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ななじゅうしち

 

「彼に、何かありましたか?」


 僕は少しおどけて、それから安心させるように笑ってみる。

 02番というのは、ジェニくんのことだろう。

 彼女が何か彼について不安がっていることだけは把握できた。


「……現在、砂塵組との抗争において、頭部と左半身を負傷している」


「大怪我ですね。僕ではどうにも……とにかく安全なところに運んで、止血をしましょう。あっ、もしかしてジェフちゃんも怪我を?」


「問題ない。立てる」


 彼女はまるで怪我を隠す小鳥のようだった。

 それにしても、僕には彼の姿が見えないのだが、何処にいるのだろうか。


 ガシャンガシャンと音を立てながら彼女は立ち上がった。少しふらつく彼女を支えながら、彼の元まで案内される。

 道中、そこを右だの左だのと指示をくれる彼女に感嘆した。僕の知る道案内はひゅうといってズドンだの、ピャッといてひゅっとだの、擬音まみれなのだ。


 着いた先は壊れた路地。

 一番に目に入ったのは、その中央に陣取った、大きな血溜まりだった。

 一般人に馴染みのない夥しい量の血は、僕には少し生々しすぎた。

 そういえば、ここは戦場だったなあと呑気な自分がぼやく。

 軽い吐き気を気合いと一種の現実逃避でぼやかして、顔も見えないほど血まみれな彼に近づいた。


 正直に言って目を逸らしたくなったが、目を逸らしていちゃ絵も描けない。


「いや、これ生きてます……かね?」


 助ける以前に、死人は蘇ったりしないのだ。この世界ならゾンビくらいにならできるかもしれないが。


「そのこえは……、どうきょうさん?」


「わぁ、死体が喋った……」


「かってにころさないでよ、ひどいなぁ」


 ヘラヘラとしている彼だったが、声に覇気はなく、ゆったりと言葉を紡いでいる。彼が今まさに二度目の死を迎えそうなのは確かだった。


「02番」


 真剣な声が僕らの会話を止めた。

 一度目を迎えている僕たちはどうにも気の抜けた会話しかできなかったが、今にも泣きそうな顔のジェフちゃんに、そういや死ぬって悲しいことだったなと変な考えが頭をよぎった。


「……どうしたんだい、妹ちゃん」


「貴方は、死にますか?」


「たぶんね……あぁ、そうだ。どうきょうさん。妹をね、たのみたいんだけれど」


 頼みたい、とは、僕が前に言った現鏡に来ませんかのお誘いの話のことだろう。誘ったのは僕だ。頷いて言葉を口にする。


「いいですよ……もちろん、君も一緒に」


「したいをつれていっても、おもしろくないだろ」


 死ぬ気満々の彼。まあ確かに、死体だったなら連れて行くメリットはお墓を作れるとか人が腐る行程を見られるとかそれくらいで、あとはデメリットしかない。


「僕の知り合いに、ゴブリ……森の妖精って方がいらっしゃるんですけど、治療、頼んでみようかな、と」


「森の妖精?」


 ジェフちゃんが驚いたように目を丸くした。彼女は表情をここまであからさまに変えるなんて、よほど珍しいんだろうな、ゴブリンもどき。

 今ゴブリンって言いかけたよねと、彼女の兄が、はっきり見えはしなかったが、確かに苦い顔で僕を見たのがわかった。


「この話を受けてくれるかは知りませんけど、死にかけの重症人相手なら対応してくれそうだなって」


 前にトタロウさんが言っていた。森の妖精は怪我も病も完全に治せると、ついでに、僕と会話をした彼らは人助けを断るような人柄ではなかったはずだ。


「……02番は、もう長く持ちません。森の妖精がこの場に来るまで、持つかどうか」


 一瞬見えた希望に逃げられたような顔をしてジェフちゃんが言う。

 多分30分も持たないと、ジェニくん当人が言い切った。少年漫画のような出血量なのに、そんなに持つんだと僕は驚いた。


「大丈夫です。僕。瞬間移動機能が搭載された壊れたカーナビを持っているんです」


「俺をこき使う気だねぇ、愛し子」


「どうせ龍様は断らないでしょう?」


「そうだけれども」


 虚空に向かって話し始めた僕に、彼らは揃って首を傾げた。





「しゅんかんいどう……ふぁんたじーだ」


妖鏡(ファンタジー)の住人が何を今更」


 何も説明しないまま、僕は善は急げと手を鳴らした。


 そして瞬きの後に、見覚えのある里の前に僕らは移動していた。

 目をぱちくりさせる彼女と、息絶え絶えな彼を横目に、僕は里へ飛び込んだ。


「すみませぇーん、どなたかお医者様はいらっしゃいませんかー!」


 原始的に大声で叫び回れば、途端に緑の住人があちこちから顔を出す。初めましての方も、そうでない方もいるが、皆目を白黒させている。何故だ、ここの里の子供は大声で母に声をかけていたじゃないか、何故そんな驚く。


「ひこうきのなかだ……」


「02番。気を確かに、ここは……山です」


「どくたーこーるをやまのなかでやるのか……」


 双子がそんなことを話しているとは露知らず、僕は突撃知り合いの里、お医者様を添えてのミッションを成功させた。


 僕の急な訪問に、慌てて駆けつけ対処をしてくれた苔岩仙人(森の主様)には感謝感激だ。あんまりにも大きな怪我だったから、里に住んでいるゴブリンもどき(森の妖精)たちでは対応できなかったらしい。


 彼らは大事をとって里で休んでいけと口々に言い、軽症だった妹含めて、兄弟で里に軟禁させていった。

 僕も顔の切り傷を治してもらった。ありがたい。


 この世界の住民は、やっぱり優しい。


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