リャナンシー
優しい家主にミュラーもエリカも安心し、夜はぐっすり眠った。1人家主は、
「もう君にあげるものは無いこれが最後かな……私の愛しい君」
暗闇に向かって話す、その顔は満たされていた。
朝、雨は止んでいた。家主にお礼を行って2人はその家を後にする。グリフォンに乗って飛び立つ。僕は姿を現し、ミュラーの肩に乗った。ミュラーは、
「シルフィー。何処にいたの? 急に居なくなるから心配したよ。それに、ずっと姿が見えなかったからどうしたのかな? って不思議だったんだ。いつもなら真っ先に顔を出して驚かせていたのに……それに、あの歌きっと聞いていたよね?」
「うん、聞いていたよ……」
いつもと違う沈んだ僕の声に、ミュラーは僕を掌に乗せて顔を見る。
「どうしたの? 浮かない顔をして」
「……あの男性には、リャナンシーがついていたのが見えた。それに家の前にバンシーがいた」
ミュラーが聞く、
「リャナンシーって妖精? バンシーって?」
「リャナンシーもバンシーも妖精だよ……バンシーは、家の前に現れて泣くんだ。それはその家で誰かが亡くなるって事なんだよ」
エリカとミュラー2人は顔を見合わせる、あの家には家主1人だ。
「それとリャナンシーは美しい女性の姿をしていて常に男性からの愛を求めているんだ。愛を与えてくれた男性には歌の才能と美声を与えてくれる、色々な才能を開花させてくれる……」
暫く黙ったままミュラーの掌で俯く。
「けれど、その代償に精気を吸われる……あの時居たリャナンシーは夜、他の男性を探しにあの家から出て行ったよ……リャナンシーが離れたって事はそう言う事なんだ。あの男性の命はもう長くない」
ミュラーも悲しそうに僕を見る。
「そうなんだ……」
そんなミュラーに、
「それを知っていても彼はリャナンシーを愛したんだ。家を出る時リャナンシーが彼に言っていた……
『愛していたわ』って」
エリカが言う、
「何だか悲しい話ね。ドラゴンの話とは違って報われない愛なのね。その思いは……」
僕は言う。
「でも、彼はきっと幸せだったんだよ。だってあんなに穏やかな顔をしていたじゃないか」
空は雨が上がり虹が架かっていた。その美しさは今は悲しい程に僕等の心に何かを落としていった。
そして、僕等は向かう次の街へ。
 




