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Episode FINAL 語り継ぐ者

【世界の中心】






…辺りが白い。


真っ白だ。





ここは一体どこなのか。

前のような夢のような暗い場所ではない。





しかし、自分の今の状態を想うとそれは簡単に理解できた。








俺は…







死んだのか。




----------------------



Episode FINAL 語り継ぐ者




―――




うっすらとだけ意識があった。


とても静かで、風が吹き、瓦礫の砂が舞い散っている。



そうだ。

塔が崩れ落ちて、俺は落ちたのだ。



無造作に、倒れている俺は薄れる意識の中、その体を壁にもたれかけた。




…分かった。

自分の魂が自分の身体から離れようとしていることを。

今自分はどんな身体をしているだろう。

それを確認することすら出来ない。

何故ならもう、俺の眼は前を見ることしかできないのだから。


身体ももう動かなくなった。さっきので全て使い切ったらしい。






ディスタバンスの気配は感じない。


終わったのか。


俺は倒したのか。

世界を救ったのか。





上が。空がいつもより明るい気がする。

暖かいものを背に感じた。





…時間の問題だ。

いつ魂が完全に消えるか。

それは分からない。

だが、その消耗はゆっくりのようだ。


あと数時間もすれば消えるだろう。なんとなく感覚で分かった。

死期を悟るとはどうやらこのことらしい。







ウィル…今、お前はどうしている…?



ちゃんと元の身体に戻ることができただろうか。

ゴードスたちは平和軍を守れただろうか。





消えていく命の中…

俺は目の前に母の姿を見た。


そして…光と闇の主の姿を見た。




(グロスト。よく頑張ったわね。あなたはとても立派に世界を守って見せた。あなたは…私の誇りよ。)


母さん…






(グロスト、あなたは辛く、痛い思いを繰り返したでしょう。)


(だが、今それは活かされている。お前の足掻きがこの世界を守った。)



((ありがとう))







(光の主…名は“シャイル”)


(闇の主…名は“ダイン”)



((この世界の未来に祝福あらんことを))


2つの魂が、祝福を祈る言葉と共に…抱き合うように…優しくほのかな光を放ち、消えていった。






…ありがとう。光と闇の力…


(さぁ、行きましょう。グロスト。)






あぁ、母さん。

行こう。


だが…最後にお別れがしたい…




大事な…大切な友に…それまでは…まだ此処に居させて欲しい…

命尽きる寸前まで…待ち続けたい…




----------------------





「……」


ウィルは無言で荒れた荒野を歩き続けた。


その先にはゴードスたちが戦っていた戦場がある。



「…!」


辺りに兵士たちが見え始めた。


ウィルは一人一人を確かめる。


「…誰も…死んでない…」


そう、全員気を失っているだけなのだ。

辺りにはとてつもない爆風の跡。


ウィルには何が起こったのか分からないが…

しばらく先に進むと、そこに居たのはゴードスだった。



「…ゴー…ドス…さん……?」





「…ウィルか…?」



「その姿…!」


ゴードスの全身は生々しい傷でいっぱいだった。

それだけじゃない。


左の角は折れ、両翼共に千切れ、顔…いや、全身に無数の深い傷を負っていた。

そしてゴードスの魔力はほとんど感じなかった。


目の色は、青色の眼を失い、左右共に赤い目になっていた。



「……ウィル…ワシの残された力を…こっちに来るのじゃ…」

グロストは上半身を上げ、ウィルを呼ぶ。



「ゴードスさん…」


ウィルはふらつきながらもゴードスの傍で、ゴードスの傷を労わる。


「ウィル、グロストの…グロストの元へ行ってやってくれ…」

「…でも、ここまで来たけど…グロストは遥か南…」

「だから…ワシの魔力を使うのじゃよ…」


ゴードスは残された最後の力をウィルに発動。

それはワープ魔法であった。


「待ってください…!今力を使えば「ウィル。」


ゴードスは力ない顔で優しく微笑んだ。


「…グロストを…見送ってやってくれ…」

「えっ…」


ウィルが言う前にウィルは魔法により、ワープした。





(ウィル…頼む……)

