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さんじゅうご

 


 山を歩く。足場は悪いが、前々から山を散歩しているだけあって、不快感はない。役に立たないカーナビの龍様は、今回乗り気がしないと主張するのにルート案内をしている。

 よくわからない神様だ。


「最初、俺に妖鏡を案内されたばかりの頃は、いつも乗り気ではなかっただろう。それなのに、段々と一人で散歩に行ったり、用事をつくったり、俺に言われずとも行くようになって……」


「引きずり込もうとしたのは、龍様でしょう」


「まぁ、そうなんだけども」


 納得のいかない顔をしているであろう龍様。

 長い付き合いになったから、声音で表情まで想像できるようになった。


「とうとう、行くのを止めても、それ(その忠告)をきけないときた」


 これは龍様が最初やろうとした、引き摺り込むことと正反対だ。彼が何がしたいのかわからない。


「えぇ、そうですね。それが何か?」


「……なんでもない」


 彼はやっぱり納得がいかない風である。

 僕はただ、その言葉を聞き流すだけだった。






 何かに惹かれるように、のったりと進んだ。

 山を長いこと歩いた。なんだか重い焦りのようなものを抱えて。

 その後、やっと見えた街は崩壊した廃墟の花束のようだった。

 行ったことはないが、ローマやパリなどのヨーロッパの街並みだと感じた。それを崩してさえいなければ。

 化け物がウヨウヨいるのに、それには一切目が向かない。

 ハンマーで叩き割られたステキなジオラマが魅力的だった。


「狐も亀もいないな。犬は……和街か」


 ぽそりと龍様が呟く。詳しくは聞かない。彼の話はよくわからない。


「あっ、こっちに行きましょう」


 どうしてだかわからないが、僕の足は勝手に進む。

 騒々しい街が背景でしかなかった。

 普段のように面白いなぁという感情は湧かない。


 あたりの化け物たちは僕のことなんか居ないかにようにウロウロと動き回る。忙しなさで僕のことが見えないのかもしれない。


 あ、ここを左に行こう。


 歩き進めて、流れ弾で傷をつくって、爆風に喉を焼かれる。

 足は止まらない。

 しばらくそうやって彷徨いていた。怪我したけど、ランナーズハイ的な何かで痛くも痒くもなかった。

 足が止まった先にいたのは、子供が二人。

 これは運命的なものではなく、何かに仕組まれた出会いであるのを心のどこかで確信した。



 薄紫の宝石と目が合う。真っ白い肌と髪。病院服を着て無垢な顔で寄り添っている。目が合った方の子供は、僕を見て目を丸くした。少年、だろうか。中性的な顔立ちで、驚いた顔を崩さない。

 寄り添うもう一人は無表情で青紫の目をつまらなそうに向けてくる。この子はおそらく少女。そっくりな姿を見るに、妹か何かだろう。


 沈黙したまま彼らを観察する。惹かれていたのは彼らだと分かったが、ここまでの展開が急すぎて頭はついていってない。何を話したらいいのかわからない。


「あー、えっと、何か用かな?」


 薄紫の目の少年が聞いてくる。声まで中性的ときた。

 彼らを見て、この何かに惹かれるような、引っ張られるような感覚が消えた。スッと、わたあめがが舌の上で溶けるみたいに消えたのだ。


 口から出たのはいつもの言葉。


「絵が、描きたくて。モデルになってくれませんか?」


 美しい二人は、絵のモデルに相応しかった。トタロウさんと別ベクトルの美しさ。彼がアダルティなら彼らはキュートだった。

 突然の誘いに彼らは怪訝そうな顔をする。しかし、人がいいのか、ポーズとったほうがいい?なんて陽気に聞いてくる。

 少女の方は何も言わずに話の流れを見ている。

 それに答えて、危なくなさそうな倒れるもののない場所に二人を移動させる。


 その際にやっと、彼らが怪我をしていることに気がついた。僕はなんて鈍いんだろう。

 足に血がベッタリと付いている少年は、顔を微動だにさせないがきっと痛いだろう。絵を描く前に、彼らに包帯を巻く。少女の方より、少年の方が血塗れだ。彼が危険から彼女を庇ったのだろうか。


「あー……ありがと。おねえさん」


「どういたしまして」


「一応聞くけど、ロリコンの類では『違います』あっ良かった」


 白い二人は、寄り添うようにくっついてレンガに座る。

 それを対面でスケッチしながら、雑談をする。

 異質だろう僕を彼らは特に咎めない。龍様も何も言ってない。


「いやぁ、いきなりガン見するおねえさんが出てきたから、びっくりしたよ」


「あっ……そうだろうね……ごめん」


「いや、別にいいけど……どこの人? 砂塵? 塩芋? それとも酢橘?」


「あー、特には所属していないよ。強いて言うなら、酢橘の領域によくいるっぽいです」


「ぽい?」


「あまり、そういうの詳しくなくて」


 会話をするのは少年で、少女は沈黙を保っている。僕がそれに何かを言うことはない。


「ええと……君たちは?」


「俺たちはねぇ……渋柿、あは、ビックリした?」


「いきなり柿」


 なんだそれ、聞いたことない。びっくりも何も、知らないよそんなチームなんて言えば、戸惑ったように返される。


「おっと、知らない感じか……じゃあ、まあ、第四勢力にいるとだけ」


 新たな勢力が出来上がったらしい。彼曰く、研究所みたいなところで、彼らは実験隊だという。誤字ではない。実験体からなる戦闘部隊。どうりで、首元に不可思議な番号が彫られているわけだ。


「なんか、大変そうな時に頼んでしまい、ごめんなさい。お仕事とか作業とかしてました?」


「いや、俺らやりたくて加担してるわけじゃないから、サボる口実もできるし、別にいいけど。それよりおねえさんが不思議すぎて」


 どうしていきなり絵のモデルにと誘ったのかとか、一直線にこちらに向かってくるように見えたけどとか、言われる。


「なんか絵が描きたくて、足の赴くままに来たら、君たちがいたの。一眼見てモデルにしたいと思いました」


「……不思議な人だなぁ」


「そうかなぁ」


 彼らは揃って首を傾げた。


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