【短編版】羽の生えた男装令嬢はバレずに学園を卒業したい
初投稿作品です!
拙い文章ですが、楽しんでいただけますと幸いです。
———昔々、この国では伝染病が流行り、死者が出てしまいました。
王様は国民がどんどん亡くなっていくのが辛く、腕利きの薬師を集め、薬を作りましたがどれも効果はありません。
とうとう、王都まで伝染病が回り始めた頃、一人の女性が現れました。
その女性はアンジュといい、背中にはとても綺麗な翼が生えていました。
アンジュが病に臥せた人に手をかざすと、顔色が良くなりみるみるうちに回復し、アンジュのおかげでこの国は救われたのです。
「これから、体に烙印のついた子供たちが生まれると思うわ・・・その子達は国を支えてくれる存在だから大切に育ててあげて」
アンジュは王様にそう言い残すと、褒美ももらわずに去ってしまいました。
数年後、体に烙印のある子供たちが生まれ、その子達は特殊な能力を持って生まれてきました。
大人顔負けの力を持つ子、安らぎの歌声を持つ子などさまざまで、どの子もこの国を豊かにしてくれます。
王様は、恩人アンジュの忠告を守り、この素敵な烙印を持つ子供たちを守るため学園を作りました。
それが今のグランネリエ学園に続くのです。———
◇◇◇
ここは王都から遠く離れたところにある小さな町。小さい町だからこそ、みんなで協力しあって生きていた。
最初は、ただ友達のお父さんが体調を崩しただけだった。
次は、友達のお母さん、友達、その隣の家族………。そしてどんどんみんなが体調を崩し、亡くなっていった。いわゆる伝染病というやつだそうだ。
一人のクラスメイトが私に声をかけてきた。
「おいっシエル! お前アンジュの生まれ変わりじゃないのかよ! 俺の父さんも病気なんだ…治してくれよ」
「私にはみんなを治せるような力はないよ…。あんなの絵本だけの世界…っ」
私の背中には、アンジュという昔王国を救ってくれた女性と同じように背中に翼がある。
でも、アンジュみたいに翼が生えているわけではなく、羽のような烙印があるだけで自分以外に治癒を施せる能力はない。
町の人たちは私の烙印のことを知っていて、伝染病が流行る前は、アンジュのようだと言い、みんな優しく接してくれた。
だがもう、そんな態度をとってくれる人はおらず、役立たずだと罵ったり、中には石をぶつけてくる人もいた。
「シエル、あなたはここで過ごすのよ。外に出たらみんなに酷いことをされてしまうわ」
「大丈夫だよ! 怪我なんてすぐ治るしっ」
「ごめんなシエル。このまま私たちと一緒に過ごすと、シエルまで伝染病に感染してしまう可能性もあるんだ」
「私、みんなの病気は治せないけど、自分のことは治癒できるよ…!」
「万が一と言うことがある、我慢してくれシエル。毎日扉越しに声をかけに行くから…」
そう言ってお父さんとお母さんと離れて暮らすことになった。
初めは二人で扉越しに会いにきてくれたが、少し咳が出ていたお母さんが来なくなり、とうとうお父さんもこなくなった。
ごめんねみんな。私にもう少し力があれば良いんだけど。
そんな声も、もう誰にも届かない。
「おーい! 誰かいたら返事してくれー! ……この村で伝染病が出たと聞いて来たが、もう遅かったか?」
久しぶりに、自分以外の声を聞いた気がする。
もしかしてお父さん?それともお母さん?