ゴードスは倒れた。


(…リリア…ありがとうの……皆を守ってくれて………)


魔力を全て失ったゴードスは倒れた…しかし、ゴードスはとても清々しい笑顔を見せていた。


(この世界の未来を救ってくれて…ありがとうの、グロスト…)


全身に青空と太陽の光を浴びて、ゴードスは深い眠りについた。



----------------------




「っ!っつ…」


不時着したウィル。

辿り着いた場所は、もうすでに南の島だった。

崩れきってない塔が崩れていく場所が見える。



「…あの下に…いるんだよね…」

ウィルはふらふらと歩き出す。




待ってて。グロスト。


その想いを胸にウィルは歩き続けた。



何もない荒野であはるが、砂が舞い散った下には緑が見えていた。世界の自然が戻ってきている。



そして歩くこと30分あまり。


ウィルはついにたどり着いた。


広い範囲に崩れ落ちた塔の瓦礫の中を進むウィル



(グロスト…グロスト…グロスト…)



ウィルは願った。

グロストが生きていると。信じたかった。




グロストが最後、何をしたかをウィルは知らない。だが、ウィルは夢見ていたのだ。

約束を果たせるときが、すぐそこまで来ているのだから。


この今のように晴れ渡った平和な空の下で共に暮らすこと。

ずっと一緒に居たい。

ウィルのそんな願いが叶うのだ。約束を果たせるのだ。








「グロ…スト…ッ…」



大きな瓦礫を見つけた。


その下の床には血痕。

大きな瓦礫の裏側へ通じている。



心音が高鳴る。


「グロスト…」




大きな瓦礫の裏側。

その隣の小さな壁にもたれかかるように座るグロスト。






「グロスト、グロストグロストグロスト!」

ウィルはがむしゃらに走った。




「グロストッ…!」



千切れた右腕。

へし折れた左右の翼。

折れた角。


貫かれたような跡がある左胸。


流れ、流れきって乾いてしまった大量の血。



グロストに反応はない。ウィルが傍に居る。

だがグロストに反応はなく、ただ眼だけが正面を向いている。


小さな呼吸が聞こえる、まだ死んでいない。


「グロスト…!まだ駄目だよ…僕との約束…忘れてないでしょ…?ね?帰ろう?」


グロストの息が弱くなっていく。



「ああっ、嫌だ…嫌なんだ…君を…失いたくないよぉ…ううっ…うあぁ…」

ウィルは泣く。自分の目の前で命果てようとしているグロストを見て…



その時だった。




「…」


グロストは残された左手をウィルの頭にゆっくり。そっと置いた。



「…グロスト…!」



グロストは…




微笑んだ。

これまで見たことない笑顔でウィルを見た。


そして小さくこう呟いた。













「ありがとう」






やがてその左手はウィルの頭を離れ…

そして力なく地についた。





「…グロスト…?」





----------------------




最後の時が来た。

まさか…本当に来てくれるとは…




ウィルが来てくれた。


夢のようだ。

孤独に死ぬと思っていた。

だが、最後、この時までウィルは俺の傍に居てくれた。




もう口を開く事は出来ない。

もう話をする事は出来ない。

それでもグロストは最後の言葉を伝えられた



それはウィルに対する最大の感謝。







悔いが無いわけではない。

それでも、これで…これで良かったのだ…






俺は……






幸せだ…………







もう



十分だ…














----------------------
































「…わぁ…」


塔の周りはいつのまにか緑が芽生えていた。




「綺麗だ…グロスト……見てる?とっても…綺麗……だよ…?」


ウィルの声は力弱くなっていく。


「…見たかった…君と…こんな世界が見たかった……見たかった…っ…」





ウィルはグロストの身体を強く抱きしめた。


「ううっ…あああっ…あああああああああああああ!うああああああああああああああああああああ!あああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」





