第86話 大陸の大国の工作員
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第86話 大陸の大国の工作員
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応接室に入ると、僕より年齢が少し上の三十歳くらいの人がいた。ふわっとカールした髪に、ナイスバディのマダムといった感じの女性だ。
この女性、どこかで見たことがあるのだけど……どこだったかな?
「ショーコじゃない」
ショーコさん? ……あ、思い出した! この人はルカとパーティーを組んでいたヒサキ・ショウコさんだ!
ルカはこのショウコさんと他に三人の、合わせて五人でパーティーを組んでいたんだった。
「ショーコじゃない。じゃないわよ、ルカ!」
「何を怒っているんだ?」
「あんたね、呪いが解けたなら、電話の一本くらいよこしなさいよ!」
「あれ、連絡してなかったっけ?」
「してないわよ! あんたの呪いが解けたことも、他のクランに入ったことも、他のパーティーで活動していることも何もかも聞いてないですっ!」
ショーコさんは凄い勢いでまくし立てた。
ルカは元の仲間にまったく連絡をしてなかったようだ。
そういえば、僕たちのクラン【時空の彼方】に入る際にクラン員に確認はしたけど、ルカの元の仲間については特に確認してなかった。
「そうか。連絡はしてなかったな。呪いは解けた。もう大丈夫だ」
え、それだけ?
「ルカ、それはいけないと思うよ。心配してくれた人に連絡してなかったことの謝罪はするべきだと思う」
「そういうものか。ショーコ、悪かった。私はもう大丈夫だから、安心してくれ」
「はぁぁぁぁ……」
ショーコさんはすごく深いため息を吐いた。その気持ち、分かるよ。
「ところで、なんでルカはこのクランに入っているわけ?」
「呪いを解いてくれたリオンへの恩返し」
その瞬間、ショーコさんの鋭い視線が僕に突き刺さった。
「あなたのことは調べさせていただきました。ここ最近、目覚ましい功績を立てていますね」
「あ、はい。それなりには」
「ですが、万年一〇級と言われていたあなたが、どうして四級に上ってこられたのか、少し興味があります」
なんか極寒のブレスが吹き荒れているような……?
これ、敵意だよね? あの双頭竜よりも重苦しい空気なんですが?
なぜショーコさんは僕に敵意を持っているのだろうか?
僕はどこで彼女を怒らせたのだろうか? どれだけ考えても思い当たらないのですけど?
「いきなり現れて、リオンに失礼じゃない。ショーコには理解できないことだってあるのよ」
「む……そうね、失礼だったわ。まさかルカに指摘されるなんて……私、どうかしていたようね」
それはルカをかなりディスってますよね?
「ルカはうちに帰ってくる気はないの?」
「ない」
キッパリだな。
「ルカだから一度決めたことは翻さないと思っていたわ。はぁ……」
深いため息ですね。
「そこでクラン【時空の彼方】のクランリーダーであるカカミさんに提案があるの」
「て、提案ですか? なんでしょうか?」
「うちのクラン【女神の微笑】と提携しないかしら」
「提携ですか……?」
僕はアオイさんを見たが、彼女は指を顎にやって考え込んでいた。
「今すぐに返事しろとは言わないわ。ゆっくり考えて構わない。その気になったら、連絡をくれるかしら」
ショーコさんは連絡先を置いて帰っていった。
「てか、なんで連絡してないかなー」
「アハハハ。ちょっと忘れていただけだ」
まったくルカは……。
翌日、僕とルカは一八層の隠し通路に向かおうとした。
そしたら、マンションの管理会社から連絡があった。僕のマンションに泥棒が入ったらしい。
幸いにもアイカはクランハウスに入り浸っていて、マンションにいなかった。それがいいのかわるいのかは置いておいて、泥棒とは穏やかではない。
億ションだからセキュリティはそれなりに高いはずなのに、泥棒が入った。
監視カメラの電源が切られ、管理人さんが気絶させられていることから、ただの泥棒ではないと思われる。
取られたものは特にない。貴重品は収納してあるから、特に置いてなかったのだ。
「どこかの国の工作員だろうな」
ヨリミツから電話がかかってきて、泥棒の話をした。
「こんなあからさまに僕の部屋に入るわけ?」
「さあな」
どこかの工作員でも、ただの泥棒でも、しばらくはアイカを一人でマンションに入らせないようにしておこう。
億ションなのに……億ションなのに……。
クランハウスに広い部屋があるから、マンション要らないよな。売ろうかな……。
「アイカにメールを入れておくけど、ヨリミツからもマンションには帰らないように言っておいてくれ」
「分かった」
アイカはすでに安住製作所で働いている。楽しそうに毎朝出かけている。
警察の現場検証みたいなのにつき合い、なんかとても疲れてしまった。
「特に被害がないようでよかったですね」
よくはない。
警察は泥棒だと思っているようだが、こんなセキュリティのしっかりしているマンションで、しかも僕の部屋を狙った泥棒なんて明らかに怪しい。
昼を名古屋駅の東側にある揚げ物を出す店で済ませる。
お酒が飲めれば、こういう時にやけ酒ができるのだろう。僕はやけ食いだ。
「うっぷ……食いすぎた……うっぷ」
揚げ物をやけ食いしたら、胸焼けした。
くそ、これも全てどこかの国のせいだ!
