表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/38

Episode 2 孤独の戦い

Episode 2 孤独の戦い















やぁ、今日も来てくれたんだね。


…そうか、彼が力を手に入れたところまで見てくれたんだね。




そう、遥か北の小さな村で母と暮らしていた竜人の青年、グロストは破壊軍の襲来で村と母を失う。


逃げ込んだ祠の中で死を待つだけだったグロストだが、祠で封印されていた光と闇の力に導かれ、再び地へと立った。


彼らから得た光の力と闇の力を自身の持っていた潜在能力…強力な雷の力を手にしたグロストは、破壊軍を殲滅するための復讐鬼となった…





ではこの続きを語ろうか。




え?今日は大丈夫なのかって?


今日は大丈夫だよ!

五月蠅い助手も居ないし。





ではその続き…



―――あの出来事から10年…



戦況は何も変わっていなかった。


10年の間、グロストは一体何をしていたのか…



グロストに待っていたのはとても険しい試練だったんだ。



さぁ、ページをめくってごらん。



---------------------------------------




この10年で戦況は更に悪化した。


破壊軍の進行は落ちつくことを知らず、平和軍の防戦も徐々に押され、人々の領地は既に7~8割を失われていたこの世界は8割5分を破壊軍に奪われていた。


南から北へと侵攻を進めていた破壊軍は北を支配し、人々の領地は北東エリアを残すのみとなった。



グロストが住んでいた北の山間の村は、グロストの光と闇の雷で跡形もなく消し去ったが、その山自体は完全に破壊軍の領地となった。



意志を持たない、破壊と殺戮を繰り返す集団、破壊軍。

彼らの目的も分からないまま人々は領土を奪われ、多くの人が犠牲となっていた。

破壊軍の領地内にもかかわらず多くの一般人はあちこちで置き去りにされ、姿を隠して暮らしている人も多くいるようだ。




そもそも10年で0.5割程度しか破壊軍の進行を許していないと言うことは、どういうことなのか。

それは平和軍の中に、破壊軍となんとかやり合える者が現れた…ということだろう。


それでも劣勢であることに変わりはなかった。




光と闇の力を得て、復讐を誓っていたはずのグロストは、今何をしているのか。






世界の北東部。

人々の残されたわずか1.5割の領地である。


そんな領地の外れにある深い密林の中に彼は居た。

めったに人の立ち入らない場所であるが、植物も元気がない。

ほとんどの植物が枯れかかっていて他の生き物もほとんど住んでいない寂れた密林だ。



「グッ…」


森の奥でうずくまるグロスト。

31歳だった彼は41歳。人で換算するとまだ成人していない状態。人年齢で例えると15歳~18歳程度である。


身長も2mを超え、10年の間に修行をしたのだろう、以前の面影が見えないほど鍛えられた筋肉。

そして伸びた赤い髪。


目はすっかり吊り上がった鋭い目へと変貌し、やつれた顔、生傷だらけの身体。


彼の顔に映るのは、絶望と憎しみに満ちた顔だった。

しかし今うずくまっているグロストは身体中汗だらけだ。

身体から時折小さな雷がバチバチ音を立てて飛び出している。


「…クソッ……ウアアアアアアア…」


辛そうな声を出し、身体を震わせうずくまるグロスト。


土をギシッとわし掴み、激痛に耐える。



「ハァ…ハァ…」

荒い息を整えながらゆっくりと立ち上がり、枯れかかっている木に手を置いた。


「…今日も…駄目か…クソッ!」






10年の間、グロストは苦しみ続けた。


そう。

己自身が10年前に手にしたあの力…

光と闇の力に。


2つの力は光と影。

決して交わることはない。

お互いの力がグロストの中で反発しあっている。


二つの力をコントロールすることが出来ず、ある一定上の力を雷として放つと、リスクを大きく背負うことになってしまったのだ。


