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第191話、宗っち、メイルの扱いに憤る。

 目の前の水晶でどれだけの事が分かるのか僕は知らない。

 ただハッキリと確信を持たれた事は確かだ。もっとも勇者だとバレた所で、こちらに不利になるとは思えない。ここは知らなかった事にしよう。


「えっと……何を言われているのか分かりませんね。僕はただの冒険者です」


「うふふ。そうですね。勇者様」


「いや、僕の話聞いてました? 僕は勇者じゃなくて冒険者ですって」


「あらあら、そんなにムキになられて……ご謙遜を」


 はぁ。ダメだこりゃ。このエルフの視線は神を信奉する信者の様だ。

 さっさと売る物を売ってしまって出よう。それが一番だな。


「それで、これは買い取ってもらえるんですか?」


「はい。次官、後は頼みましたよ」


「はっ。局長、お任せください!」


 残りの業務を男性に任せると、エルフは奥の部屋に戻っていった。振り向きざまに意味深な視線を投げかけられたが、気付かない振りをした。


「では、こちらが魔石の買い取り分と素材の代金です」


 男性職員から金貨三枚と銀貨七枚を受け取り、そそくさとその場を立ち去る。


「それにしても驚いたに。ソウジは勇者に間違われただに」


「あはは……本当にね。剣も出せないのに勇者はないよね」


「それで今日はどこに泊まるだに?」


「結構な収入があったからさ、良い宿に泊まれると思うよ」


 他の冒険者組合で渡された代金は、全て銀貨だった。


 そう考えると、樹海の魔物から取れた魔石と素材はかなり高値で売れたということになる。今の僕とメイルなら樹海での狩りも楽にこなせる。これは金持ちになれるチャンスかもしれないな。

 金貨一枚は日本円にしてだいたい十万円だ。それが三枚。これだけあれば高級な宿にも泊まれる。この時の僕たちはそう思ってた。

 目当ての宿は、一泊で銀貨一枚の宿だ。日本円で一万円。これだけ出せばこの世界では高級な宿に泊まれる筈だった。だが、結果は……。


「申し訳ありませんが、獣人の奴隷に貸せる部屋はありません。獣人を厩舎にとおっしゃるなら宿泊は可能です」


「そうですか……なら別の宿を探します」


 僕とメイルは意気消沈しながら宿を出た。あれから三軒回って、その全てで同じ事を言われた。【獣人は厩舎に……】理由を尋ねた所、獣人が泊まった部屋は臭いが移る。噂が立つと客が寄りつかない。そう告げられた。


「大丈夫だって、高級な宿じゃなければ見つかるって」


「そうだに……」


 トリアムスの街では普通の生活を送ってた。ルイジムスの国でも宿には泊まれた。だが、ここまで差別的な扱いをされたのは初めてだった。いつも元気なメイルでさえ、露骨な対応に落ち込んでいる。何とか元気づけようと僕は声を掛けた。


 立ち寄った宿屋が高級な店だったから断られたのだ。

 それなら、もっとランクを落として安宿にすればきっと見つかる筈。

 そう考えてた。でも、次も、その次に行った宿でも対応は変わらなかった。


 獣人は奴隷。薄汚く、迷惑な存在。獣と同じ扱い。


 各店で言われた言葉がメイルの胸に重くのし掛かってるようだった。


「僕は知ってるよ。メイルはきれい好きだし、良い匂いがするって。それに誰にでも気を配れる優しい子だよ。だから、あんな人たちの言葉に惑わされないで!」


「……そうだに」


 余程ショックだったんだろうな。こんなに凹んでるメイルを見るのは初めてだ。

 こんな事なら獣人の国で暮らした方が、メイルにとっては幸せかもしれない。

 獣人の国なら僕も顔が利く。宿屋の対応だけでは決められないけど、この先も同じなら……獣人の国へ行こう。僕はそう考えだしていた。


*    *     *


「はぁ。神様って思った以上に大変なんだな……」


「何で愚痴を漏らしているのです。あなたの担当はこの星の全てですよ。人々が幸せに暮らせるように、災害を未然に防止するのは当然ではないですか。それに何ですか、まだ反省していないようですね」


 天御中主神あめのみなかぬしのかみからの説教は何度目だよ。羽が黒くなってからちょくちょく顔を出しやがって。自分の担当はどうしたんだ?


