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じゅう

 

「護衛の話、本気だったんですね」


「えぇ、君、思ってた以上に、抜けてるんで」


 誰かつけておかないと不安ですと真正面から言われた。

 そうですかと返事した。

 僕は赤ちゃんではないのだから、そんなに心配しなくても良いと思う。




 数日振りに画商さんに会った。

 彼は僕と逆さ傘通りの門前で待ち合わせをしていたのだ。


 買ったばかりの木札で通話とメールの設定をしてもらった。

 友達1名の悲しい携帯のようになってしまった。

 他の機能も全て初期設定。前世でもあまり弄った記憶はない。僕は機械を無闇に触らないタイプの人間なのだ。

 このままでは寂しい携帯なので、今度職人の和陽さんも追加してもらおう。


 一つ主張しておくが、僕にだって友人くらいいる。

 現鏡でのスマホくんの中身は断じて1人2人しか登録していない状況ではない。前世でも多くはないが友人はいた。


 ひと段落すると、着いてきてくれと言われ、普段あまり通らないような家と家の隙間を、縫うように移動することになった。目新しいものが沢山あって面白かった。


 辿り着いた先。少し大きめな木造建築。看板が掲げられており、ガタついた戸の先には気怠げな若い男性がいた。和装がよく似合っている美人。


「こちら、雇われ護衛のトタロウ」


 初対面の男性。パッと見、普通の人間。

 少し愛想のない彼は軽く、どうも、と言葉を発した。

 いらっしゃいの一言もない。何しに来たと画商さんに目線を送っている。

 どうもと、僕も返事をする。他に言うことがない。

 自己紹介をしろと、画商さんが、彼に促す。


「……修理専門『えんずや』店主、トタロウ。護衛は副業」


 どうにも言葉足らずな気がする。

 修理専門というのは何だろう。

 何か物を直すお仕事なのだろうか。


「……えぇと、画家やってます。露羽(つゆはね)です」


 他には何を紹介したらいいのだろうか。

 このヘッドフォンに自称、龍の神様のナビゲーターがいます、とか?

 変な人だと引かれたくないのでこの案は却下だ。


「君たちなんだかギクシャクしてるね。いいけど」


 慣れないお見合いに駆り出され戸惑う若者の図。

 カクカクした自己紹介をし合った。初対面なんてそんなものであろう。

 画商さんは、この前話した子だよ、なんて彼に話しかける。


「彼女、『条件付きの絵の具』で、かの『和陽』の作に絵付けした画家なんだけど」


「……それだけでもう、情報過多」


 頭が痛いとばかりに額を抑えた彼を放置して画商さんは言葉を続ける。


「物知らずで、ポヤポヤしていてね。どう足掻いても変なことに巻き込まれそうな子なんだ」


「……オシロ。おまえ」


「うん、君の予想通りだよ」


 この画商さんの名前ってオシロっていうんだ。

 だいぶ長い付き合いだというのに、知らなかったなぁ。

 二人で淡々と話を進めているのを他人事のように眺める。


「君には子守を頼みたい」


「僕は赤子じゃないのですけど」


 話を遮るつもりはなかったのだが、そのセリフは気に入らなかった。子と称され、不満げに口を尖らせる僕に、相手は疲れたような目を晒した。まるでわかっていないとでも言いたげだった。


「似たようなものだろう。連絡札を知らない。物の世間での価値がわからない。それなのにあちこち歩き回って、無償で絵を描きまわってみたり、さまざまな者と交流してみたり、いつか何かに巻き込まれるのは目に見えている」


 僕はそこまで言うほどコミュニケーション能力は高くない。話しかけられたら返事する程度である。具体例の内容に見覚えがあるから、ハッキリと否定はできないが。


「オシロ、急すぎる。だいたい、俺は修理屋だ……四六時中面倒をみるには向かない」


 どうにかして断りたいと彼は面倒くさげな顔をしている。

 それはそうだろう。誰だって面倒そうなことにわざわざ関わりたくはない。


「たまに気にかけてくれる程度でいい、それに君の店、いつも暇しているじゃないか」


 そういうことだから、と無理やり話を通した画商、改め、オシロさん。オシロさんはとてもいい笑顔でニコニコと笑っている。


「君も、散歩なり、遠出の依頼なり、長時間街を彷徨く場合は、彼に連絡をとってくれ……いいかい? 迷惑をかけるとか、いちいち呼ぶのもなぁ、なんて思わないでくれ。君はどうにも控えめで遠慮がちすぎるんだ」


「そうです、かね?」


 控えめで遠慮がちなんて初めて言われた気がする。

 首を傾げて深く考えてみる。

 個人の性格としては、遠慮がちというよりもグイグイいくタイプであると思っていた。なんせ反抗期入ってきた今世の弟にわちゃわちゃと話しかけすぎてブチギレられた経験を持っている。

 思春期の男の子の感情は、理解できない。

 反抗期というのも身に覚えがなく、どんな精神状態なのか予測できていないからだ。

 おかげさまで色々と苦々しい思いをさせたであろう弟よ、悪いな。でもわからないものはわからないのだ。


「木札出せ」


「あ、はい。どうぞ」


 突然、トタロウさんが僕に向けて喋った。

 咄嗟にサッ、と木札を差し出す。

 言われたままに手渡しただけなのに、微妙な顔をされた。


「……少しは抵抗を見せろ」


 何に対しての抵抗が必要だったのか。まったくもって意味がわからないので曖昧に返事をする。


「彼曰く、もう少し警戒心を持てってことだと思うよ」


 明らかにわかっていない顔をしていたね、とオシロさんに言われる。わかっていなかったのだから仕方ない。


「登録した……好きに呼べ」


 散歩の付き添いだし、料金は買い食い代金でいいとのこと。

 ちゃんとした依頼の付き添いは、内容によって請求するそうだ。護衛代金の定価価格は銀50枚くらいから金1枚のものもあると聞いた。高いのか安いのか僕の価値観ではわからない。とりあえず、この木札は思っていたよりも高価なもののようだった。


 通話の呼び出し一覧に今日で2人も追加された。

 登録名は、『護衛兼修理屋』と書かれている。率直すぎる。オシロさんの分は『美術商』と書かれている。絵画以外も扱うから、画商だと不適切だったようだ。

 それにしても、みんなこんな感じなのだろうか。僕は連絡帳には名前が連なるものだと思っていたのだが。

 わかりにくいけど、わざわざ変えずとも誰かは判別がつくので、そのままの方針で。


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