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第十話 甘くて酸っぱい罠

 ライベは、ヘムカを立たせたものの動かないため引きずるしかなかった。しかし、それもまた面倒であるため、ついにライベはヘムカを担ぎ家へと向かう。

 目立ちそうなものだが、道中道を行き交う街の人々と多くは小麦や農作物を肩や頭に乗せていたため、さほど目立ちはしなかった。ここでは、奴隷など農作物程度の扱いなのだ。


「あら、ライベさんじゃない?」


「ライベさん! こんちゃーっす!」


 真昼間ということもあり、ライベは近隣住民からの視線を多く浴びる。ライベは気にしていないどころか、気さくに手を振ったりしてもいる。人望があるのだろう。

 ヘムカの方も見ているが、ライベが担いでいるとあっては無闇矢鱈に聞くのもはばかられる。そのため、変な目で見るものもいたが、直接害を与えられはしなかった。

 しばらく歩き続け街の端まで行くと、一軒の家の前でライベは止まった。ヘムカたちがやってきたのは、街の端にある巨大な邸宅だった。住宅街はここら一帯で途切れていることもあり、この辺りは街の中心部から連続する市街地としては最果てのようだ。この邸宅を過ぎると、草原となっている。

 大理石を用いた二階建てで、広大な敷地の中に庭や池などもある立派なものだった。そして、邸宅の敷地は高い金網、そしてその上は鉄条網で囲まれている。


「ここが私の家です。立派でしょう?」


 ライベはヘムカに目をやるが、何も反応を見せない。


「まあいいです。奴隷を従順にするのも主人の務めですからね」


 ライベは意味ありげな笑みを浮かべるなり、門扉を過ぎる。すると、門扉の側で佇む門衛がライベを見つけて敬礼した。


「お疲れさまです!」


「そちらこそお疲れさまです。適宜休んで下さいね。ですが、休憩部屋に彼女を連れ込むのは感心しませんよ」


 兵士はその瞬間、一気に顔が真っ青になり至るところから汗が吹き出る。


「そ、それは──」


 言葉を選ぶのに迷っているも、ライベの顔は特段変わらなかった。


「まあ、きちんと働いてくれるのであれば何も言いませんよ」


 兵士に告げるなり、兵士は緊張の糸が解けたのかその場に倒れ込みライベを仰ぎ見た。


「ありがとうございます!」


 ライベに対して土下座しつつ咽び泣きながら感謝している兵士のいる門扉を過ぎ玄関から邸宅の中へと入る。

 内装も、外見にふさわしい立派な豪華絢爛なものばかり。

 玄関を過ぎると、中にあったのはいくつもの扉だ。


「気になりますか? 私はいろいろと研究しているのですよ。そのためには、部屋はいくつあっても困りませんからね。いずれは見せてあげましょう」


 いくつもある扉にヘムカの目線が向いていたのを感じたライベは、部屋を大まかに説明した。

 しかし、ヘムカはただ見渡していたに過ぎなかったのだ。

 その後、ダイニングへと向かう。担いでいるヘムカを、無理やりダイニングの椅子に座らせる。

 どんなことをされるのか。そもそも、こんな邸宅を買えたり、守衛を雇えたりする時点で相当な財力を持ち合わせていることは明白。そんな彼がヘムカを買った理由──。それは、お金を積んでも憚られるようなことをする以外にヘムカは考えられなかった。

 痛くなければいいと願っていると、ライベはヘムカの耳元に口を寄せる。


「ちょっと待っててね」


 そう優しく囁くと、ライベは手枷と足枷を外しダイニングを離れ奥の厨房へと向かう。そして少しの時間が経過した後、ライベはサービスワゴンに何かを載せてやってきた。

 ヘムカから見て、サービスワゴンに乗っているのはクローシュ。クローシュをわざわざそのまま運ぶことなどないので、恐らくは料理に被せているのだろう。けれども、それらの料理はヘムカに提供されることはない。奴隷はお情けの切れ端などで充分なのだ。

 しかし、ライベはサービスワゴンをヘムカの隣まで移動させるとクローシュを被せた料理皿をヘムカの目の前に置いた。

 これは何か。そうヘムカは思いライベの方を見る。

 ライベは微笑をすると、クローシュを取った。

 クローシュの下に隠れていたのは魚のポワレだった。何の魚かはわからないが、見た感じ白身魚。香ばしい匂いが漂い、ヘムカも思わず無意識の内に唾液を貯める。

 しかし、奴隷が食べてはいけない。そう思い我慢しようとするも、ライベはナイフとフォークを差し出した。


「食べていいよ」


 本当に食べていいのかわからなかったが、とりあえず言われたままにナイフとフォークを手に取り魚を切り刻む。そして、一欠片をフォークに挿しそれを口の中に運ぶ。


「おいしい……」


 他に言葉が出なかった。

 奴隷になってからの数日間、碌なを食べていない。そもそも、村にいるときでさえ料理とは焼いたり茹でたりするもので味付けはほとんどなかった。

 長らく貧乏舌だったヘムカにとって、この調理された魚のポワレは一級品のように感じられたのだ。


「よかったです。とっておきなのですよ……」


 ライベは先程からずっと笑みを浮かべていた。

 そんな中、ヘムカはふとナイフとフォークを落とした。わざとではない。手に力が入らないのだ。


「あれ……? 眠くなって……」


 ついでにヘムカの意識まで朦朧としてくる。ライベの方を見る。そこには、悍ましいほどに口角が上がったライベがいた。

 そして、ふとヘムカが気がつくと何も見えなかった。手足も動かせない。力は入るのだが、何かに固定されてて動けやしないのだ。


「起きたのかい。ようこそ、気に入ってくれたかい?」


 聞こえてくるのはライベの声。ようこそと言っている当たり、きっとこれはライベが望んだものなのだろうとヘムカは確信した。


「おやおや、奴隷がそんな態度じゃいけないよ? それとも、お仕置きをお望みかい?」


 ライベは誂うかのように戒める。けれども、その目はひどく笑っていた。

 何を隠そう、ヘムカの両手両足は台に縛られていた。また、口には猿轡。目には目隠しをされてある。


「実は私、魔法が得意なのですよ。だから治癒魔法の実験をさせてください。従順なる奴隷なら当然のことでしょう?」


 そう言って、一切抵抗できないヘムカに向かって短剣を取り出すと何の躊躇いもなく各所に突き刺す。

 当然のように血が溢れ、一般人にはとても見るに堪えないような、そんな血まみれの姿になっていた。

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