ウィルは声をあげて泣いた。


ただ、ただ泣いた。




枯れるまで泣いた。










ウィルとグロストしか居ないこの場所で、ただ、ただ、悲しき泣き声がこの平和を歌っている空にむなしく響いた。






「ああああああああああああああああああああ!!!!」




戦いは終わった。


一つの命と引き換えに…


----------------------










僕はあの後、疲れ切って眠ってしまった。

起きたときにはグロストの身体はすっかり冷え切っていた。




僕はまた泣いた。


緑に生まれ変わった草原と青く輝く空の下。


僕はまた、しばらく泣き続けた

声をあげて。










平和軍の兵士たちが僕を見つけてくれたのはそれから半日後だった。

爆風から目覚めた兵士たちや、魂が戻った兵士たちが迎えに来てくれた。





僕、そしてグロストの遺体は平和軍の兵士たちに平和軍の駐屯地へと搬送された。



―――僕は3日ほど眠りについた。





ゴードスさんは、僕をワープさせたときに全ての魔力を使い切ってしまったようで、長いこん睡状態になってしまったらしい。


目覚めるのはいつになるか分からない。

だけど、世界が平和になったことで、魔力の量が増幅されたと、報告があり、それがゴードスさんに良い作用を齎しているらしい。


きっとドラゴンにとっては短い時間で、目覚めることだろう。



魂が戻ってきたレイリー隊長やサイノさん、兵士たちも僕が目覚めてしばらくしてから目を覚まし、ゴードスさんによって庇われた兵士たちも誰一人死ぬことなく生き延びた。



最後に目を覚ましたのが僕だった。


だから僕が目覚めるまでの間、グロストは冷凍で保管されていた。

僕が目覚め、生き残った兵士たち全員が揃い…グロストは弔われた。



「…世界を救った英雄、平和軍将軍の名をここに刻みます。」



僕が目覚めるまでの間に平和軍で立派な石墓がつくられていた。



グロストの名が、刻まれた。




余談だけど、僕はこの時初めてグロストのフルネームを知った。

だってグロストってば、自分のことあまり話さなかったから。


でもそれも、グロストらしい…よね。










“世界を救った雷竜の伝説をここに刻む

 

         英雄・グロスト・ガディアル(Grost・Ghadial)”