そのリスクがこのグロストに今襲い掛かっている激痛である。

一定上の力と言っても、本来のグロストの力の3割にも満たない程度の力だ。

ノーリスクで技を放つには、全体の3割程度の力しか出すことが出来ないのだ。




グロストは考えた。

自身の身体が力を追抑えきることが出来ていないから力が使えないのだと。

己自身を鍛え、強靭な肉体を得ることが出来れば力を制御出来ると思ったのだ。



だが、10年経ってもそれは何も変わらずにいた。



グロストはこの時、必死だった。

だから気が付かなかったのだ。

この力は肉体の強化だけでは使いこなせないという結論に辿り着くことが出来なかった。


力で屈服させる。


グロストの中にはそれしか道が無かったのだ。




グロストは今日までずっと力を鍛えてきた。


己自身が持っていた元々の雷の力も非常に強く強化され、ノーリスクの3割の光闇の雷を放ったとしても、大型モンスター1体程度は簡単に殺せるだろう。


グロストの戦闘能力は破壊軍とも十分やっていける程の実力に近づいていたのだ。



竜人の10年は人間に

比べて短いものだ。

まだまだ成人になりたて。

まだまだ強くなれる、そしていつか力を完璧に制御して、破壊軍を殲滅する。


グロストの決意は揺らぐことは無かった。

この10年間ずっと憎しみを背負って生きてきた彼にはもう良心などはほとんど残っていない。


敵に回したら完全に悪の化身としてこの世界を滅ぼすだろう。



「…」(この力…10年賭けても制御出来ないこの力…もはや不可能なのか…?)


グロストは心のどこかで弱さを感じていた。

10年という時間を賭け、全てを力の制御の為に使ってきたこの時間を持ってしても成しえない力の制御。

グロストの培ってきたものは何も芽生えてはいなかった。



ガサッ


「!?誰だ!?」


物音のする方へ手を向ける。


(ピピッ)


「…小鳥か…」


茂みから現れたのは小さな小鳥。

グロストは手を向けるのをやめた。


「…なんだ…」

小鳥はグロストの肩に飛び、乗った。


「…邪魔だ。」


グロストは微弱な雷を放出。

小鳥は驚いてグロストの肩を離れた。


「…俺に…近づくな……」


“誰も 近づくな”



---------------------------------------


「ふっ!はぁぁぁっ!」


手に雷を溜め、それを目の前の木々に向けて放つ。

木は真っ二つになり黒く焦げ堕ちた。


「…駄目だ、この程度では破壊軍は倒せない………本当にそうか…?」


グロストは思った。

(…俺はこの10年…ずっと修行に時間を費やしてきた…破壊軍とは…戦ったことが無い…だが…)


「…今ならいけるかもしれない…!」


(まだ実力のわずかしか使いこなせないが…それだけでも十分に…戦えるはずだ…)



グロストはニヤリとし、腕をグッと掴んだ。雷がバリッと音を立てて飛び散る。


グロストは森を出た。



10年前に見た景色では無かった。

すでに破壊軍の侵攻が迫っていた。

辺りは黒い灰となっていた。

この森自体も少し黒ずんでいた。


「…ここも危うかったのか…だが好都合だ…破壊軍め…かならず根絶やしにしてやる!」


グロストは黒い大地に足を踏み入れた。

黒い埃が宙を舞う。灰と血の臭いだ。


「…ハハハハ…心地よい…心地よい!」

グロストの身体からも黒いオーラがまとわりつく。


黒い灰は破壊軍の力を含んでいるようだ。

深い、深い闇の力。


グロスト自身も、闇の力を持つ者。

闇の力がグロストの闇の力を増大しているのだ。


しかしそれは、グロストの体内に眠る光の力とのバランスを大きく乱していた。


グロストの目は赤黒く染まっていく。



そしてついに闇の力を増大させたグロストに呼ばれるかのように目の前に現れた。



「破壊…軍…!」


全身を黒い鎧で纏い、赤い眼光が見える。

間違いない。


あの…



(俺の全てを…俺の全てを奪った破壊軍……)


