オル・フェルム・ルイユ
「このまま眠ったままだと人間は死んでしまう。それを解って言っているの?」
僕はオーレに言う。
「勿論」
「君はいつからそんなわがままを言うようになったの? 君だって子供は大好きじゃないか。こんな事したってこの子供達は幸せじゃない!」
僕は大きな声で言う。他の大人達には見えていないので、何を話しているのか解らない。オーレは子供達を見て
「そうかな? 見てよ。この子供達幸せそうに寝ている」
傘をクルクル回す。
「それは君の力で楽しい夢を見ているからでしょう?」
大人達は心配そうに黙ったまま子供達を見ている。
「オル・フェルム・ルイユ」
「もう1つの君の名前だよね」
オルがたじろぐ……
「ナニーが、ナニー・ボタン・キャップがこれを知ったらどうするの? きっと悲しむよ。彼女は子供の成長をなにより楽しみにしている」
「ナニーの事は言うな……」
喧嘩でもしたのかな?
「ナニーと何かあったの?」
僕は聞いてみた
「ナニーは気に入った子供に付きっきりだ。私の事など忘れてしまったかのように……」
これって? 焼きもち?
「もしかして、オル、子供にナニーを取られたみたいになって寂しかったの?」
「!!」
当たりか……
「こんな事をしたら、余計にナニーは怒ってしまうよ」
「……」
「それは解っているでしょう? 何せ完璧な乳母だからね。子供の成長はあっと言う間だよ。今までもそうだっただろう?」
「……今度の子供は違うんだ……彼女が気にいったのはエルフの子供だ。何故? 人間の子供が大好きだった彼女がエルフのそれもハーフの子供なんかに……」
ハーフエルフっているんだ!
「子供を差別してはいけないよ。きっとナニーもその事を心配してその子供と一緒にいるのだろう? 違うかい?」
「オル……」
そっと、問いかけてみる。
暫くオルは考えて言う。
「シルフィー、君は妖精と人間どちらを選ぶ?」
「僕は人間を選ぶよ」
即答で答えた僕に驚く。
「どうして?」
オルは僕の答えが気に入らないのか、難しい顔をする。
「だって人間と僕等とは時間の長さが違う、ほんの少し人間と居たっていいと思うんだ。その人間達と楽しく過ごした時間は僕等にとってかけがえの無い物となってその“思い出”を持って僕等は長い時間を生きていける。そう思わない?」
眠った子供達を見て、
「この子供達だって楽しい夢を見せて貰った君の事はきっと大人になっても忘れない。そう、思うんだ」
「……」
「オル、子供達を目覚めさせてあげて」
すると、子供達は目覚める。母親達は子供達を抱きしめる。
「ねえ! お母さん、楽しい夢を見たんだよお!」
「うん! すごーく、楽しかったあ!」
笑顔の子供達、オルはいつの間にか居なくなっていた。
ナニーはハーフエルフの子供の所に居るのか……特別な子供なのだろう。いつか、会えるといいな。
【ナニー・ボタン・キャップ】
女性のオル・フェルム・ルイエで完璧な乳母。メリーポピンズは、この妖精をヒントに得て生まれたと言われています。




