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プロローグ

 強い風が吹きながらも、雲は少なく満月が綺麗に輝いているある日のこと。

 松の木が茂る山と山の間に挟まれた幹線道路があった。車通りは少ないが、一応市町村同士を結ぶ大切な道路。そんな道路の脇に、車が停まっていた。

 黒の軽自動車だ。決して真新しいわけではなく、それなりに使われている車だ。

 そんな中、山の中から一人の男が少女を抱えて車の中へと乗り込んできた。男は痩せ型で、それ以外はとりわけ特徴がない。

 一方の少女は寝ており、頭頂部から生える狐耳と朽葉色の髪の毛、尾骨の辺りからはふっくらとした狐のようなしっぽが生えておりボロボロの貫頭衣を着ていた。

 男は少女を助手席に寝かせ、シートベルトを装着する。そして、運転席へと乗り込むとエンジンペダルを踏む。

 仮免許といったほうがしっくりくるほどに男の運転はどうにも辿々しい。

 赤信号で丁度車を停めると、男は改めてその異質な少女を見た。男が今まで見てきた世界とは異なる世界からやってきたと言われても自然なほどに異質である。


「やだ……やめて……」


 少女は涙を流し始めた。怖い夢でも見ているのだろう。

 男は優しく涙を掬ってあげる。だって、男にはそうすることくらいしかできないのだから。


「大丈夫だから……ね?」


 男は優しい言葉を少女に投げかけた。眠っていて聞いていないとわかっているのにも関わらずだった。

 信号が青になり、辿々しい運転を繋ぎながら田園地帯へと突入する。各所に家屋も点在していた。

 男はその中の一軒家の一つに到着した。

 駐車スペースに車を停めると、少女を抱えて玄関前まで向かう。

 ブロック塀に囲まれた一軒家で、中には苔むした庭があり濡れ縁から出入りが可能だ。全て一階建てで、洋室はあるものの和風建築が主であった。

 男は何かに気がつくと慌ててトランクへと戻った。そして、トランクの中に入っている膨大な量の荷物の中から箱を取り出し、さらにその中から鍵を取り出した。玄関へと戻ると、その鍵を使い扉を開けた。

 人が住んでいなかったのか、各所に埃が溜まっている。


「掃除しなきゃな……。それに……当分帰れなくなるんだから」


 男はそう呟くと、家の奥へと向かっていった。


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