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きゅう

 

「この前の作品、無事渡すことができました。彼らの反応といったら、もう。見ていて笑いを抑えるのが大変でした」


「そんなに喜んでいただけたのなら何よりです」


 渡すのが惜しいくらいの作品でしたけど、アレだけの贈り物だからこその太くて長い()()()ができた、とのことだ。


 喜んでくふくふ笑う画商さんははっきり言って狐のような狡賢さを感じさせる。悪どい商人の笑みだ。


「あぁ、そうだ。今回の報酬の話です。詳しく言及すらせずに後払いのような状況にしてしまって申し訳ない」


「……あ、そうですよね。仕事ですものね、報酬貰えるんでしたっけ」


「君って人は、本当にぼんやりして……」


 もう慣れましたけども、と画商さんがため息をつきながら、手元を見せてくれる。パチパチ弾かれた後のそろばん。

 残念ながら僕にはそろばんは読めない。


「大金2枚の予定でしたけど、出来を加味して3枚でどうでしょう?」


 大金……?


 しまった。妖鏡の世界の通貨の価値観が全くわからない。

 現世では普通に前世のままの『円』基準の生活だったからすっかり忘れていた。



 龍様ヘルプを使うことにする。

 徐にヘッドフォンをつける。

 いちいち説明しなくとも、龍様はきっとわかってくれる。


「愛し子の絵、俺もいつか買いたいな……。あ、ええと、お金の話だったかな?」


 ぼやりと独り言を言っていたらしい龍様。

 目の前の画商の『何してんだこいつ』の目が刺さるから、速く説明して。


「正確に現世の金額に言い直すのも難しいな。大金1枚で城が買えるぞ」


 勘弁してほしい。

 僕はそんなに売れる絵を描く画家ではなかった。

 そんな大量の金なんて持て余してしまう。最悪実家の企業に入金して誤魔化し……無理だった。通貨が別なのだった。

 絵の具より扱いに困る。


「そんなに、価値あったんですか、あれ。しかも出来で1枚プラス……うわぁ」


 単純に考えると城が3つ。どこのお殿様だ。


「君、依頼受ける際に話を聞いていなかったのかね」


 だって、あまり意識していなかったのだもの。しょうがないじゃないか。


「……1枚バラして下さい。そんな使いづらそうな大きいお金、保存方法が困るじゃないですか……絵の具と一緒にトランクにしまっておこうかな」


「それなら、両替して金100枚にしておくよ」


 大金の下位互換が金ってことなのだろう。

 それにしても、100枚は多い。そして重い。


「金は団子屋で使えますか?」


「君は買い物すらしたことがないのかい? 1枚くらいなら店側で両替してもらえるさ」


 でも、駄菓子屋で両替なんてするなよ、と忠告された。

 いわば、コンビニでチロルチョコに1万円札を使うようなもののようだ。

 迷惑な客にはなりたくないから、何か高そうなものを買おう。


「……連絡札って持っているかい?」



「急になんですか……れんらくふだ?」


「あぁ、うん……遠距離で会話を可能にする術の張られた木札のことさ。1人1枚、今時持ってないやつの方が珍しいよ」


 要は、電話しかできない携帯電話のことだろうか。

 メールは矢文とか?

 それとも鳩や鴉に運ばせるとか?


