辺りの状況に驚いた。


大地は抉られ、砂は真っ黒になり、海には、大量の鎧が浮かんでいた。



そして黒い砂浜にグロストは居た。


暴発した雷を抑え込むためにうずくまり、呻き声をあげている。


「…お前さんが…やったのか?」


ゴードスは砂浜に降り立ち、グロストに声をかけた。


「ウウウウ…」

グロストにはゴードスの声が届いていない。

苦しさで周りの音は何も聞こえていないようだ。


「……そのようじゃ。」


ゴードスはグロストに触れようとした。

しかし雷がバチッと音を立てて、ゴードスを拒む。


「…そうか…お前さんは助け等求めぬのであったな…じゃが礼は言わせておうかの。…聞こえとらんかもしれんがの。」


ゴードスは背を向けた。


「破壊軍の侵攻を食い止めてくれたこと、感謝するぞ。」

グロストは苦しみながらも目を開け、前方を見た。


そこにでグロストが見たのは、水を巧みに操るゴードスの姿だった。


鎧を海中から取り出し、海を割り、中の様子を調べ、問題が無いと確認したのか、鎧の一部を身体に乗せ、去って行った。

グロストはその見ていた景色を最後に、深い眠りに落ちていった。







Episode 4 END

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