----------------------



それからしばらくして、一部の兵士たちは、自分の祖国へと帰還していた。


2000人弱程いた平和軍で今ここに残っている数は50人弱。





僕は目覚めてからしばらく平和軍の駐屯地で世話になっていた。

目覚めてからは毎日、夜は、グロストと話していた丘の上でいつも泣いていた。


布団に入ってからもやっぱり泣いていた。



約束を果たせなかったから…ではない。ただ、グロストを大切な仲間として、愛していた。

だが、そのグロストがもういない。


世界が平和になった代償。

それは僕にとっては非常につらい代償だ。










僕は泣いた。

ずっと泣いた。

泣いても何も変わらないのに…ずっと泣いていた。


泣いてなくても心は泣いていた。







でも、グロストは…1度だけ僕に会いに来てくれたんだ。





----------------------





ある日の夜…

白い空間…そこに僕は居た。これは夢だろう。きっと泣き疲れて眠ったんだ。


僕はそう思った。



「ウィル」


「…グロスト?」



「ウィル。」


「グロスト!!」

僕は走った。

そしてグロストに抱き着いた。



「グロスト!グロストっ!」

「…ウィル。これは夢だ。」


「…うん…」

「だが、本当だ。俺は…“ある存在の力”によって、お前とここで話すことを許されている。」


グロストは夢だ。だが、本物。

これはグロストに何かしらの力が宿っているからである。



「…だが、あまり時間が無い。そしてこの夢が覚めたとき、もう俺はお前と会うことはかなわないだろう。」

「…そんな…」


「そんな顔をするな。ウィル。」

グロストは僕の頭を優しく撫でた。



「約束、守れなかった。」

「うん…」


「すまなかった。」

「うん…」


「最初お前と出会ったとき…お前には酷いことをした…すまなかった。」

「今更だよ…良いんだよ…そんなこと…」


「…お前には本当に…救われた…」

「う"ん…っ…」

僕はまた涙を流す。


「…最後まで…その命尽きるまで…生きてくれ。そして願わくは…この戦いを…俺という存在を…お前やゴードス…平和軍の仲間たちだけでも忘れないで欲しい……」


「…!グロスト…これ…」

ウィルの頭にはグロストの記憶が流れていた。

それは彼の生まれから、その命尽きるまでの記憶。


「俺の記憶だ。」

「君の…記憶…」


「伝えてくれ。ウィル。お前が語り継ぐのだ…そしてお前たちが作るのだ。皆の世界を…」




「…うん!伝えるよ…!これから伝える!君の戦いの全てを僕は”語り継ぐ”!そして…僕は忘れない…君と過ごした時間を…絶対に…絶対に忘れない!!」


「…ありがとう。ウィル。お前と…出会えてよかった。」

「僕の方こそ…ありがとう、グロスト…!」


「…フッ。」

「…あはは。」


2人は握手した。

その時だ。グロストの身体が粒子となって消えてゆく。

「…もうお別れなの…?」


「俺はずっとお前と共にいる。お前をずっと見ている。だから…“先に待ってる”。」


「グロスト、待って!まだもっと話したいことが!」

「ウィル、いつかまた、もう一度……」

グロストの声が消えた。


「グロストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」





僕の意識は再び現世へ。

グロストの魂は、天へと還っていった…



----------------------


「……」


「ウィル?」


「…おはよう。」


「どうしたんだ…何か嫌な夢を見たのか?」

残っている平和軍兵士が、涙を流して目を覚ますウィルに言う。


「…ううん、大丈夫だよ。これは…うれし涙だから。」


「?」





「そうだよ、僕にだって…出来ることがあるんだ。」











それは僕にとっては決意の朝だった。








----------------------



















「学者?歴史の?」

「うん。」



あれから4年。


僕は20歳を迎えた。



僕はグロストが居なくなって2年ほど平和軍で過ごした。


でも僕は自分の目標の為、ゴードスさんを残った皆に任せて、平和軍の駐屯地を出た。


平和軍の駐屯地は4年たった今もまだ残っており、そこでは身寄りも行く当てもない兵士たちが、ボランティアを募り、難民たちを受け入れたりし、皆で協力して暮らしている。



そして僕はかつて世界の中心地だった廃都市へ来ていた。

そこで出会った多くの戦友たちと共に復興作業を手伝った。ようやく最低限人が暮らしていけるまでに復興が進んだんだ。




