勇者としての記憶
魔王‥‥‥ここに来てその名前を聞く事になるなんて。それもエリカが勇者だなんて‥‥‥。
この世界に魔物が存在していて、魔法や冒険者といったファンタジーな世界だというのは解っていた。
まさか、魔王までいたなんて。どうする? エリカ。エリカは目を閉じ暫く何かを考えていた。
エリカの存在はもう知られているのだろう、だが、エリカが『勇者エリカ』なのか相手も確認出来てはいない。だって今まで僕達は魔物の襲撃を直接受けてはいない。
エリカはゆっくりと目を開ける。
「思い出した‥‥‥」
そう言うエリカの表情はさっきとは違う。その眼差しも今までのエリカではない。‥‥‥僕は‥‥‥。
そんなエリカが何だか気の毒に思えてならない。だって、勇者だったかも知れないが、今はただの冒険者のエリカだよ。そっとエリカは僕に言う。
「シルフィー、そんな悲しそうな顔をしないで。私は大丈夫よ。勇者として生きた時代があったというだけよ。今はエリカ。ただの冒険者のエリカよ」
僕は気持ちが高ぶっていた。何故? エリカはもう充分頑張ってきたじゃないか! また、今度も過酷な戦いを強いるの? エリカは今度こそ、幸せにならなきゃ行けないのに‥‥‥。
そこで、ギルマスが聞く。
「エリカ、今は表だって魔王が動いている様子は見られないが」
‥‥‥‥‥‥。
「君はまた“勇者”として表に立ってくれるかな? 無理にとは言わないよ。けれど、魔王を倒す事が出来るのはきっと君しかいないだろうと思っている」
「ギルマス! 今エリカと同じカードを持っている冒険者は他にもいるんだよね?」
僕はギルマスの目の前で言う。
「‥‥‥正確には居ただ」
と言う事は、今は‥‥‥、エリカとフレアだけ‥‥‥それって‥‥‥。
「‥‥‥何だよ! それ! ヒドイじゃないか! 二人ともこれから幸せにならないといけないのに、こんな事って! 理不尽すぎる!」
僕は小さな姿でギルマスの胸を叩く。何度も。何度も、そして泣いた‥‥‥。だって‥‥‥だって‥‥‥。僕は望んでこの世界に来た。だから、僕はいい。でも、エリカは違う! 勝手にこの世界に‥‥‥何故? ‥‥‥そもそも勇者召喚を使用したんだ? 何故、再びエリカをこの世界に呼んだのだろう? ‥‥‥魔王の存在にこの国の人間が気づいたとしたら‥‥‥。勇者エリカの名が何処かに残されていたとしたら‥‥‥。
「ギルマス‥‥‥ギルマスでも魔王は倒せないの? ギルマスなら倒せれるんじゃないの!」
「‥‥‥その時が来たら無論私も力を貸そう。だが、私一人ではそれは無理だよ」
ギルマスは悲しそうに僕を見る。