全てを奪った破壊軍が今ここに居る。

10年ぶりに出会うずっと

ずっと憎んできた敵。


「破壊軍……!」


グロストの憎しみの心の闇が増していく。


相手はおおよそ10人ほど。

数は多くはないが、一人ひとりが心の無い、魂消え果るまで這い上がる破壊だけを遂行する兵士なのだ。

「…」

何も言わない破壊軍はグロスト目がけてゆっくりと歩いてくる。


「許さん…ゆるサん…」

グロストの雷が身体を纏う。

光の白さは奪われ、黒い雷だけがグロストの身体を纏った。


「ハカイグン…コろス!!」


グロストの持つ力が暴発した。

3割の力しか制御が出来ないグロストは、それ以上の力を出すと暴走してしまう。


「グゥゥアアアアアアアアアアアア!!!!」


腕に黒い雷を集め、その力を破壊軍に向けて放った。



その雷は地面を割り、その轟く大きな轟音で周囲を雷の海へと変えた。

地から飛び出す黒い雷、天空から降り注ぐ無数の黒き稲妻は周囲一帯全てを包み込み、大爆発を巻き起こした。



まるで核爆発のような巨大なキノコ雲が上がり、破壊軍兵士のほとんどを一瞬で魂ごと焼き払ってしまった。


生き残った破壊軍兵士は1人だけ。

ゆっくりと立ち上がろうとするが、グロストはそれを見落とさなかった。


足で破壊軍の身体を踏みつけた。


そして赤く鋭い眼光を光らせ、雷を破壊軍に与え続ける。


「グ…ハハ…ハハハ…シネ…!シネ!!キエロ……!!!」

何度も、何度も踏みつぶし、何度も死ぬほど激痛の走る雷を浴びせ続ける。

破壊軍兵士の魂はこの時既に消えていた。

だがグロストは兵士の魂果てても攻撃を続けた。


「コノヨロイも…!!」

鎧を粉々に砕いた。


「コノヌけガラも…!!」

その中に蠢く魂も。


「スベテを…滅スル!!」

雷を放出させる。

ついに兵士たちは鎧も跡形もなく消え去り、残ったのは残った黒い灰だった。


破壊軍兵士には肉体が無い。

その原理は不明だが、鎧の中にただ魂を宿しているだけだ。

だから破壊軍兵士には感情も、五感…神経も存在しないのだ。


何故このような生物が世に蔓延るようになったのか。

それは誰にも分からない。


そしてそれを跡形もなく消し去ったグロスト。

だがその放った力の反動でグロストの身体は闇に覆われた。

「グアアア!!!」


体内に宿る闇の力がグロストに襲い掛かる。

光を失い、闇を増幅させたその力は破壊軍が居ずとも、その力の暴走を抑えるために待たねばならぬこと。



本来ならば10分もかからない程度で収まるのだが、ここは黒い灰の地…


その力が治まるのに、何時間もかかった。

その間に大地は大きく傷つき、辺りは死の大地となった。

黒い灰だけではなく、大地そのものが死滅してしまった。


それほどまでにグロストの持つ光と闇の雷の威力は凄まじかったのだ。


力に振り回されながら、身体を上手く動かすことが出来ずにフラフラと森の中へと身を寄せた。



「ハァ…ハァ…グッ…クソッ……」


力がようやく収まってきた。

だがその激痛に見舞われたグロストの精神はボロボロだ。

こうなってしまうとグロストは何か月も身動きが取れなくなる。


行き場の無い辛さや絶望が襲う。





その中でグロストはこれからまた何十年も苦しむことになる………



独りで戦い



独りで苦しみ








独りで……


----------------------------------------


「将軍、報告します。」


「んん?」







「先程南方の森で爆発が起こりました。」


「なんじゃと?」


「原因は不明です。ただ…見たことの無いエネルギー反応が出ているとのことです。」



「ふむ…現場はどうなっておった?」

「戦いの形跡がありました。破壊軍兵士が灰となり力尽きておりました。」

「なんじゃと?破壊軍が倒れるなど…!一体何奴じゃ…?」






(どうやら…調べる必要がありそうじゃのう…)





Episode2 END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