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にじゅう・前

 



「最近、眠そうだな」


 普段全く自分から話しかけてこないトタロウさんに心配の言葉をかけられた。十中八九、ホノさんとの爆発観賞散歩が原因だろうなと思いながら、依頼で少々忙しくしていてと返事をする。嘘はついていない。


「そういえば、画材屋さんって、どこら辺にあるんでしょうか?」


 話題転換のためにも、話を振る。

 実際、妖鏡の世界に来てからずっと探しているのに見当たらないのだ。僕の探し方が悪いのだろうか。

 こちらの世界特有の画材は面白いものが多いが、僕の手持ちにあるものは全て貰い物。商品を見たいし、既に持っているものも買い足したいし、あわよくば新しい技法に挑戦したい。



「……逆さ傘通りではまず見かけないな。一つ先の最中通りか、少し治安が悪いが、古鼠通りに何軒か覚えがある」


「こそどおり……行ったことないです」


「アンタが一人で行ったら確実に犯罪のカモにされる場所だ……」


 この人が僕のことをポヤポヤした危なっかしい生き物だと思っているということだけはよくわかった。

 放っておくと一人で行ってしまいそうだからと、今日は古鼠通りに向かうことになった。


 歩いていくうちに、段々と人気が少なくなり、薄暗い路地裏のような雰囲気の場所に出る。たまにこちらをチラ見する怪しい黒服や痩せ細った謎の生き物が道の端で寝そべっている。ザ、裏路地って雰囲気。

 トタロウさんがいるおかげか、特に何も言われず攻撃もされなかった。


 それにしても、ストリートアートで埋め尽くされそうな場所だというのに、落書きの類は何処にもない。スプレー絵の具が流通していないのかもしれない。


 一店舗ずつ、トタロウさんが案内してくれる。口数は少ないが紳士であるらしい彼は、時折僕の手を引きながら進んでいく。龍様の壊れたカーナビよりわかりやすい。


 一軒目はボロボロの木造建築。

 二軒目は優雅なお屋敷。

 三軒目は鮮やかな露店。

 どれも面白い商品が山のようにあって、かなり時間を消費した。というか、一軒目から三時間居座る事態になって、トタロウさんに引き摺られる形で次の店に移動したので、三軒目は全くゆっくりできなかった。


 また来たいですと、テンション高めにトタロウさんに主張する。わかったから落ち着けと冷静に対応された。


 今日一番のイチオシ商品は、人魚の鱗からできたというキラキラ光る鉛筆。百均のラメ入りのような安っぽい光り方ではなく、上品に輝く一品。青色系統しか色がないかと思いきや、二十四色色鉛筆を超える数の種類がある。


 人魚が原材料とあり、犯罪商品じゃないかとトタロウさんが一言。犯罪かどうかはさておき、品物自体は一級品だ。


 是非とも欲しいけど、トタロウさんが横にいるし、買って捕まったら困る。この妖鏡の世界では人魚は絶滅危惧種なのかぁ。それならば、ドラゴン……龍様もきっと絶滅危惧種。



 他にも目につく商品は多くあった。

 ユニコーンの毛で作られた毛筆。金を溶かしたような絵の具。希少なトレントの果実から作られた染色材。物珍しくて、素晴らしい画材が僕の精神に揺さぶりをかけてくる。

 そうなると予想して、お金は大量に持ってきている。つまりは買える状態にある。

 ……全部犯罪商品らしい。

 一級品なのに買えないことが悔やまれる。


 買った場合、その地域の自警団や支配している組に捕縛されてしまうだけでなく、最悪の場合、殺されたり、拷問を受けたりするらしい。絶対嫌だ。

 店側は、そう易々と捕まらないさと自信満々だったが、トタロウさんはその組の者とやらなので、そのうち捕まると思う。それもあって、買えない。

 店員さんに向けて心の中で、両手を合わせた。

 南無三。

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