シグマート
その客はずっと泣いていた。スライムさんは、
「話をちゃんと聞かせてくれ、そうじゃないと解決策が立てられないだろうが」
「‥‥‥何とかしてくれるのか?」
「話は聞く。何とかしてやれるのなら手は貸すし、知恵も貸す。だが、出来ない事だってあるぞ」
「実は‥‥‥」
と話し始めたその時、その客が突然倒れた。エリカとミュラーが店を出て走る。アリーナは倒れた客にポーションを飲ませる。そのポーションは“解毒剤”だ。暫くするとその男は目を開けた。
「‥‥‥助かった‥‥‥のか、俺は‥‥‥」
「そうよ。エリカがこれを私に持たせてくれたわ。貴方は狙われていた、エリカもミュラーも私だって気づいていたわ」
そこに、倒れた客に毒を仕込んだと思われる人間を、エリカ達が捕まえて連れて来た。倒れたはずの男が起きている事に驚愕する。
「‥‥‥どうして‥‥‥お前が生きている!」
その捕まった男は驚いて言う。そんな男にエリカは声を荒げて、
「こっちが聞きたいわね! 何故、この人を狙ったの!」
エリカは男の前で仁王立ちして言う。
「‥‥‥‥‥‥」
男は顔を背けて見ようともしない。
「言わないつもり? それとも言えない事情でもあるのかしら」
エリカが凄む。それでも男は黙ったままだ。男は冷や汗でぐっしょりだ。エリカにビビッているのは間違いない。そこで、毒を仕込まれた男が、
「なあ、お前も脅されているんだよな。俺のように」
「俺はお前の様にへまはしない‥‥‥」
そう言って立ち上がり僕を捕まえようと手を延ばす。もちろん、僕は捕まえられない。姿が見えている。触れる事が出来る。‥‥‥だから僕を捕まえられると思ったんだね。その手は空を切る。僕は、
「姿が見えていても、触れる事が出来ても君には、僕を捕まえる事は出来ないよ。僕は実体を持ってはいない妖精だからね」
‥‥‥‥‥‥?
「姿が見えているから捕まえる事が出来ると思ったの? 残念だったね。邪悪な心を持った人間は僕に触れる事は出来ないよ。‥‥‥もしかしたら、誰かに僕を捕まえて来いって言われた?」
男達はびくっと反応する。
「やっぱりそうか、誰かいるんだよ。僕を捕まえて来いって言っている人間が、前にも同じような事があったでしょう?」
僕はエリカとミュラーに向かって言った。
「そう言えば、そんな事もあったわね。あの時も同じように捕まえられなくて、お店の人に叩き出されたわよね」
エリカとミュラーは互いの顔を見て笑う。そこでもう一度エリカが凄む。
「で? 誰に言われたの?」
男達は観念したようだ。
「‥‥‥貴族だ。名前は言えない。言ったら殺される」
怯えながら言う。
「シグマート国の貴族だ。それ以上は言えない」
エリカは、
「シグマート‥‥‥ってカストルの隣の国じゃない!」
シャウラの国の隣‥‥‥きっとあの時、フェンリルを呼んだ人間の国だ。そんなに風の精霊達が邪魔なのか? それとも、僕自身に用があるのか? 不安と怒りがこみ上げる‥‥‥シャウラ‥‥‥。
カストル国。君が大切に守った国だ。その国を脅かす者がいるのか‥‥‥! どうして人間は‥‥‥。




