勇者と魔王とクリスマス
「お前が魔王か」
「ほう、よくここまで辿り着いたな、褒めてやろう」
「今度こそお前を倒してやる……と言いたいが、戦う前にひとつ聞きたいことがある」
「ほう、何だ?」
「この城に足を踏み入れてからここに来るまでに、四天王はおろかモンスターとすら一度も遭遇しなかったんだが……どういうことだ?」
「……貴様、今日が何の日か分かるか?」
「今日……まさか、クリスマス・イブのことか?」
「その通り……つまり、そういうことだ」
「そういうことか……魔王、お前だけ非リア充だったのか……」
「そこはさほど問題ではない。というか、今日ここに来た貴様も同類ではないか」
「くっ、それは否定できない!」
「さて、貴様にこれだけは聞いておこう。貴様はクリスマスとはそもそもどういう日なのか知っているのか?」
「リア充してる奴らがイチャイチャしている日だろ」
「そういうことを聞いているのではない。クリスマスという日がなぜ誕生したのかを聞いている」
「……言われてみると、発端については知らないな……」
「そう、我々は誰一人としてそこについては知らないのだ。ゆえに我はこう考えた……クリスマスとは、こことは違う異世界から入ってきた文化なのではないか、とな」
「なるほど、確かにそれならクリスマスというものが何なのか、誰も知らないことに関して辻褄は合うな」
「なので気になった我は異世界の賢者達に尋ねてみたのだ」
「なんでナチュラルに異世界とコンタクトを取ってるんだよ」
「魔王ともなれば、それくらいは容易いことよ。まぁ、質問に対しての返答はほぼ『ググれ』という謎の一言だけで占められていたがな。ただ、一人だけ『イエス・キリストの誕生を祝う日(wiki調べ)』なる答えを提示してきた者がいたので、我はかろうじて答えを得ることができた」
「まともな答えが一人だけとは、その世界は本当に大丈夫なのか?」
「それに関しては我も同じ感想を持ったが、そんなこと今はどうでもいい。ところで、貴様は『イエス・キリスト』という人物を知っているか?」
「いや、聞いたこともない名だな」
「やはりそうか。つまりこの答えが真実だというなら、異世界にいた誰かの誕生を祝う日がカップル共がイチャイチャする日に書き変わってこの世界に入ってきた、という理屈が成り立つというわけだな」
「なるほど……だが、なぜ異世界の力を借りてまでクリスマスを調べようとしたんだ?」
「貴様には分かるまいな、自分の誕生日に自分以外のカップル共が一斉にイチャイチャするような状況に追いやられた者の悲哀を……そして、誕生日のプレゼントとクリスマスのプレゼントを一緒くたにされる者の絶望を……」
「なんてことだ……あまりのことに目から汗が……」
「さて、ここで貴様にひとつ提案がある……我と手を組まんか?」
「あまりにも唐突だな。しかし、そんなことをしても俺には何のメリットもないだろ」
「そうでもない。我と手を組めば世界の全てを分けてやろう」
「いや、普通そこは世界の半分とかいう条件じゃ……」
「構わん、もともと我はクリスマスなどというふざけた文化を消し飛ばすために魔王になったのだからな。それさえできればこの世界になど興味はない」
「とんでもない理由で魔王になったんだな……ところで、手を組むにはひとつだけ条件があるんだ」
「ほぅ、何だ?」
「……バレンタインデーも頼む」
「ふっ、交渉成立だな。今こそふざけた文化にカップルもろとも終止符を打つ時ぞ!」
「ああ、我ら共にリア充共に正義の鉄槌を食らわせてやろう! 今日から貴様は我が軍の四天王の六人目だ!」
「ちょっと待て、なんか聞き流しちゃいけないようなことを口走ってないか?」