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性悪公女アベリアの改心  作者: 茨野美智花
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①アベリアの改心・6

●○●6●○●

 

 爆破で壁がくだけると、エメランタの軍服を身にまとい、武装した兵士たちが次々と会場になだれ込んできた。宮廷を護衛している騎士たちは一斉に剣や銃を構え、兵士等に立ち向かってゆく。

 パニックになった女性たちはひたすら悲鳴をあげていた。来賓(らいひん)の男性たちは、女性たちを救おうと兵に立ち向かい、あるいは女性をかばいながら逃げようとしていた。

 

 ライリーも私の手を引いて走っていた。ヒールで速く走れない私に気をつかいながら、何度も私に振り向いた。

 気付くと、3人の兵士が剣を構えて追って来ていて、私はもつれそうな足を何とか前に進めるが、彼らはみるみるせまってくる。その兵たちの顔を間近で見たとき違和感を覚えた。血の気が無く、真っ青でまるで死人のような顔をしている。


 ライリーは私をかばう形で彼らに立ちふさがった。兵がライリー目がけて剣を振り下ろし、ライリーがそれをよけると、振り切った剣から出た風圧で地面が割れた。


 剣を振っただけで、こんな風圧出すなんて……これは間違いなく魔力だ。


 盛り上がる床に足を取られた私を抱きかかえ、後方へジャンプしたライリーは、着地するなり私を自分の背後に隠した。そのとたん、兵が手の平をこちらに向け、そこから大量の矢を飛ばした。私は思わず目をきつく閉じた。幾重(いくえ)もの衝撃音(しょうげきおん)はするが、何も起きず、恐る恐る目を開けると、ライリーがバリアを張り、矢を全て弾いていた。


 ライリーも魔法が使えるのね……。


 初めて見る沢山の魔法に呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていると、ライリーはバリアで大量の矢を弾きながら「僕が食い止めるから早く逃げて!」と私に叫んだ。

 私だけ逃げるの……?そんなこと出来ない……。そう考えていると、私の右手を誰かが強く握った。見ると、弟のマルクだった。「姉上は僕が守るよ!」


 マルクが私の手を引いて走ろうとしたとき、出入り口が爆破され、逃げようとしていた人たちが吹き飛ばされ、一瞬で多くの人々が死傷した。

 女性たちの悲鳴が来賓たちの不安をさらに助長させた。


「皇帝を討ち取ったぞ!!」

 大きな叫び声と共に上がった歓声に振り向くと、そこにあったのは、血まみれになって倒れる皇帝陛下と、その横で負傷しながらも敵兵たちに剣を振り回すファラニスの姿だった。


「ウソでしょ……?」

 詳しいことは一切分からないけど、1つだけハッキリしていることは、ファラニスが殺されれば、私たちの帝国は侵略されるということだ。


 あらためて辺りを見回すと、シャルクピアの来賓と騎士の半数以上が死に、生きているほとんどの人たちが負傷していた。

 血にまみれたそこはまさに断末魔の光景だった。


 このパーティーに参加した人たちは皆私を冷笑し、皇太子は大衆の面前で私に恥をかかせた。別に誰がどうなろうと知ったことではない。知ったことではないはずなのに、私の目からは涙がこぼれ落ちていた。

 

 脳裏には、昨日、自身が病で死んだときの事がよみがえっていた。そうだ。どんな人であろうと、死ぬということは哀しいことなのだ。


 涙でぼやける会場を見ながら強く祈った。

――どうか、ここにいる全ての人たちを救ってください――

 不意に左手が熱くなるのを感じた。見ると、いつの間にか小瓶を握りしめている。小瓶の中にはカラフルな8個の金平糖が入っており、そのうちの1個が光り輝いていた。


「これは……」

 昨日1度死んだとき、知らない女性にもらった物だ。夢じゃなかったんだ。


 金平糖の星の光は徐々に増してゆき、目がくらむほどの強い光を発すると、宮廷もろとも人々を呑み込んだ。温かな感覚の中でまぶたを閉じていると、しだいに光は収まっていった。


 目を開けると、そこにあった光景は、さっきとは打って変わり、流れていた血は消え去り、死んだはずの人たちは生き返っている。

 爆破された城の壁は元にもどり、皇帝とファラニスの傷は癒え、逆に、襲撃を仕掛けてきた敵兵たちは全員もれなく気を失っていた。


「どういうこと……?」

 呆然と立ち尽くす私に、その場にいる全ての人たちが注目していた。

 ライリーは眉を寄せて私を見ていた。

「アベリア、君は……」


 私に歩み寄ろうとしたライリーの首に、シャルクピア帝国の騎士が剣を突きつけた。

「エメランタ兵の軍服をまとった者たちが我が帝国の宮廷を襲撃し、皇帝陛下を討ち取ろうとした。この件についてご説明願いたい」


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