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伝わらない気持ち

 気まずい。

 今日は特に、気まずい。


「………………」

「………………」


 何故なら、昨日あれだけ強気だった蘭が、今日は一言も話さないからだ。


 さすがに、隣の席の人が無口だと身も狭くなる。

 何かあったのか心配ではあるが、どうせ俺には関係のないことだ。


 聞く必要もない。

 それでも、気になるものは気になるものだ。


 何か嫌なことがあったのか?

 まさか、昔みたいに誰かに嫌がらせをされてるとか!?


 ……いや、それはないか。

 現に嫌がらせをされているのは、俺の方だしな。


 それ以外だとしたら、昨日教えた数学の答えが間違っていたとか?

 万一そうだとして、普通それだけで不機嫌になるか?


 ありえないな。

 だったらなんだ。


 って、なんで俺、こんな蘭のこと心配してんだよ。

 もうとっくに別れたはずの人間のことを、どうしてこんなにも考えているんだ。


 本当に。

 どうして。

 それは分からない。


 むしろ、明確な理由があるくらいなら教えて欲しいくらいだ。

 俺は蘭のことを好きではない。


 嫌い……でもないのかもしれない。

 だったらなんだ?


 俺と蘭の関係は一体なんなんだ。

 単なる幼なじみ、ってだけで完結しても良いのだろうか。


 確かに、これ以上の深い関係を持つわけじゃないのだから、良いのかもしれない。


 でも何故なんだ。

 分からないけど、胸が痛い。

 激痛ってほどじゃない。


 チクッと、殺傷能力のない針が刺さる感じだ。

 血も出ないし、腫れもしない。

 でも、苦しい。


 この痛みの原因が俺には分かった。

 だけど、いざ言葉にすると難しい。

 出るはずの言葉が喉につっかえる感じがする。


 俺にとって蘭とは?

 蘭にとって俺とは?


 何故、蘭は俺に嫌がらせをするのか?

 何故、幼い頃に俺は蘭を守りたかったのか?


 どうしてあの時、蘭は虐められていたのか?

 どうしてあの時、俺はヒーローに憧れていたのか?


 考えれば考えるほど、分からなくなってくる。


 (やっぱり雫、昨日私がやりすぎたから怒ってるのかな……。ちゃんと謝ろう)


 蘭は息を深く吸った。

 そして、言葉と同時に吐いた。


「あのさ、昨日はごめ……」

「雫くん!」


 どこからか、俺の名前を呼ぶ女の子の声がした。

 振り向くと、後ろに夏美さんがいた。


「一緒に帰ろ」

「悪い。今日は帰る約束してたから、蘭」

「べ、別にあんたとなんか帰りたくないわよ!」

「そうか、ならお互い様だな」


 (って、嘘に決まってるじゃん……。結局、謝れなかったな……)


 ◯


 帰り道。

 夏美さんは突然、蘭について話した。


「蘭ちゃんって、昔からあんな感じなの?」

「……え?」

「いやほら、毎日のように雫くんに嫌がらせしてない?」

「あー……」


 さすがに夏美さんも気付くよな。


「幼なじみって聞いたけど、昔からあんななの?」

「……別に、昔はもっと仲良かったんだ」

「えっ!? それは意外!」


 まぁ、そんな反応になるに決まってるよな。


「むしろ、小学生の頃は俺が蘭を守る! って、言ってたくらいだから。あはは」

「そんな時期もあったんだ! だったら尚更、なんであんな関係が悪化しちゃったの?」

「……それが分からないんだ。中学に入ってから、急に蘭の俺に対する態度が悪くなって」

「それは不思議」

「だろ? 俺、何かしたのかな……」


 夏美さんは俺の前に立ち、俺の顔をじっと見つめる。


「別に雫くんは何もしてないと思うよ?」

「……だったら、なんで」

「雫くんは優しすぎるんだよ」

「……俺がか?」

「うん! だって、私の料理も美味しいって言ってくれたじゃん。あの時、すごい嬉しかったんだよ」

「……あれは本音であって」

「ほら、やっぱり優しいじゃん」


 と夏美さんは満面の笑みを見せた。

 笑顔は可愛くて、柔らかくて、癒された。


「……なんか、照れるな」

「その優しさが蘭ちゃんには上手く伝わってないんじゃない?」

「そうなのか……」


 でも、あれ?

 ちょっと待て。


「夏美さんこそ、蘭とそんな仲良かったけ? 結構、強気に言い合ってなかった?」


 俺が言うと夏美さんは、ふふっ、と優しく微笑んだ。


「蘭ちゃんは私のライバルだからね」

「ライバル? 何の?」

「恋のライバル。雫くんは私の彼氏なんだからさ」


 ちょうど道が分かれたところで、夏美さんは、じゃあまた明日、と言って帰っていった。

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