そして僕は決めたんだ。

学者…歴史の学者を目指すことを。


まだまだ卵だけど…それでもその称号をやっと手にしたんだ。



「僕たちはあの戦いを忘れてはいけない。だったら誰かそれを語り継ぐ者が必要だ。だから僕がやるんだ。」


僕はたまたま祖国に帰っていたサイノさんと再会し、話をしていた。


サイノさんの住んでいた国も少しずつ復興を始めているらしい。

でも、まだまだらしい。でも、持ち前の元気さを武器に多くの人たちを導きながら、元の暮らしを目指して頑張っているんだって。



「そうか…なんだろな、お前ならできる気がする。」


「うん、頑張るよ。」




僕は僕が経験した全てを本にした。


それはまだまだ素人の僕が書いた未完成の歴史書だ。


でもこの本は、平和軍将軍…そう、“あの人”を中心に描いた…他とは違うちょっと変わった本。

僕が君から受け取った彼の記憶。そして僕の記憶。

平和軍のみんなの記憶。


みんなの見てきた戦いを…僕は本にしたい。


だから僕は生き続ける。


この戦いを語り継ぐために。

未来へ。

そう、ずっとずっと遠い未来まで。





「お、そうだ。ゴードスさん、回復の兆しが強く見えてきたって言っていたぞ」

「本当!?」


「おう、あと5年もすれば完全に回復するし、目を覚ますだろうってさ。」

「5年かぁ…ドラゴンにとってはあっという間だもんね…でも僕らにとっては長いよね…」


「そうだな、でも…ゴードス将軍…いや、ゴードスさんに見てもらいたいよな。一生懸命生きている俺達の姿。」



「そうだね。よーし!頑張ろうっ!」

「ウィル!そろそろ休憩終わるぞ…ってサイノじゃないか。」

「レイリー!元気そうだな。」

気合を入れる僕を呼びかけるのはレイリー隊長…いや、レイリーさん。


僕と同じく復興の手伝いをここで行っている。

今ではすっかり友人のような間柄ではあるけれど、とても頼りになる先輩だ。


「君の故郷はどうだ?」

「あぁ、少しずつだけど頑張っているよ。俺たちの頑張りをゴードスさんにも…グロストにもさ、見てもらいたいからよ。」

「…そうか。お互いに頑張ろう。」

「おう。」

サイノとレイリーは握手を交わす。


「よし、じゃぁ買い出しも終わってるし、俺は帰るぜ!ゴードスさんが帰ってきたら同窓会だな!」


「あはは、いいね!その時が楽しみだ!」

「うむ、楽しみにしている。」


サイノと別れ、僕はレイリーさんと復興作業に戻る。


「ゴードスさん、もうすぐ目が覚めるかもしれないそうだ。」

「はい、サイノさんからも聴きました。」


「…きっと、喜んでくれるだろうな。」

「えぇ。きっと。ゴードスさんも、グロストも。」


僕は青く晴れ渡る空を見つめ、微笑んだ。


大丈夫、僕は…これからも生きていくよ。僕らの目の前に広がっているのは…明るい未来なんだから。そうだよね、グロスト。






―――ねぇグロスト。


君がいなくなってもう随分経ったね



今でも時々思い出すんだ。

君が消えてしまう前に見せた優しい笑顔。そして、君と過ごした時間。

思い出すたびに涙が出そうだけど…




でも、僕は振り返らない。

いつか…

ずっと先の未来。


遥か死の向こう側…その先で…もしまた君に会えるなら。

その時は…また笑ってくれるかな。








僕もしっかり語り継ぐよ。



英雄、グロスト・ガディアルの物語を…








これからの未来を鮮やかに染め上げてくれるかのように、とても清々しい青空だ。



僕たちの未来を創ろう。


僕たちの過去を語り継ごう。







僕たちの後ろには、世界を救った英雄が見守っているのだから…




Epsiode FINAL END




----------------------




~epilogue 語り手:未来へ~







小鳥がさえずる。


木漏れ日がゆらめく森の中。



世界の中心から少し離れた小さな田舎町。


その傍にある小さな森の奥。




そこに、小さな家があった。









「こんにちは。」


「やぁ、いらっしゃい。今日も来てくれたんだね。」









その家には、一風変わった人間が暮らしている。

本人は、歴史学者の端くれと名乗っていた。



名前は知らない。


この時は、まだ青年。15歳ぐらい。

若くして天才歴史学者と呼ばれていたと、助手の年寄ドラゴンが教えてくれたらしい。




小さな田舎町で暮らす、竜人の少年は、歴史に興味を持っていた。

だから、この歴史学者にいろいろな歴史を教えてもらっていたのだ。




