プロローグ
『性悪アベリア』
人々は私を影でそう呼んだ。
裕福で権力のある公爵家で生まれ育った私は図に乗っていた。
全ての人を見下し、まるで自分がこの世の中心であると勘違いをし、やりたい放題ふるまい、周りにいる人々をことごとく不愉快にさせてきた。
だから、きっと罰がくだったのだろう。
私は16歳の夏、原因不明の病におかされ、苦しみもだえた後、死んだ。
魂が身体から抜ける瞬間、人生の走馬灯と共に、生前に私の言動で傷つき、あるいは不快な思いをした人々の感情と感覚が、まるで自分のことのように次々と私を突き抜けていった。このとき、はじめて自分の醜悪さに気づき、後悔をした。
――もっと優しく生きればよかった。もっと周りの人たちを大切にすればよかった。
そう強く思ったとき、私の魂は、沢山の星たちの中にまぎれて暗闇に浮かんでいた。このままここに溶けていくのだろう。直感的にそう感じたとき、どこからともなく優しい女性の声が聞こえた。
『そなたの願いを聞き入れてやろうか?』
ビックリした私は辺りを見回したが、誰もいなかった。
「誰……?」
『ただし条件がある。そなたが生き返ったあかつきには、必ず周りの人たちを救うこと』
「え……無視……?てか、あなたは誰……?」
キョロキョロとする私の前には、まるで無から有がつくり出されたかのように、闇の中から空の小瓶が現れた。
『そのための願いを叶えることが出来る星を8個、そなたに授けよう』
その声と共に、私の周りに浮いていた星が8つ、カラフルな金平糖のような形に姿を変え、私の前にある小瓶の中に収まった。
『そなたが8回全ての願いをし終えたときには――……』
女性の声は遠ざかっていった。
「だから、あなたは誰なの――!!?」
大声で叫ぶと同時に、私の魂は自分の身体に戻っていた。