「お父さん、お母さん…! いつもみたいに返事してよ! ここから出して!!」
バタバタと音が聞こえ、私では叩いても壊せなかった重い扉が開いた。久しぶりに外の明かりを見たから目が慣れない。
だんだん目が慣れ、見上げると、お父さんでもお母さんでもない男の人が立っていた。誰だろうこの人は。
私の扉で叩きすぎてできた傷だらけの手を見て心配そうな表情をしている。
「っ! ……誰ですか…?」
「私は、王都から派遣された騎士団長、ギルバート・エトワール。君は…?」
ギルバートさんが、私の目線に合わせてかがみ、挨拶をしてくれた。
「シエル…シエル・ラパン…」
「シエルか、いい名前だな。この家には君だけかい? お父さんとお母さんは?」
「ううん、私だけです…お父さんとお母さんには2週間前から会ってない」
「そうか…寂しい思いをしたな。もう大丈夫だ、さぁこちらにおいで…」
そう言ってギルバートさんが手を差し伸べてくれた。
「あの、お父さんとお母さんは?」
「………酷なことを言うかもしれないが、君以外もうこの村には誰もいないんだ…」
なんとなくわかってはいたけど、受け入れきれなくて黙ってしまった。
「………」
「さぁ、こちらにおいで。まずは手の傷を治療しよう」
ギルバートさんは私の手をとると、少し驚きつつ抱き上げてくれた。
これが私とギルバートさんとの出会い。
そして、“シエル・エトワールという”男として生きることになったきっかけだ。
◇◇◇
今日は待ちに待ったグランネリエ学園の入学式。
あれから、身寄りのない私はギルバートさんの養子になることになった。
ギルバートさんからは、私がアンジュとバレないように男として過ごすように言われた。
なんでも、シエルと同じくアンジュの翼のような羽の烙印を持った女性が過去にいたことがあるらしい。だが、羽の烙印を持つ人の治癒能力は貴重なため悪用しようと狙ってくる輩がいるという。そして、羽の烙印は女性にしか現れないらしい。
私の身を守るために、ギルバートさんは男として生きるように言ってくれた。
エトワール家のみんなはとても優しくて、ギルバートさんの娘のシャルロットとも同い年ということもあり、ロッティと愛称で呼ぶくらいとても仲良くなった。
私は5年間ギルバートさん直々の特訓を受けたおかげで、人並み以上の剣術を身につけた。
治癒能力はあまり人に知られてはいけないし、まだ自分以外に影響を与えられない私にとって、剣術ができる方が多くの人を助けられる。今度こそみんなを守れるようになりたい。
この学園でもっと勉強してギルバートさんみたいに騎士団に入るんだ!
「シエル〜〜! シエルはガーディアンなんだから、学園長のところ行かないと!」
穏便に学園生活を送って卒業して、しれっと騎士団に入ろうと思っていたが、自分の思っていた以上に人よりも力を付けていたらしい。
騎士団長のギルバートさんの名前を汚したくなくて本気を出したら、入学試験成績優秀者になってしまった。
グランネリエ学園では、入学試験で剣術や魔法の成績が優秀だったものがガーディアンとして集められる。
ガーディアンは生徒全体の取りまとめ役や学園内で起こった事件解決をしなくてはならず、時にはその能力の高さを活かして烙印持ちの生徒を悪用しようとする輩から守るような役目も担う。
「うん。ロッティは一人で教室までいける? 送らなくて大丈夫?」
「私、もう16歳よ。立派なレディですもの。」
ロッティはそういうと、私の手を握る。ロッティも烙印持ちで、胸元にひまわりの模様がある。手を握られると自然と元気が湧いてくるんだから、とてもロッティらしい能力だ。
「頑張ってね!」
「ありがとう。そろそろ行くよ」
ちょっと心配だけど、5年間女だってバレないように過ごしてきたし、多分大丈夫。穏便に生活して早く卒業しよう!
