ディコンキ・ムジークの街(5)悪しき妖精とは
そこには、にこやかに笑う昨日のおじさんが居た。
「大丈夫だよ。食事も終わった所だから、飲みものでも飲みながら話を聞かせてよ」
と僕はエリカ達を紹介する。
「へえ、あんたが有名な剣姫か。そうか、その妖精がシルフィーなんだね」
「エリカってそんなに有名なの?」
僕はそのおじさんに聞く、
「なんだ、一緒にいるのに知らなかったのか? 最年少で冒険者の特級クラスを取ったんだ。それに今じゃあ“妖精を連れた剣姫エリカ”って呼ばれているからなあ、冒険者じゃなくても知っているよ」
おお!! そうなんだあ! とキラキラさせてエリカを見る。エリカは困った顔をする。
「で? 君が喋るスライムか」
「そうだね。喋る事が出来る変わったモンスターだよ」
おじさんはスライムを、まじまじと眺めて
「面白いじゃないか」
と、満面の笑みを浮かべて言う、そんなおじさんにスライムが言う
「ドラゴンに会ったって聞いたが、よく食われなかったな」
「そうだろう? ドラゴンを見た時、食われるって思ったよ。だが、ドラゴンは俺を助けてくれた。その後は何処かへ飛び去って行った」
そう言ってあの本を出す。
「これに、そこまで行った道のりや街も書いてある。行ってくるといい、まだあるなら見つける事は出来るだろう。もし、ドラゴンに会ったら言ってくれ、あの時の青年はおじさんになって田舎で楽しく暮らしているってな、あの時は世話になったって」
いい話だよね。その後は僕に話してくれた事をエリカ達に話していた。僕はキラキラさせてお店の中を飛ぶ。お店にいる人間達は沢山声をかけてくれて話してくれる。そこで、妖精に詳しいと言うお婆さんも加わって賑やかになる。
「そうかい。王には許可を貰っているのなら、問題は無いね。私が知っている妖精よりこのシルフィーの方がよっぽど詳しいよ。私は悪しき妖精の事を調べているからね、悪しき妖精は時にモンスターと呼ばれ、人間を惑わし食べてしまう、そんな話を聞いても楽しくはないだろう?」
「私はモンスターだが人間は食わん」
とスライムが反論する、
「人間に害する妖精はモンスターよりたちが悪いのかも知れない」
と、僕が言うと、
「そうだね。人間が自然に対して恐れを抱く。それが、そのような形になって妖精のせいだとなってしまったのかも知れない」
とお婆さんは言う。その日も遅くまで話してしまった。
ミュラーは眠そうにしていた、そんなミュラーを見たエリカは
「帰りましょうか」
と、僕達に声をかける。僕はおじさんとお婆さんの2人に話してくれてありがとう、とお礼を言って別れた。ミュラーは宿に着くと直ぐ寝てしまった。
最近のエリカの稽古もハードになってきたからね。でも、ミュラー背が伸びたよね?
皆が寝ても僕はさっきの話が気になってなかなか眠れない。窓から外を眺めていたらスライムが僕の所に来て、
「今日は森に行かないのか?」
と聞いてきた、
「妖精も、人間のように、それ程眠りを必要としない。モンスターもでしょう?」
「そうだな。我々モンスターは夜の方が元気だな」
「危険な妖精は沢山いるんだ……中でも、ケルピーなんかは有名だよね……」
「どんな妖精なんだ。私は妖精には詳しくはないんでね」
「人間を自分の背中に乗せる為馬具は揃えてあるんだ。人間が乗るまでとても大人しくしている。けれど、乗った人間は二度と降りられない……乗ってしまった人間は、そのまま水の中に引きずり込まれて、食べられてしまうんだ」
「それは、何とも……まるで食虫植物のようだな。罠を張って待つ……か」
それを聞いて、スライムは
「そう考えるとモンスターは単純だ。力関係で相手を見極める。だから、自分より強いものには向かっていかない」
そうだね、僕達は暗くなった森を暫く見ていた。
【ケルピー】スコットランド高地に伝わる水棲馬(ウォーター=ホース)アイルランドの伝承では、アッハ・イシュカと呼ばれている。
人間の男性に化身して女性を誘い狂暴化すると言う話もある。




