第90話 相模ダンジョン(二)
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第90話 相模ダンジョン(二)
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川崎製鉄所の人たちが、収納袋から採掘機材を出してセットしていく。
自衛隊の方々もそれを手伝っている。
僕とルカ、そして【女神の微笑】のメンバーは周辺を警戒している。
到着から十分ほどしただろうか。
モゾ……モゾ……モゾ……モゾ……。そんな音が聞こえてきた。
「きたぞ、スライムだ」
ショウコさんのその声で、皆の顔が引き締まる。
それはアメーバーのように形を変えながらゆっくりと僕たちのほうへと進んでくる。
大きさは時に三メートル、時に五メートルと形が不定形なため大きさも変わってしまう。
移動速度はあまり速くなく、動きは緩慢に見えた。
色は半透明の緑や青、紫などに変わる。なんとも不気味な魔物だ。
「私たちが先に戦うわ」
「分かりました」
ショウコさんの【女神の微笑】と僕たち(主に僕)は連携できないということで、まずショウコさんたちが先に戦うことになった。
久樹翔子、草薙佳子、天城櫻、国大寺氷雨、十文字留美子、渥美久恵。二級パーティー『女神の翼』のメンバーは六人で構成されていて、ショウコさんとカコさんの二人が一級シーカーになり、他の四人は二級シーカーだ。
ショウコさんは細剣、カコさんは弓、サクラさんは盾と剣、ヒサメさんは槍、ルミコさんは火操作、ヒサエさんは氷操作というバランスのいいパーティーだ。
ヒサエさんが氷の槍を射出する。命中すると、スライムが凍りついていく。
「あれで終われば楽なんだけどね」
カコさんがそんなことを言って矢を射た。
カコさんが射た矢はスライムに命中すると爆発を起こした。その衝撃で氷が粉々に飛び散る。
ただ、スライムだが、まったく意に介していないとばかりに蠢いている。
ルミコさんの炎の槍が放たれると同時にサクラさんが盾を構えて突出する。
ルミコさんの炎の槍が命中しゲル状のボディが蒸発するのだが、すぐに鎮火してしまう。
「まったく面倒なヤツだ」
そこにサクラさんが接敵し、盾をぶつける。
「シールドスラッシュ!」
その攻撃でスライムの形が変わるが、暖簾に腕押し、糠に釘といった感じだ。
ショウコさんが目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出し、ヒサメさんも槍の連撃を放つ。
だが、スライムはその形を変えるだけで、斬られても突かれてもダメージはほとんど負わない。
【女神の微笑】のクランメンバーがスライムを囲み、遠隔攻撃で集中砲火を浴びせる。
圧倒的な火力が浴びせられる。
「倒れろーっ!」
「こんのーっ!」
「やらせはしない!」
スライムは槍のように鋭い触手を突き出し、サクラさんがそれを大きな盾で受ける。まるで金属が激突したような音が響く。
「あんな柔らかそうな体なのに、攻撃は硬質なんだ」
「防御は極めて柔らかく、攻撃は鋭い。厄介な魔物だな」
戦っている人たちには失礼だけど、戦いを見ている僕とルカは気軽に感想を言い合った。
十五分後、スライムはやっと倒れた。ゲル状の体がベチャーッとなって消え、大サイズの魔石を残した。
聞いていたように物理攻撃は効かず、放出系の攻撃にも高い耐性があるようだ。こんな魔物が出るのでは、おちおち採掘もできないというのも頷ける。
「こんな感じで、スライムは極めてダメージが通りにくい魔物よ」
ショウコさんが苦々しい表情をする。
「本当に厄介そうですね」
実際に戦ってみないと分からないが、攻略法は組み立てた。
おそらく、僕はスライムと相性がよいと思う。ルカもそう思っているのだろう、まったく悲観していない。もっとも、ルカは戦闘狂だからどんな相手でも悲観なんてしないと思うけど。
採掘の準備ができたようだ。川崎製鉄所の人たちが機材を操って派手な音を立てる。
こういった音に誘われるように魔物がやってくる。今度もスライムだ。
「次は私たちの出番だな!」
ルカが槍を振り回して肩を温める。
「リオン、殺っていいか」
それは一人で戦っていいかという確認だ。
「どうぞ」
僕たち二人のパーティーは、基本的にルカが前衛で僕が後衛になる。
あくまでも基本形なので、臨機応変に変わるんだけどね。
「まぐれで二級になったヤツの無様な姿を見てやるわ」
「ルカさんに寄生して二級になったくせに」
「ウザ」
酷い言われようだ。僕、泣いちゃうぞ。
ルカは槍に炎を纏わせる。
「「「えっ!?」」」
ルカが『火操作』を使えると知らない【女神の微笑】のメンバーが驚いている。今のルカはそれだけじゃないからね。
「はぁぁぁっ!」
さらに炎が荒々しく渦を巻く。
「「「何、あれ!?」」」
『火操作』だけでなく、『風操作』も今のルカは使う。以前は断られたものも、戦闘の幅を広げるために使うようになったんだ。
炎の渦を纏った槍がスライムに突き刺さる。炎の渦はスライムを切り裂き、さらに蒸発させていく。
スライムが徐々に小さくなっていく。なにせ、『火操作』も『風操作』もレヴォリューションブックを使って共に『改』になっている。威力は折り紙付きだ。
僕たちは常に進化し、強くなっているんだ。
だが、それを黙って受け入れるスライムではなかった。
幾つもの槍の触手がルカを襲う。避けられても避けられても、触手は諦めない。それでもルカは軽やかに躱していく。
無限に伸びるのかと思えるほど触手による攻撃を、ルカは『飛行』を使って縦横無尽に飛び回って躱す。
「と、飛んでいる……」
「「「うそーっ!?」」」
空中を飛び触手を躱しているルカの姿がブレた。その瞬間、ルカの姿はスライムのすぐそばにあった。
「フレアストームスラッシュ!」
ルカが回転する。槍は『火操作・改』『風操作・改』を乗せた炎の渦を纏っており、それが回転しているルカにまで広がっていく。炎の竜巻がスライムを呑み込み、スライムを焼き、斬り、擦り削っていく。
このフレアストームスラッシュは、ルカが編み出した必殺技の一つなんだ。
フレアストームスラッシュの余波が周囲に広がる。このままでは高熱の鎌鼬が川崎製鉄所や自衛隊の人たちを襲い、被害が出る。僕は『時空操作・改』を発動させ、余波による被害がないように防いだ。




