第89話 相模ダンジョン(一)
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第89話 相模ダンジョン(一)
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【女神の微笑】と書面を取り交わしたことで、僕とルカは早速相模ダンジョンがある相模原市に入った。
ホテルは【女神の微笑】が手配してくれたけど、高級なホテルのスイートを用意してくれた。こんなに高待遇でいいのかな。
そのホテルの会議室で、【女神の微笑】と川崎製鉄所の採掘作業員、それから自衛隊の人たちと顔合わせをする。
そこで見知った顔があった。
「倉橋三佐?」
「やあ、カカミさん。久しぶりだね」
スマートメタルのテストパイロットをしていた倉橋三佐がいたのだ。
どうやら、今回の自衛隊は倉橋三佐が率いるスマートメタル部隊が投入されるようだ。
でも、スマートメタルってたしかA級ダンジョンの魔物に対抗できるだけの強さはなかったはずだよね?
「我らSM小隊は川崎製鉄所の作業員の運搬を行うのが役目さ。戦闘は君たちに任せることになる」
「そうなんですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
川崎製鉄所の作業員は全部で十人、自衛隊のSM小隊は八機一三人、【女神の微笑】からは四パーティー二二人、そして僕とルカが参加することになる。
顔合わせと打ち合わせを行った翌日、僕たちは相模ダンジョンに入った。
鉱山ダンジョンなだけあって、洞窟型のダンジョンだ。しかも灯りがない。
僕は『魔眼』があるので灯りの有無は関係ないけど、一般的に真っ暗なダンジョンは難易度が高い。
そこでスマートメタルがライトで洞窟内を照らして進む。一応、各個人でもライトは装備している。
今回、自衛隊は量産型プロトタイプα型(支援型機)を基にした量産機SMA24型を三機、量産型プロトタイプβ型(近接戦闘機)を基にした量産機SMB24型を二機、そして新型機であるSMR1型(索敵用)を一機、SMT1型(運搬用)が一機、SMHM1型(高機動型)を一機投入している。
SMR1型の基本はSMA24型だが、武装は全部外されており、レーダーなど索敵用機能を満載しているためか頭部が円盤型になっている。
SMT1型も基本はSMA24型で、こちらも武装が外されていて、トレーラーのような荷台部が後ろにくっついている。今回はこのSMT1型に非戦闘員を乗せてダンジョン内を進むことになっている。
SMHM1型はSMB24型をさらに高機動にした機体だ。戦闘力は上がっているらしいが、その分継戦能力が低下している。
現在、飛行型機が開発されているが、その前身になった機体でもある。
洞窟を進んでいくと、魔物が現れた。
【女神の微笑】の索敵担当が感知した少し後に、SMR1型もその魔物の接近を捉えた。
「ビッグフライよ」
弾丸のような高速で飛んでくる大きなハエが現れた。
ビッグフライは体長五〇センチメートルで、体は鉄のように硬い。超高速で突撃してくるのだから、もはや砲弾というべきものだ。当たればただでは済まない。
「私が! はぁぁぁっ!」
二十五歳くらいの赤毛の剣士が飛び出した。彼女はクラン【女神の微笑】に所属する三級パーティー『女神の息吹』のメンバーで、ヤマシロ・リリさんだ。
ヤマシロ・リリさんはやや長い一メートルほどの刃の両刃の剣を、素早く振る抜いた。
ビッグフライが真っ二つになり、左右に別れて壁に激突し埋まった。
「ほえー。素晴らしい剣術だ」
「リリは将来を嘱望されている剣士だ。私が呪いにかかった時は四級だったが、今では三級か。私も負けていられないな」
そんなことを言うルカも『SFF』はほぼ全盛時に戻っている。
ビッグフライの魔石は中サイズで透明だ。
それからも色々な魔物が現れては、【女神の微笑】のメンバーが対処している。
大クランなだけあって、【女神の微笑】は三級パーティーが三パーティーもいる。
ただ、どうも僕は【女神の微笑】のメンバーからは嫌われているようだ。僕を見る彼女たちの視線はとてもキツいものになっている。
「あまり気にするな」
そういうルカのせいだと、僕は思っているんだけどね。
休憩を二回挟んで、目的の場所へさしかかった。
「ここからはスライムが出てくるわ。全員気を引き締めてね」
ショーコさんの注意喚起で、【女神の微笑】のメンバーの警戒度が一段引き上げられた。ここまで僕とルカは戦っていないので、頬を叩いて気合を入れる。
「スライムか。私の槍が通用するか、早く試してみたいわ」
「僕はできるだけ遭遇したくないですけどね」
「ちっ」
「軟弱者が」
おっと、あからさまに聞こえる舌打ちと悪口。
まあ、歓迎されているとは思っていないので、構いませんけど。