「昨日でグロストの物語の話が終わったよね。今日は新しい歴史を聞くのかい?」



「えっと…もう少し…掘り下げたいんです。彼の…グロストのことを。」


「それはどうして?」

「えっと…分からない…でも、彼は…今も戦っているような気がして…僕らの為に…」


「……ふむ…面白いことを言うね。なるほど…そうか。」

「?」

「あ、いや。こっちの話。良いよ。じゃぁ今日はおさらいも含めてグロストの物語を掘り下げよう。」



「…そういえば…聞いていなかったのですが……」


「ん?」




「あなたは…もしかして…あのおじいさんドラゴンも…」


「君の言いたいことは分かるよ。でもここはあえて僕はこう名乗らせてほしいかな。」







歴史学者の青年は座っていた椅子から立ち上がり、窓を開けた。





「僕は…









“語り継ぐ者”。」







世界を救った英雄の伝説を、語り継ぐ者さ。







Fin.





----------------------





【神様の怠惰】
















半身が敗れたか…





まぁ…良い


機会はまた次にやってくる




そうだな…500年眠れば…あの世界を潰せるだけの力を溜められるはずだ。

半分になっても、俺が世界を滅ぼす運命は変わらねぇ



あっという間だ






…どうやらエテルネルの野郎がまた余計なことをしてくれるみたいだな…

奴もそれを望むか



いいだろう





まだ


戦いは終わらない


ということか


てめぇの雷の力を俺の世界に隠したところで、再び目覚める俺にはかなわないだろう。





それまでせいぜい平和な時間を過ごすがいい…


あぁ、駄目だ

力がもう湧いてこねぇ。





少しばかり…500年ぐらい…眠るとするか……









じゃぁな、弱き生命共よ








GROST 真・光と闇の雷竜伝説




THE END


----------------------




終演 全てを憎みし邪神












それはずっとずっと昔の話だ。





世界は不十分だった。


だから作り直した。







なのに








「グアアアアアアアアアア!!!!!」







押し寄せて来る


全ての負が

全ての憎しみが


全ての絶望が





全ての苦しみが







今、自分の身体に襲いかかっているのは、全ての闇。


世界は7つに分かれた。




不十分な世界を作り直そうと試みた7人の神は手を取り合った。


だが、そこで生み出された世界は、世界の寿命は保たれたものの、ありとあらゆるものが不完全で歪なものとなった。










気が付けば、真っ暗になっていた。


希望に満ちた楽園に生まれ変わるはずだった。



だが、その暗闇が晴れることは無かった。





まずは誰かの悲しみが聞こえた。


次に誰かの恨みの声が聞こえた。


次に怒りの声が聞こえた。


誰かの絶望が聞こえた。



それは1人ではない。

何千人、何万人…いや、それ以上。


世界の全ての闇が自分に押し寄せて来る








それはとてもではないが、言葉で表現もできない程の苦しみだった。


「アアアアアアアア!!!!ヤメテ!!もう…ヤメ…ヤメテエエエエエエ!!!!」





生き物の悲鳴が鳴りやまらない

生き物の痛みが自分に襲い掛かる。

やがて全身が傷だらけになった。




自分で傷を縫い、自分に足枷を付け、身体を縛り、どんなつらい痛みにも耐えた。




だが








誰も来ない


誰の呼びかけも来ない


かつての仲間たちの声も聞こえない






そして、世界の仕組みが脳内に流れ込む。

そこで自分は気づいた。



世界には優しさや温かさがあることを。


そしてそれを糧にして、”アイツ”は世界の中心に居る。





何故だ。


何故アイツは…”エテルネル”…

奴だけが、そのような気持ちを糧にしている?




自分はこんなに辛い感情ばかりを糧にしているというのに。



他の神々もそうだ。

中には自分から世界を傷つけ、余計に負の感情を生み出している。

それをすべて受け入れるのは自分だというのに







やがて痛みすらも、痛みと思うようにならなくなった。


途方もない時間がただ惰性で流れていく。






ただ、この胸の内にあるのは
























ニクシミ







ダケダ






許さない




許せない



絶対に許せない



この辛く悲しい世界など、自分がただ苦しむだけの世界など…いらぬ…!