「私の担当はあなた方の監督です。地球をあなたに任せた以上、きちんと管理してもらわないとゆっくり休暇も取れないのです!」


 くそっ。神になっても心は読まれるのか。

 それより何だよその休めないってのは。俺たちに働かせて自分だけ隠居かよ!


「当然です。私は全知全能の神ですから」


 はいはい。そうですか、それはご立派な事で……。ところで俺の羽はいつになったら白く戻るんですかねぇ?


「それはあなた次第です。私もすぐに戻ると思っていましたが……あなた、全く反省していませんねッ! だから元に戻らないのです!」


 えっ……時間がたてば元に戻るんじゃないの?


「戻りませんよ。あなたが心から反省しなければ……」


 マジかよ。たかが雪降らせただけでコレかよ。


「神という存在に大切なのは、【正しく生物を慈しむ心】なのです。その力を間違った方向に使えば、どうなるかは分かりますね」


 あぁ。堕天使の様に悪しき魂へ昇華するんだっけか?


「そうです。それを防ぐための罰です。それをしっかりと反省しなければ、永久にそのままですよ」


 だいたい悪人を公平に扱えってのが納得いかねぇ。性根の腐ったヤツは何処にでもいるぜ。それに、俺が割り込まなければ、人族の暴挙は収まらなかった筈だ。


「何を驕った考えで見ているのです。あなたが介入しなくとも、あなたの召喚した者に解決できましたよ。それに、そのためにあなたは勇者召喚をしたのではないのですか?」


 えっ、そんな事までバレちゃってるの?


「当然です。私は全知全能の神ですから。そもそも、あなたが神になる以前に、勇者召喚を引き起こしたのは私ですからね」


 あ゛……という事は、石神が人族に利用されたのも、現代から過去へ侵略をかけるきっかけを作ったのも天御中主神の失態じゃねぇか!


「ゴホンッ………………た、確かにあの者の行動は予想外でした。ですが、私たち神にできる事は、勇者召喚を行いあくまでも人の手で解決させる事なのです」


 チッ、思わず目が据わっちまったぜ。

 何だよ。結局、アレもコレも神様の失敗だったって事じゃねぇか。

 いくら神様の介入ができないとはいえ、あの結末はねぇだろ。あれでどれだけの人が死んだ。どれだけの者が悲しんだ。どんだけの思いで俺が戦ったと思ってる。


 くそっ。何が全知全能だよ。


「……………………………………」


 それで、俺の羽はいつになったら元に戻んだ?


「それは、あなたが心から反省しないと……」


 えっと、ここまでの話を整理しようか。天御中主神の行動のせいで、俺は苦労したんだよな?


「……そうとも言えますね」


 なら少しは融通してくれてもいいと思うわけだが……そこはどう考えてる訳?


「それはできません。理不尽な行いには、罰が必要不可欠だからです」


 えっと、天御中主神の理不尽な行動の結果が招いた事なんですけどねぇ。


「………………………………」


 ここで考えを読まれたら負けだ。俺は無心で行動に移る。


 俺、モニターを見るのが趣味なんですよね。真っ白な空間でそれしか楽しみがないもんだから……。


「何を言いたいのです?」


 あまりにも暇だから、石神が勇者としてここに降り立ちどう過ごしたのか。そして、その結果どうして現代へ戻ったのか。その結末まで全て見たんですよねぇ。  

 あぁ、かわいそうに……。勇者召喚さえなければ、家族と幸せに過ごせて大人になって成功できたのに。それを、誰かさんに召喚されちゃったから、先祖の血筋まで消失して……帰ったら身内は誰もいない。それどころか、戸籍すら存在しない。


 そんな目に遭わなくて済んだのになぁ。誰かさんのせいで……。


「ええい。分かりました。分かりましたからッ。あなたの罪を許します。だからその話題はもう忘れましょう。そうです! 忘れてください!」


 ははっ、勝ったな。

 久しぶりに俺の羽は元に戻った。

 これで宗っちへコンタクトを取れるぜ。待ってろ。宗っち。

お読み下さり、ありがとうございます。



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