◇◇◇
ここは、ガーディアン専用の部屋。
放課後、ここに集まって会議をすることになっている。
会議時間まであと2分。先生に授業の質問をしていたことで遅れそうになったシエルは、駆け足で向かっていた。
「お待たせしましたっ! 遅れてすみませんっ!」
顔をあげるともうみんな集まっていた。早く席に着かないと……
「ねぇねぇ、シエルもケーキ食べる…? 今日はね〜 とってもおすすめのソース持ってきたんだ! 刺激的で美味しいの〜♡」
一番初めに声をかけてきたのは、ノエル・ネージュ。とても可愛らしい見た目をしているが、れっきとした男の子だ。
ノエルは机の上にあるショートケーキを食べていた。ホールで、しかもなんか赤い液体がかかっている。どう見てもベリーソースではない。
「おいっシエル! お前、朝、俺のこと無視しただろっ! 宿題写させて欲しかったのによぉ、こっちきて追加課題手伝えよ〜!」
こっちはラオ・ラングロワ。ラオは双子の兄で、弟とともによく自分に絡んでくる。朝、声をかけられたが、いつもみたいに面倒臭そうな用事を頼んできそうだったので、無視した。
追加課題を手伝う義理など自分にはないので、ラオから離れた席に向かおうとしたら。双子の弟リオ・ラングロワが声をかけてきた。
「シエル逃げようとしたって無駄だぞ! 俺の能力知ってるだろ?」
リオはそういうとパチンと指を鳴らした。そう、リオはものを移動させることができる能力を持っている。
「ちょっ」
「あり? 間違えた!」
自分がリオの能力によって飛ばされたのは、ガーディアンのリーダー、エドワード・フォンテーヌと副リーダーのルーク・ノワールの間の席だった。
「おおっ、シエルが遅れてくるなんて珍しいな。今日はな、食堂の1日20個限定メロンパンをどうすれば手に入るかみんなで考えたいと思うのだ!」
いつも、会議で話す内容とは程遠い議題を上げてくるのがエドワード。金髪で王子様フェイスなこともあり、女子からの人気がとても高い人だ。でも少し抜けている。というか完全にアホの子だ。女子人気があるから男子に嫌われてるのかと思っていたが、別にそういうわけでもなく、“王子”というあだ名で慕われている。
なぜこの人がガーディアンに入っているのか自分にはわからない。しかも首席だから余計にわからない。こんなにもアホの子なのに…
「シエル〜これ美味しいよ〜! はい、あ〜ん」
「ノエル以外がそんな辛いの食べたら死ぬぜ?」
「シエル! 課題教えてくれ!」
「今週1週間頑張って並んでみたのだが、無理だったので来週こそはと思ってな。シエルはメロンパン好きか?」
う、うるさい……。四方八方から声をかけられても返事なんてできないんですけど……
ルーク、この人達どうにかして……
そう思っているのルークは読んでいた本を閉じて立ち上がった。
ルークはガーディアンのなかで唯一まともな人間だ。まだ他の4人よりも気が合うので、よく勉強を教えてもらったり、本の貸し借りをしている。
「お手洗いに行ってくる。俺が戻ってくるまでにこいつらを黙らせておけシエル」
そ、そんな……。完全にあの人逃げる気だ。
「ちょっ、いい加減にしてください! こんなグダグダするなら、自分帰ります。」
『あ〜シエルが怒った〜。王子がしょうもない議題あげるからだ〜』
「なっ! メロンパンはしょうもなくなんかないぞ! とっても甘くてカリふわで美味しいらしいんだ!」
「辛いメロンパンってないのかな〜」
もういい、今日はどうせメロンパン以外の議題もないだろうし帰ろう。
そう思い部屋をでてしばらくした時、エドワードの甘い声に包まれた。
「シエル待ってくれ、今日は大事な話があるんだ」
「わっ」
エドワードは日頃から指輪型のスプレッサーを付けている。自分の意思以外にも相手に影響を与えてしまうタイプの烙印持ちは、スプレッサーで能力を抑えている。
エドワードもその一人で、彼は声で男女問わず人を魅了できる能力を持っている。例えば、エドワードが好きだと言えば、その人はエドワードに夢中になり、今みたいに待ってと言われると、動けなくなる。
“指輪をつけていないと面倒なんだ”と言っていた。確かに、これが常時だと色々と大変だ。
「ごめんシエル。大丈夫か?」
「自分は大丈夫です。ちゃんと会議に出席するので、指輪付けてください」
「すまん…引き留めないとって思ったらつい…」
「気にしないで下さい。自分も帰ろうとしたのが悪いですし、部屋戻りましょう?」
エドワードはあまりこの能力を使いたがらないとルークから聞いた。烙印持ちというのは必ずしも本人にとって都合の良いものとは限らないらしい。
『あー、シエルが戻ってきた〜!』
部屋の中に入った私はいつもの定位置、ノエルの横に座る。
するとこそっとノエルが声をかけてきた。
「ねぇシエル? 顔赤いよ? もしかしてエドワードの声聞いた?」
「えっ!」
「ポワポワふわふわするよね〜エドワードの能力〜」
「ノエル、うるさいですよ…」
「シエル、ノエル静かにしろ、やっとうちのリーダーがまともな議題をあげるんだ」
いつの間にかお手洗いから戻ってきた裏切り者のルークが声をかけてきた。
「そうだぞ! やっと俺がまともな議題をあげるんだ! ん? おいルークそれってどういう意味だ?」
『そのままの意味だよね』
「おいっそこの双子、それはどういう意味だ!?」
「エド、早く話さないとお前の恥ずかしい過去の話を全校生徒にばらすぞ」
ルークの黒い一声にエドワードは固まり、一息ついてから話し始めた。
◇◇◇
今、自分は女装しております。元々女の子だから、女装とは言わないか?
