①アベリアの改心・2
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『性悪アベリア』
以前の私は社交界の――特に令嬢たちに――そう呼ばれており、傍若無人にふるまっていた。
私の性悪な性格は生まれ持ったもので、悪魔の生まれ変わりだと誰もが言う。
愛に飢えていたと言えば言い訳がましいし、全てがそのせいではないのだけれども、私は誰かに愛された記憶がない。
5歳のときに他界した実母は、生前、私を怒鳴ってばかりで、それで泣くようなことがあれば、手を上げることもあった。
そのときは分からなかったし、認めることは出来なかったけど、今なら分かる。実母は、思い通りにならない幼子だった私が面倒で嫌いだったんだ。
それでも私は実母が好きだった。機嫌がいいときは優しかったし、たまにだけど、用事や買い物に連れていってくれたから。
ある朝、起きてすぐに実母が亡くなったと聞かされた。深夜、急病で亡くなったという。亡くなるという意味が分からなかった私は、葬儀に参列していたくせに理解ができず、実母はいつ帰って来るのかと思い、帰って来るのを待っていた。
実母の葬式の後すぐ、屋敷に来た後妻のバーバラを見たときも、親戚か何かで、事情があって屋敷に泊まっているだけだと思い込んでいた。
しかし、すぐにマルクが生まれ『弟』だと言われたときに、ようやく違和感を感じ、実母はもう帰って来ないことを理解した。
それでも生まれて初めて見る弟は可愛くて、私はマルクの乳母と一緒にマルクの世話を焼くのが毎日の楽しみとなった。
けれども、義母のバーバラは私がマルクに近づくのを嫌がり、近づく度に私を怒鳴りつけ、殴るようになった。
何をされてもマルクと一緒に居たい。
その想いが強かった私は懲りることなく、マルクに近づいては義母に殴られを繰り返すようになる。実母も私にそうだった。そして義母もそうだ。それが人との係わり方だと無意識に学習し、次第に私も人を怒鳴り散らし、殴るようになっていった。
人を怒鳴り、殴っているとき、私の頭の中には実母と義母の姿があった。彼女たちになったような錯覚を覚えることで、自分は強くなったような気がしてやまない。それと同時に一体感のような愛に似たものさえ感じ、心のどこかで爽快感を味わっていた。
『性悪アベリア』という悪口さえ、褒め言葉のような気がして気に入っていた。
『コルシティン公爵家の令嬢』というだけで、大人たちが皆、私に頭を下げることに気付くと、自分は無条件に偉いと、おごり高ぶった。
周りのことなど気にせず、我がままに振る舞い、気に入らなければ怒鳴り、殴ればいい。それが普通であり、そうしていれば、いずれ愛されるようになる気さえどこかでしていた。