やっぱり最初が一番
俺の前には、二人の金髪美少女がいる。
一人は、可愛らしい笑顔に金髪ショートヘアの夏美さん。
もう一人は、強気な態度に金髪ロングヘアの蘭。
「なんで私の髪、真似するの?」
「偶然よ。雫は金髪美少女が好きって聞いたからね」
「誰に?」
「あんたによ!」
夏美さんの冗談は置いといて。
今日も彼女たちは、仲良く対立をする。
……仲良くか?
それはさておき、俺には嫌な予感がした。
勘、というやつだ。
本来ならば、こんな非科学的な現象を信じるわけがない。
が、そうと思っていたのも昔の話。
今思えば、実は勘も科学的に証明できるのではないのかと思う。
俺は科学者でもなければ、心理学者でもない。
ので、特別調べようとも思わない。
そもそも、そんな面倒なことは、一部の物好きか天才にでも任せておけばいい。
残念ながら、俺はこの二種にも属していないので調べる余地もない。
それもあるが、強気な態度ばかりの蘭は金髪が様になってるが、夏美さんは可愛いことには変わりないが、ギャルっぽさがある。
俺の中でのギャルとは、アニメやゲームに出てくるキャラが可愛いのだ。
日常生活、彼女としては清楚な感じていて欲しい。
それだけでいい、はずだった。
なのに、嫌な予感、がすることは分かった。
「だったら勝負しましょう!」
とお馴染みの蘭。
「何の?」
「どっちが似合ってるかの勝負よ!」
「へー、いいじゃん」
またやるのか……。
大体、どうして蘭はこうも根拠のない自信があるのだろうか。
どこから出てくるのか疑問に思う。
それほどのエネルギーがあれば、くだらないことに使ってないで、もっと有意義な場で使うべきだろ。
俺がどうこう言おうが言いまいが、蘭にとっては耳が痛くなるだけだろう。
あえて言う必要もない。
二人の視線は完全に俺を見る。
「な、何?」
動揺した俺を見て、はたまた俺の予想が的中したのか。
彼女たちは、にまー、と目を細めるくらいに笑った。
これじゃあ、お互いに仲が良いのか分からないし、何故笑うのか。
「俺の顔に何かついてる?」
と決まり台詞を言って、場の空気を変えようとする。
変えたかった。
本当に。
出来なかったんだ。
「審査員は雫ね」
「賛成」
はい、予想通り。
悪い意味で。
「いや、俺はちょっと……」
人の頼みが断るのが壊滅的に下手な俺が、一発かます。
これでも精一杯なんだ。
「やってくれるんだ! ありがとう!」
と蘭は、目を見開いてオーバーリアクションした。
誰もやるとは言ってない。
けど、仕方ない。
やるしかないよな。
「……分かったよ。で、俺は何をするの?」
俺は首を斜めに傾げる。
「どっちの方が可愛いか決めてよ」
夏美さんが微笑む。
「勝った方が、雫と付き合う!」
と蘭は堂々と言う。
またかよ。
夏美さんもさすがに、前と同じルールじゃ駄目と言うに決まってる。
「いいよ」
いいのかよ!
夏美さん、もっと俺を大切にしてください、と言いたくなった。
言わないけど。
……悲しい。
「「さぁ、どっち!」」
と言われましても。
二人が髪色を変えてから、ずっと思っていたことがある。
金髪の夏美さんは可愛い。
蘭も悪くない。
けどな。
「正直、前のままの方が良かったよ」
率直な感想だった。
◯
蘭の自宅。
(雫に気に入ってもらえると思ったのに……。でも、前の髪の方が良いって。ふふ、それは似合ってるってことよね! 雫も意外と褒め上手じゃない。まぁ、それと私のことを好きかは別だけど。雫といつか付き合えたらな、なんて。だけど、目の前にするとついつい緊張してからかっちゃうの。ごめんね)
◯
夏美の自宅。
(雫くん、金髪美少女が好きじゃなかったのかな……。まぁ、私も金髪なんて普段しないことしないで、自然が一番良いのかもね。もう、素直に可愛いって言えば良いのに。照れ屋の雫くん! なんて)
◯
次の日の学校。
「「どう? 似合う?」」
「え!? 戻したんだ」
「何その反応」
蘭が言う。
「いや、かわ、似合うなって」
「かわ?」
夏美が言う。
「な、なんでもない!」
「可愛いなって?」
と、また夏美が言う。
「本当になんでもない!」
やっぱり、黒髪が似合っていた。