「ノエルがいけるのは大体わかってたけど、シエルも似合ってんな〜」
そう言ったのは、双子の兄、ラオ。“も”ってなんだ! 自分は本職ですけど!?
……というと女だということがバレてしまうので言えない。
「ノエルちゃんって呼んで〜♡ ね〜シエルちゃん?」
「ええ、ああ、ハイ」
「ノリ悪いぞシエル〜 あれ、ところでエドワードは? ルーク知ってる?」
「エドワードならさっき向こうでみたぞ」
「あれ、なんか声聞こえない?」
「お〜い! みんな〜待たせたな〜すまん〜!」
そう叫びながらやってきたのは、女装したエドワードだった。
確かに王子様フェイスだから似合ってはいるが、如何せん体格が良すぎる。全く女の子には見えない。
「王子、似合ってなさすぎ〜」
「なんで王子が女装してんの! 面白すぎてお腹痛い!」
「なっなんだお前たち! 嫌な役はリーダーが率先してやらないといけないっていうから俺はっ!」
「その心意気は良いことだが、エドワードがやるとせっかくの犯人が逃げてしまう。脱げ」
「エドワード様っ 今回はノエルちゃんとシエルちゃんにお任せなさい♡」
もうつっこむのもやめた。
なんでノエルはそんなにノリノリなんだろか。
先日の会議では、エドワードが珍しくまともな議題を持ってきた。何やら、最近学園の門付近で、怪しい男に女生徒が声をかけられる事件が起こっているらしいとのことだった。
そして、女装して犯人を捕まえようという話になり、女装役として抜擢されたのがシエルとノエルだった。
まぁ、他のメンバーは身長があるので犯人にバレてしまうから仕方がない。
「ノエルはさすが似合っているなっ! とても可愛いぞ。 危なくなったらすぐ呼んでくれ」
「は〜い! まぁ、僕の能力なら大丈夫だよ〜」
「シエルもまるで天使みたいな可憐さだな。男に言い寄られないように気をつけろよ」
「自分は男なので……アハハ」
「じゃあ、みんな所定の位置。ノエルにはラオとリオがついていてくれ。シエルには俺とエドワードがつく」
◇◇◇
なかなか現れないな〜。もうすぐこの本読み終わっちゃうよ…
「えっ? シエル?」
「あっロッティ? 今帰り?」
「ちょっ シエル何してんの? そんな格好!」
そう言いながらロッティが駆け寄ってきた。ああ、そういえば、服借りる時自分が着るって言ってなかったなぁ…
「あまり詳しくは言えないんだけど、ちょっと今ガーディアンの仕事で女装してるんだ」
ロッティは自分の姿を見ると、固まってしまった。
似合ってないのかな?