ニクイ…スベテヲ我ハ…




ホロボス…







マッテイルガイイ…エテルネル。

キサマモ、スベテノイノチモ…



ゼンブ…ゼンブ、ゼンブゼンブゼンブ!!!!





ケシサッテヤルッッッ!!!!!!!!






----------------





”エテルネル”





それは決してたどり着けない場所。


中心の神である僕でさえも、そこには行けなかった。




そして僕の声も、もはや彼には届かない。


全ては僕の責任だ…


だからいつか絶対君の元へと行く。

そして、君を必ず救ってみせる。





でも、君がもし全てを忘れ、世界の脅威となるのならば…



僕はまた…僕の仲間たちと共に…君と戦うよ。

そして…いつか、その戦いの果てにまた分かり合おう。



こんな理不尽で不完全な世界の数々だけど、その苦しみも憎しみも、悲しみも怒りも…


全部僕は君と…君たちと分け合いたい。

だから待っていて…必ず…いつか必ず…君の元へ…







そのためにはまず…彼を除いた僕たち6人が再び集まらなくては…



そうするためには…世界の理を…未来を、運命を。変えなくてはならない。





頼んだよ、世界の選ばれし者たち…僕たちを…どうか…不完全な僕たち神々を…




助けて…!


----------------------


その願いは、死んだはずの命に届き、その願いは雷竜に再び身体を与えた。


死者、そして戦士として。


彼は再び戦場へと降り立つ。





これは、愛する者たちが生きる世界を守るための新たなる戦いであり、そして…その戦いの果て、神々は再び力を結集し、新たな1つの世界を誕生させた。


その時彼は、英雄として、そして…新たなる世界を守る“抑止力”としていつまでも歩き続ける。


いつか、その役目を終え、愛する者たちの魂たちとまた、会えることを願って。






だが、これはまた・・・別のお話だ。


そう、新しい世界、シンセライズへと続く、Delighting Worldの



お話。










----------------------



あとがき


GROST 真・光と闇の雷竜伝説を最後までご覧いただいた皆様、ここまで見て頂いてありがとうございました。


この作品は私が約12年前に書いた小説の転載ではありましたが、この作品は現在連載中のDelighting World(以下、DW)にも繋がる話となっていますので、改めてDWの世界観に合うように少しだけいじっています。


更に、もし再度別の場所で転載するならば直したい場所というのがありましたので、そこはガッツリ編集しました(なので原作より話数が10話ほど少ないです)


あと、本編内で出てきたレイリーとサイノに関してはオリジナル版では未登場です。

名のあるキャラが少なすぎるな~と思って申し訳程度に2人ほど追加したって感じです。基本的にはウィルと関わる存在として書きました。


グロストさんは、今でも周年には絵を描くぐらいには超推しキャラです。

私の人生の約3.5分の1ほどを共に歩んできたキャラです。愛着も凄いのでまた彼に関われて良かったなって思います。




と、細かい部分をいじりながら更新してきたGROSTですが、いつかDWにも出てきた世界統合戦争の話を連載したいなとか考えてます。多分2025年とか2026年ごろになるかもしれないですけど。


それは転載作品ではないので、完全に1から書く話となります。

前と今とでは少し書き方が違うので雰囲気も少し変わってくるかもしれませんが。


そして、世界統合戦争の話ではグロストを始めとする各世界の人々が登場しますが、基本的にはメインとなるキャラは絞って進めていきます。


DWの前日譚を展開していけたらなんて思いますので、よろしくお願いします。

DW見てない方にはなんのこっちゃって感じかもしれないので、一応本筋はDWですので、是非一読いただけたらと思います(かなーり長いのでそこが薦めづらくもありますが)


そんなわけで、グロストさんの物語はここでいったんおしまいです。


DW本編も併せてよろしくお願いいたします。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。



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