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性悪公女アベリアの改心  作者: 茨野美智花
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①アベリアの改心・9

●○●9●○●


 ファラニスが我が屋敷に来たのは、翌日昼過ぎのことだった。

 昨日の今日で早すぎるうえにアポ無しでビックリした。


「お嬢様、早く着替えてください!」

 メイドのラナがドレスを差し出した。

「皇太子殿下を待たせてるんだから、着替えてる場合じゃないでしょ!しかも、そのドレス、昨日のパーティーで着たやつじゃない!!」


 部屋を飛び出ると、身長185センチでガタイのいいジャン・テイラーが壁のように立っていて、ぶつかりそうになった。

「すみません」

 謝る私に「こちらこそ」とテイラー卿は太い声で答えると、走って1階の応接間へと向かう私の後を付いてきた。巨大な男に追われているようで軽く恐怖を感じた。


 応接間のドアをノックすると、義母バーバラの声がした。

「お入りなさい」

「失礼いたします」

 恐る恐るドアを開けて中の様子をうかがうと、奥のソファーに腰掛けるファラニスと目が合った。息を呑むような美貌の彼に鳥肌が立ち、私の心臓は大きく波打った。彼の外見はやはり私のドストライクなのだ。


 ファラニスの対面に座っていたバーバラは、ゆっくりと立ち上がり「失礼致します」とファラニスにお辞儀をして、私に歩み寄った。

「殿下に対して失礼のないように」

 すれ違いざまに冷たく言い放つと、部屋を出て行った。


 言われなくてもそんなことは分かっている。


 腹立たしさを抑えながら、スカートを軽くつまみ、ファラニスにお辞儀をした。

「お待たせして申し訳ございません」

 

 ソファーに深く腰掛け、足を組んだ格好のファラニスは、無表情で私を見ていた。そんなに見られると緊張するからやめてほしい。


「失礼致します」

 再度お辞儀をしてソファーに腰掛けると、ファラニスはぶっきらぼうな声で言った。

「急に来て悪かった」

 本当にだよ。

 私は作り笑いをして答えた。

「とんでもございません」

 

 ファラニスは静かに紅茶を一口飲むと、落ち着いた口調で話した。

「婚約者候補の辞退を陛下に申し出たそうだな。理由は俺とセラードに嫉妬したからと聞いているが」

「は?!」

 思わず出た声を引っ込めようと、自分の口を両手で覆った。何がどうなってそういう風になったのよ??


 無表情だったファラニスの顔にやや怒りの色がさした。まずい。口に気をつけなければ。

「はしたない声を出して申し訳ございませんでした……」


 しばし沈黙が続いた。ファラニスは鋭い目つきで私を見据えている。なんだか怖い。彼はさっきよりもワンオクターブ低い声を出した。

「ならば、昨日のパーティーでラントス大公とダンスを踊ったさいに、心変わりでもしたか?だから辞退したいと言い出したのか?」


 ドキッとした。頭は真っ白になり、冷や汗が流れた。

 ファラニスは引き続き鋭い目つきで私を見ている……怖い……。

 とりあえず、認めてはダメだ。


「…………いえ、そういう訳では……」

 声が震えたのが自分でも分かった。

 バレてないよね……?


「声が震えているぞ」


 バレてた……!!

 鼓動が激しく全身を揺さぶった。


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