職人の親子
「そう? それじゃあ、追い越されない様に私も頑張らないと行けないわね」
そう言われて余計に焦り始めるミュラー
「エリカ、これ以上強くなってしまったら、特級以上のランクを考えなきゃあいけなくなるよ!」
その会話を聞いていたスライムは
「いいじゃないか、上を目指したり、挑戦する事を忘れてしまうと後は落ちて行くだけだ」
そうですね……僕は……このままでいいのかな? 僕だけ置いて行かれてるみたいな気分になる、そんな様子を見たスライムから
「シルフィーは今のままでいい、君は人間と妖精を繋ぐという大切な役割を持っている。それは、君にしか出来ない」
はあ! スライムさん!! 擦り寄りたい気持ちを押さえてミュラーの後ろに隠れる。
「ん……眩しい……困ったもんだな、気持ちを抑えるとキラキラは増幅するんだな……」
話していると、誰かがスライムの前に来た。
「頼むよ、あんたからも言ってやってくれないか」
「モンスターの話を聞くっていうなら、聞くし話もするが?」
若い職人らしい人間が親方らしい人間と一緒に来ていた。
若い職人に向かってスライムが言う、
「君は独立してやって行きたいと思っているのかな?」
若者が驚く
「どうして分かった?」
と、不思議そうに見る。そこで、親方だろう人間が
「まだ、早いと言っているのだが……どうしても、自分でやりたいと言うんだ」
「君は師匠から受けた教えは全て覚えて全部自分のものに出来た、と言う事で合っているか?」
「ああ! そうだ!」
「あんたは何故この弟子がまだ早いと思うんだ?」
「客相手の仕事だ、こいつはまだその辺が分かっていない、痛い目に遭ってからでは気の毒だ」
‥‥‥スライムは若者に
「君はちゃんと計画は立てているのか? 日々の売り上げ、買い出しだって若いというだけで舐められる。交渉手段は学んでいるのか? それに将来どうしたいか目標は決めているのだよね」
「親方を見て来た!」
真剣にスライムを見る、
「やってみるといい親父さん、やらせてみるといいよ。痛い目に遭ったり、時には損もするだろうがそれも経験だ。そうやって辛い経験もしないと、世の中そんなに甘くはないって事が分からないからな」
「‥‥‥‥‥‥」
「見守るのも、教える者の責任だ」
「そうか……そうかも知れん、分かったよ」
「若者! 頑張れよ」
スライムに言われて嬉しそうに走って帰って行く。相談に来た親父さんに
「身内こそ突き放さないと行けないお互いの為にもだ、身内だからつい余計に口を出したくなる、だから、離れていた方が上手くやれる事だってあるんだ」
黙ったままの親父さんに
「困った時は助けてやるといい」
「ありがとな、スライム」
と、親父さんも帰って行く。
「相変わらずスライムの助言には納得させられるよなあ」
と、ミュラーと顔を合わせて言う
「本当に難しい話をしているのね、でも、あれで良かったの?」
とエリカが聞く
「離れてみて初めてその有難みが解るんだ。逆に解らない奴に未来は無い」
「なかなか厳しいわね……いつもあんな感じなの?」
と僕にそっと聞く、
「そうだね、もっと専門用語みたいなのが出てくる事もある。僕には分からないから、スライムさんとは別に話してるよ」
スライムは、
「そうだな、シルフィーは能天気に騒ぎ過ぎだ。妖精だからと皆が甘やかす」
「スライムさんの所にだって最近は女性も相談に来ているし、美味しそうな物をいつも貰っている!」
と僕は反論してみる、
「相談料だ、当然だろう? シルフィーは貰っているだけだろう? まあ、シルフィーのキラキラを人間は喜ぶみたいだから仕方ないのか……」
食事も終わり蒸しパンを買って宿に帰る。
夜にはまたお店に行こう、皆が待っている。
 




