①アベリアの改心・9
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ファラニスが我が屋敷に来たのは、翌日昼過ぎのことだった。
昨日の今日で早すぎるうえにアポ無しでビックリした。
「お嬢様、早く着替えてください!」
メイドのラナがドレスを差し出した。
「皇太子殿下を待たせてるんだから、着替えてる場合じゃないでしょ!しかも、そのドレス、昨日のパーティーで着たやつじゃない!!」
部屋を飛び出ると、身長185センチでガタイのいいジャン・テイラーが壁のように立っていて、ぶつかりそうになった。
「すみません」
謝る私に「こちらこそ」とテイラー卿は太い声で答えると、走って1階の応接間へと向かう私の後を付いてきた。巨大な男に追われているようで軽く恐怖を感じた。
応接間のドアをノックすると、義母バーバラの声がした。
「お入りなさい」
「失礼いたします」
恐る恐るドアを開けて中の様子をうかがうと、奥のソファーに腰掛けるファラニスと目が合った。息を呑むような美貌の彼に鳥肌が立ち、私の心臓は大きく波打った。彼の外見はやはり私のドストライクなのだ。
ファラニスの対面に座っていたバーバラは、ゆっくりと立ち上がり「失礼致します」とファラニスにお辞儀をして、私に歩み寄った。
「殿下に対して失礼のないように」
すれ違いざまに冷たく言い放つと、部屋を出て行った。
言われなくてもそんなことは分かっている。
腹立たしさを抑えながら、スカートを軽くつまみ、ファラニスにお辞儀をした。
「お待たせして申し訳ございません」
ソファーに深く腰掛け、足を組んだ格好のファラニスは、無表情で私を見ていた。そんなに見られると緊張するからやめてほしい。
「失礼致します」
再度お辞儀をしてソファーに腰掛けると、ファラニスはぶっきらぼうな声で言った。
「急に来て悪かった」
本当にだよ。
私は作り笑いをして答えた。
「とんでもございません」
ファラニスは静かに紅茶を一口飲むと、落ち着いた口調で話した。
「婚約者候補の辞退を陛下に申し出たそうだな。理由は俺とセラードに嫉妬したからと聞いているが」
「は?!」
思わず出た声を引っ込めようと、自分の口を両手で覆った。何がどうなってそういう風になったのよ??
無表情だったファラニスの顔にやや怒りの色がさした。まずい。口に気をつけなければ。
「はしたない声を出して申し訳ございませんでした……」
しばし沈黙が続いた。ファラニスは鋭い目つきで私を見据えている。なんだか怖い。彼はさっきよりもワンオクターブ低い声を出した。
「ならば、昨日のパーティーでラントス大公とダンスを踊ったさいに、心変わりでもしたか?だから辞退したいと言い出したのか?」
ドキッとした。頭は真っ白になり、冷や汗が流れた。
ファラニスは引き続き鋭い目つきで私を見ている……怖い……。
とりあえず、認めてはダメだ。
「…………いえ、そういう訳では……」
声が震えたのが自分でも分かった。
バレてないよね……?
「声が震えているぞ」
バレてた……!!
鼓動が激しく全身を揺さぶった。




