アリーナ、エリカを知る
あれから毎日アリーナは僕達の所にやって来て、エリカとミュラーの剣の稽古を見学する。
お弁当の差し入れは毎日必ず持って来る。そして一緒に食べて行く。アームレスリング? それは、勿論参加しているよ、相変わらず全勝だ。今じゃあ誰がエリカを倒せるかで盛り上がっている。エリカは気まぐれで参加する程度なので、参加する日は店の中に入りきらない位に客が溢れる。
アリーナがミュラーに夢中なのは誰から見ても解る。だから、男性陣は面白くない。そこでミュラーを指名して挑んでくる。が、しかし、エリカの弟子である。ミュラーも負け知らずになっていた。
僕にベルシュタが言う、『冬が来るよ』と。
「エリカ、冬が来るよ」
僕は稽古を終え歩いているエリカに言う。
「そう……冬はこの街で越すのね、準備を始めないと行けないわ。今年もダイアウルフを狩るわよ!」
エリカも嬉しそうだ、セルシウスやフラウ達にもまた逢える、僕はウキウキしていた。
「シルフィー何だか嬉しそうね」
アリーナに言われる。
「うん! 冬の妖精達に逢えるからね、楽しみだなあ」
「そうなんだ、妖精ね……私はセルヴァンとは良く会うけど、その妖精達に私も逢えるのかしら?」
アリーナも期待する様に僕を見て言う
「ドラゴンの君には気候的に厳しいんじゃない? 今まで冬はどうしていたの?」
「人間の姿で自分達の街で暮らしていたわ。あの大きさで暮らしていくには無理があるもの、人間になれば人間の街に行けるから食べ物も何とかなるでしょう? 私はお洒落もしたいから服も買いに来ていたわよ」
「そう、なら貴方様にダイアウルフのコートがいるわね」
エリカが言う。
「あれって温かいのよね、でも高級品だからなかなか手に入らなかったの。そうか! 自分で狩ればいいのね! 私もそれに参加してもいいのかしら?」
「ギルドに依頼が来たら行きましょう。私達は同じ冒険者の仲間なのだから」
その言葉に嬉しそうにミュラーの腕に摑まる。僕はアリーナの顔に近づき目の前で言ってみた。
「ねえ、アリーナ、僕をドラゴンの街に連れて行ってよ。人間じゃないから大丈夫でしょう?」
「そうね……春にはこの街を出るのよね……本当はミュラーを連れて行きたいのだけど……」
ミュラーの腕を摑まえたままチラっと上目遣いでミュラーの顔を見る。
「僕はどんな顔をして行けばいいのかな?」
ミュラーは顔を引きつらせながら言う。
「私のご主人様ですって紹介したいわあ!」
「それって、何か誤解されそうな言い方だよね……」
それを聞いてエリカは笑う。
「間違ってはいないけどね」
困っているミュラーをからかう様に笑う。
「帰る時一緒に行きましょうか? この後あのお店に行くけれど一緒に行く?」
ミュラーは首を横に振る
「僕は遠慮しておくよ……稽古終わりにはちょっとハードだよ。皆の視線も怖いし、あの中って殺気立っているでしょう? 僕は苦手だな……そういう場所」
「まあ残念……ミュラーのカッコイイ姿見たかったのに…」
確かに……あの時のミュラーはカッコイイ! スタートの声がかかった瞬間バンって倒しちゃうもんね! スカッとして気持ちいい!
「それじゃあ私達は宿に帰るわ」
エリカ達と別れてお店に行く。
♢♢♢
「相変わらず強いよなあ。このアリーナに勝つって……どうなんだろう? 魔法でも使っているのか?」
僕はそこで言う。
「エリカは魔法は得意じゃないんだ、あのフェイに教えて貰っているはずなんだけどね」
「今フェイって言ったか?」
「そうだよ、本人は知らなかったみたいだけど」
「そりゃあ強い訳だよなあ、フェイに魅入られた人間なんてそういない。カストルの王は有名だから知っているが、他に聞いた事はない」
「ねえ、エリカってそんなに有名なの?」
アリーナが聞く。
「おいおい、まさか知らなかったのか? 最年少で特級クラスをとった冒険者だぜ」
「……そう……なんだ……」
うーん? アリーナ、まだ解っていないって顔だ。僕だって最近知ったばかりだからね、これからその凄さを知っていくといいよ……。




