①アベリアの改心・3
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そんな私にも初恋はあった。
実母が亡くなる数日前、5歳の私は、実母に1度だけ宮廷に連れて行ってもらったことがあり、そのときに当時7歳の皇太子ファラニスを見かけたことがあった。
類い稀な美貌を持つファラニスの容姿は、天界から降りてきたと言われれば、迷うこと無く信じるレベルの美しさであった。
私は彼に一目惚れをした。
彼に対する恋心は、私の生活を彩った。頭の中で繰り広げられる妄想において、彼は私の恋人であり、結婚相手だった。
あるときはお花畑で一緒に花輪の冠をつくりながらファラニスが私に求婚をし、あるときは冒険の果てにたどり着いた島でファラニスが私に求婚をし、また、あるときは悪者に追われた私を助けたファラニスが私に求婚をした。
ファラニスは、私の心の中の愛の劇場だった。
そして、私の夢は、ファラニスのお嫁さんになること、ただそれしか無かった。
14歳で社交界デビューをしたとき、久しぶりに見たファラニスは16歳になっていた。美しさに加え、身長が高い彼には男らしさが備わっている。
素敵すぎて近づくことが出来なかった。
なのに、他の女どもは気軽に近づき、喋りかけている。頭にきて我慢出来ず、私は彼女たちを殴りたおし、ファラニスから追い払った。
その行動が、ファラニスの目に悪印象になるとは微塵も思わず、むしろそれが普通で、自分のやりたいように振る舞ったのだ。
それ以来、パーティーでファラニスに群がる女どもを殴り倒し続けてきた。
そんな私にファラニスはただ冷たい視線を投げつけるだけだったが、彼は誰に対してもそういう態度だったので、気にしていなかった。
16歳になったばかりの去年の冬、ファラニスの婚約者候補を選ぶという話を聞いたときは、迷わず名乗りを上げた。
私以外の婚約者候補は、多くの貴族が推薦するセラード侯爵家の長女ダチュラ、ただ1人だった。
18歳のダチュラは気品にあふれ、次期皇妃にふさわしいと誰もが認める女性であり、対抗しようという者は私くらいなものだった。そのせいもあって、私は社交界で身の程知らずと陰口を叩かれるようになっていた。
こんな状態でのぞむ婚約者候補のお披露目パーティーである。
私は厄介者でしかなかった。