「山から出てきたばかりの猫又の相手してる気分だ……」


「僕、猫より馬派です」


「そんなん聞いてるんじゃないよ」





 木札屋なら、逆さ傘通りの門前の店がいいよと教えてもらった。

 携帯の代用品ってことならそれなりの値段だろうから、ちょうどいいと帰りがけに寄った。



「へいらっしゃぁーい。1名おまちぃ」


「ここ木札屋だよね? ラーメン屋じゃないよね?」


「木札屋で合ってますぜ、お嬢さん」


 出迎えてくれたのは、可愛らしい犬の擬人化。二足歩行の犬だ。パーカー着てるあたりがミスマッチ。


「どんなものをお探しで?」


「種類があるの?」


「おっと、こりゃ、てぇへんなお客様だ。初心者コース一丁!!」


「へぇい、お待ちぃ!」


 ノリがとてもラーメン屋。

 気軽で楽しくて素敵だけど、こってり豚骨味の雰囲気に困惑するしかない。僕は醤油ラーメンが好き。


 店内で、威勢の良い青年秋田犬が、懇切丁寧にわかりやすく説明してくれた。


 木札とは、連絡や書き置きを任意の相手と交換できる優れもの便利グッズだという。なんと木札で、メール交換もできるそうだ。実質、ガラケー。


 現世から持ってきたスマートフォンは、妖鏡の世界ではわいふぁいさんが飛んでいないので使用制限がかかっている。カメラも自動ブレブレ機能のデパフが付く。この世界は機械があまり役に立たない。

 小型音楽プレーヤーは使えるので、機械全てが使えないって訳じゃないけど。


「木札ってのぁ、こういうもんで、連絡札って呼ぶ人もいますねぇ、これが最新型でさぁ」


 見本用の木札を貸してもらった。

 ぱっと見ただの木片。

 言われた通りに、木札の上に手をかざすと、鈴の音がして、木札が光った。


 すごくファンタジーを感じる。


 光った木札には、いつの間にやら通話、()()()の文字が浮かび上がっている。ここは平仮名じゃないのか。和風世界なのに、時折混ざる現代文化。


「試しにこの文字を触ってくだせぇ」


 メールの文字を手で触る。

 浮かび上がる文字が変わり、設定されていませんの文字が浮かび上がる。


「ここに設定した相手が一覧になりやす。通話も同じ仕組みでさぁ」


 使用方法は一通りわかった。

 問題は、種類の差の話だ。


「種類の差はなに?」


「デザインとマナーモードの有無でさ。一番新しいこれは、アラームまで鳴りやす」


「じゃあ、それ一つ」


 まさかの即決?! と目を丸くされた。


 携帯屋さんに行くと、長々と話をされいつの間にかオプション付きまくりの大事故な値段になっていくので、この木札屋さんはすごく素敵だと感じた。

 簡単な説明と、新機種は勧めても、別のオプションを勧めてきたりしない、わかりやすさがとても良い。


「銀87枚でさぁ、ローンは組みますんで?」


「金1枚で払える?」


「太っ腹っすね、お客様! もちろん、喜んでぇ!」


 一応、まだ。可愛い盛りの女子なので、太っ腹といった表現は勘弁してほしい。僕は日頃ダラダラし過ぎているせいで、最近お腹と太ももの肉が気になっている。


「お釣りの、銀13枚、こちらに!」


 金1枚が銀100枚のようだ。なんだこの換算。100枚って相当な数だ。数えるのが面倒。

 もっと数えやすくしてほしい。10枚で進化する感じで。


 銅は何枚になるんだろうか。


 木札屋の帰りに、目を付けていた駄菓子屋で変なお菓子を買った。和傘飴。小さい和傘の形をした柔らかい飴だ。食べにくいけど、優しい甘さが気に入った。


 銀1枚は銅10枚だった。いきなり10枚。

 今まで100枚だったので、てっきり銀1枚で銅100枚になると思っていた。これ、どれが1枚何円くらいの価値なのだろうか。銅は……100円くらいか?


「お金の換算、忘れそうだな」


 そもそも、円に換算しようとするから混乱するのかな。

 大金1枚で城、金1枚で豪華な馬車、銀1枚で安い服、銅1枚で駄菓子。これくらいの感覚でいいのかもしれない。



 家に帰って、持ち物整理をした。

 とりあえず、手持ちは銀20枚くらいでいいだろう……不安だから、金1枚、余分に入れておくか?

 残りは貰った金庫にまとめて突っ込んだ。お金だけでかなりの重さになってしまった。

 銭でじゃらじゃら鳴るトランクを振り回すのはなかなか楽しかったが、邪魔なのでアトリエの端に追いやる。

 まぁ、ともかく。

 これで使える資金ができた。

 次からの散歩では、積極的に買い食いを楽しもうと思う。


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