①アベリアの改心・10
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ファラニスは冷笑をもらした。
「あれだけ俺を追っかけ回し、妻になると騒ぎ立てていたくせに、ちょっと大公に優しくされただけで手の平返しか。節操の無い女だ」
うぐ……ごもっとも……。でも、そもそも、私のこと嫌いなくせに、そんなこと言われる筋合いないんですけど!昨日だって私を陥れたくせに……!!
ファラニスは冷笑をもらしたまま私の顔を覗き込んだ。
「何だ?言いたいことがあるのか?」
「いえ……」
なによ。言えないって分かってて聞いてるんじゃないの!?意地悪で楽しそうな顔しちゃって!こんなに根性が悪い人だとは思わなかった!
ファラニスの声と表情はさらに意地悪になっていた。
「1度会っただけの男に現を抜かし、自らの言動に責任も持たず、品格の欠片もない女だ。どうせまた別の男に優しくされれば、あっさり手の平を返すんだろ。尻軽が」
そう言われても仕方ないのだろうけど、そういう自分はどうなのよ!好きでも無い私の能力を利用するために婚約者候補の辞退を阻止しようとしているだけのくせに!!!
こんな人、なんで好きだったんだろう?よく考えたら、まともに会話したのって、今が初めてだわ。私も見た目だけで好きになったのが愚かだったんだ。
何も言い返さない私に、ファラニスは容赦なく続けて言った。
「ラントス大公がお前なんかを相手にすると思っているのか?あさましい。分からないようだから教えてやる。下品なお前が大公に相手にされることは永遠にない。俺のときのように周りの迷惑もかえりみず追いかけ回すようなら、大公は我が国を訴え、国際問題に発展するだろう」
私の中で何かが切れた。
「酷い!!!そんな言い方しなくてもいいじゃない!!あなただって、ダチュラのこと好きなくせに、好きでも無い私を婚約者候補から辞退させないようにしようとしたりして、反吐が出るわ!!!どうせ側室に置いて一生飼い殺しにする気でしょ!!ライリーが私のこと相手にするかなんて、あなたには分からないことじゃない!!決めつけないで!!!それに、社交パーティーであなたにしつこく付きまとった挙げ句、婚約者候補に名乗りを上げたことは申し訳なく思っているわ!!でも!迷惑だったのなら、そのとき言ってくれればよかったじゃない!!そうすれば、11年間もあなたに片想いをしなくて済んだし、婚約者候補にも立候補しなかった……!!!」
応接間は静まり返り、私の荒ぐ息づかいだけが響いていた。
我に返った私は、ファラニスとしばし目を合わせた。無表情の顔で、何も言い返さず、ひたすら私を見ている。
いつの間にか立ち上がっていたことに気付き、視線を下に落とした。ティーカップは倒れて紅茶がこぼれ、私のスカートと床のカーペットにシミが付いていた。テーブルからは茶色い水滴が絶え間なくしたたり落ちている。
冷静になるにつれ背筋に冷たいものが突き上げてきた。
やってしまった。
恐る恐る、再度ファラニスに視線を向けた。相変わらず無表情で私を見ている。怖い。視線をやや下に逸らした私は、ゆっくりとソファーに腰を下ろし、努めて冷静に話した。
「取り乱してしまい、申し訳ございませんでした。婚約者候補は辞退致します」
ファラニスはしばらく無言で私を見ていたが「帰る」と静かに言うと、ソファーから立ち上がった。
私も急いで立ち上がり、ファラニスの後ろを歩いた。玄関までお見送りをするのがマナーである。