「とっっっても可愛いじゃない! そんなのだめよ! 可愛すぎて女の子ってすぐバレちゃうわよ!」
「そんなことないよ…そこら辺は気をつけてるからバレてないよ」
「私、心配だわ…。私もお手伝いいたします!」
「危ないからいいよ…」
「そんな格好のシエル放っておけないもの!」
「ねぇ、君たちちょっと良いかい?」
『えっ?』
ロッティと話していたら、いつの間にか男の人に声をかけられた。
「あぁ、楽しいお話中にごめんよ。ここらへんに美味しいケーキ屋さんがあると聞いてね。妻に買って帰りたいと思っているのだが、迷ってしまって…」
「そのケーキ屋さんならあちらにございますわ。近くなので案内しますわよ」
「優しいお嬢さんだ。ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「じゃぁ、シエル。私はこの方を案内したらすぐ戻ってきますので、待っててくださいね!」
この男の人が例の怪しい男なのかな…? あまりそんなふうには見えないけど…でも万が一ロッティに何かあったら、ギルバートさんの顔が見れない…
「近くですし、自分も一緒に行きます!」
「この学園の生徒さんは、優しい子ばかりなんだね。すまないがお願いするよ」
「ええ、お任せください!」
ケーキ屋さんまでの道はそう遠くない、3人で話しながら向かった。男の人の奥さんはショートケーキが好きらしい。ショートケーキと聞いて、真っ赤に染まったデスケーキを満面の笑みでホール食いしていた人を思い出した。
そんなことを思っていると、おじさんが足を止めた。
「もう一つお願いがあるんだけど、良いかい?」
「私にできることなら?」
男の人がポケットからカッターナイフを取り出した時にはもう遅く、ロッティのスカートめがけ振りかざそうとしていた。
「ロッティ! 危ない!」
咄嗟のことで、ロッティを庇うと、肩に痛みがはしった。カッターで少し切られたらしい。よかったロッティが怪我しなくて。
「シエル大丈夫かっ!」
エドワード? 大丈夫大丈夫、こんな怪我明日になれば消えてるし……とは言えないけど。
男の方を見ると、もうすでに倒れていて、ルークがメガネを外し能力を使っている姿が見えた。
「私のせいでシエルが怪我を…」
「大丈夫だよロッティ、これくらい舐めとけば治るよ」
「シエル、シャルロット、二人とも医務室に行こう?」
◇◇◇
ロッティは大丈夫かな…? まぁ、エドワードがそばについてたら大丈夫か。
医務室に来たけど先生いないし…別に手当てなんてしなくても良いけど、逆にしてなかったら不自然だよね。
えーっと、あったあった。肩だからやりにくいなぁ…脱がないと。
イタタ
背中のチャックをおろそうと思って腕を動かしたら、痛みが響いた。
怪我が治るなら痛みもなかったら良いのに。そう思っていた時、医務室の扉が開く音が聞こえた。
「シエル入るぞ!」
えっ! ちょっエドワード!?
「ちょっ、まっ」
「俺のせいで怪我をさせてしまってすまん。医務室に先生がいないと聞いてな。怪我をしたところは肩だっただろう? せめて手当だけでもと思って」
「大丈夫です。一人でできるので!」
女子の制服だと、背中のチェックをおろさないと肩を手当てできない。ということは背中の烙印が見られる。それはまずい。
「後ろのチャック下ろせないだろ?」
「できますっ 出てってください!」
「シエル、君は怪我人なんだ、大なしくしなさいっ」
「ロッティ! ロッティを呼んでください〜!」
しばらく取っ組み合いをしていると、エドワードが諦めたように手を離した。
ようやく出ていってくれると安堵したが、体を包むような感触を感じ、まずいと思った時にはもう遅かった。
「おとなしくして、シエル」
能力を使うのはずるい…反抗する力が抜け、シエルはされるがままになってしまった。
背中のチャックがエドワードの手によっておろされ、傷を手当てされる。
どうしよう。背中見られちゃった。
「はいっこれで治療は完了だな。しばらくは安静にしておけよ」
あれ? 何も言われない。バレてない…?
「ハイ。ありがとうございます」
「そうだ、あの男だけどな、烙印持ちを狙ったわけではなく、女生徒のスカートを切りたかっただけだったそうだ。ルークが言っていたから間違いない」
そんなことよりも、背中の烙印が見られたかどうかで頭がいっぱいだった。
「じゃあ、俺は行くぞ。あぁそれと、もう事件は解決したから着替えていいぞ」
「そうします」
「それにしても、羽の烙印なんて可愛いじゃないか。男のくせに可愛いのが嫌で見られたくなかったんだなっ」
「ええっ!」
「その気持ち俺にもわかるぞ〜。俺はハート型だからなぁ〜。カバンそこにおいてあるから、今日は疲れただろうし帰りな。あとは俺たちが処理しておくから」
「オコトバニアマエサセテモライマス」
バレた、まずい、でも能力自体はバレてないし、エドワードはアホっ子だし大丈夫かな…?
これからの学園生活、不安だらけだ………
◇◇◇
一方その頃エドワードは……
ノエルもそうだったが、女装というものは下着から本気でするものなんだな…勉強になったなぁ。
でも、シエルにひいおばあさまと同じ、羽の烙印があるとは驚いた。
羽の烙印は女性にしか現れないというし、シエルはどんな能力を持っているんだろうか……
と思っていた。
最後までご覧いただきありがとうございます。
もしよろしければ、感想等いただけますと幸いです。