しばらくクランハウスで休んでいたら、胸やけは治った。
そこで僕はアイカを迎えにいくことにした。可愛い妹に何かあったら大変だ。
アイカは工場にいた。真面目に働いているようで、何よりだ。
「あれ、お兄ちゃん?」
「フフフ。アイカよ、会社では執行役様と呼びなさい」
「何言ってんのよ」
何、その冷めた対応!?
お兄ちゃん、悲しい!
「ヨリミツさんから聞いたわよ。泥棒が入ったんだって?」
「ああ、部屋の中が荒らされていて、最悪だよ」
「あのマンション、お金持ちしかいないものね」
「泥棒はうちだけに入った。もしかしたら、どこかの国の工作員かもしれない。だから、アイカを迎えにきたんだ」
「過保護ね、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんだからな!」
僕は胸を張った。
「ところで、ここで何をしているんだ?」
「例のものの部品を職人さんに試作してもらっているの」
「ああ、なるほど」
白髪混じりの職人さんが、何やら製作している。職人さんは手慣れた感じだ。
「僕はしばらく工場内を見て回るから、アイカは時間になったら僕の部屋で待っていなさい」
「はーい」
あの泥棒が本当にどこかの国の工作員だったら、安住製作所に工作員がいるかもしれない。
だから、失礼だとは思いつつも、従業員や出入りしている人を『テキスト』で見ていく。
アイカを迎えにきた目的もあるけど、これは大事なことだ。
数百人の従業員を『テキスト』で見ていくのは大変だ。たまにさっき見た人をまた見てしまう。
「ふー……」
恐らく全員を見たと思う。数が多かったから、目が疲れた。
「ちょっといいですか」
安住社長の部屋を訪れる。
「やあ、カカミ君。久しぶりだね」
安住社長は書類の山と格闘していたけど、嫌な顔一つせずに歓迎してくれた。
ソファーに座るように促され、秘書の綺麗な女性がコーヒーを出してくれる。
「アイカがお世話になっております」
「アイカ君は働き者でうちとしても助かっているよ」
まだ入社して大した時間がたってないのだから、間違いなく社交辞令だろう。
「面倒をかけてないようで、よかったです」
「今日はアイカ君を?」
「アイカを迎えにきたのと、あと一つありまして」
「何かな?」
僕は気づかれないように社長室を『時空操作』で隔離した。盗聴器とかありそうだから、念のためだ。
「大陸の大国の工作員が工場に入り込んでいます」
「なんだって……それは間違いないことなのだね?」
「ええ、間違いありません」
メモ帳のページを破り、安住社長に差し出す。そこには工作員の容姿の特徴と偽名、本名が記載してある。
大陸の大国は、以前黒田を通してちょっかいをかけてきた。今回の泥棒騒動も大陸の大国の可能性が高い。
いい加減ウザい。もしアイカやお婆ちゃんたちに何かあったらと思うと、今のうちになんとかしたい。
「この三人が……」
「はい。工場の従業員が一人と、警備員が一人、事務員が一人。他にもいるかもしれませんが、現在発見できたのはこの三人です」
「分かった。すぐに自衛隊に連絡することにするよ。でも、カカミ君はどうやってこの三人のことを知ったのかね?」
「僕のスキルです」
「そうか。ならこれ以上聞くわけにはいかないね。情報提供に感謝するよ」
安住社長はすぐに自衛隊に連絡した。
そしてすぐに社内の盗聴などの捜索が行われ、いくつもの盗聴器が発見された。
さらに、工作員三人には自衛隊の監視がつくことになった。安住社長と自衛隊は、工作員を泳がせるようだ。




