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第187話、宗っち、北方連合に着く。②

 魔族の男と僕の視線が交差する。

 五属性使える事がバレてるとはいっても、こちらにその気はない。

 そもそも、ブロジールと戦ったのは街の人々を救うためだ。魔物相手にならレベル上げのために殺傷はする。でも、意味もなく魔族と戦う理由は僕にはない。


「ブロジールと戦った時は、お世話になった街の人を助けるためでした。でも、メルクリーゼの時は、その人族から追われてたんです。その状況で、魔族と戦う意味は僕にはありませんよ」


 魔族の男は考えるような素振そぶりをする。そして何を思いついたのか、機嫌の良さそうな面持ちで口を開いた。


「ほう、ならこれから俺はそこの街を襲う。だが、それには介入しないって言うんだな?」


「見ず知らずの人間を助ける趣味はありません。でも、女子供をいたぶるのなら、手を出すかもしれません」


「はん。俺も漢だ。そんな弱者を虐める趣味はねぇよ」


「なら、ご自由に。それと、なぜ魔族は人族の地に攻め入ってるのか、その理由も教えてもらえると助かります。どうにも府に落ちないんで」


「今は言えないな」


「分かりました。それなら僕は静観するだけです」


「ふん、食えない男だ……」


 そう言うと、魔族の男の姿はかき消えた。次に男が現れたのは、街の塹壕の上。


「俺は魔族軍第一部隊長ボルケーノだ! これよりここは魔族領となる。文句のあるヤツは掛かってこい!」


 一瞬の静寂が流れる。しかし、すぐに街から大勢の声が聞こえだした。


「魔族だって、この人数を相手にできるならやってみな!」「コイツを人質に魔族族に攻め入ろうぜ!」「やっちまえ!」


 遠くで罵声飛び交う状態を確認した僕たちは、街へ向けてゆっくりと進む。

 さっきもボルケーノに言ったが、荒くれ者の人族の集まりに飛び込む気はない。


 万一、攻撃に巻き込まれたらシャレにならない。


 ボルケーノの周囲で巻き起こる砂煙。人族が多勢に無勢と襲いかかる中、一人でそれを相手取ってる。遠目に見ても、ボルケーノは強い。人族の剣をかいくぐり、巧みに弾く。そして、相手のすきは必ず見逃さない。

 僕は剣を使ったことはない。それでも、ボルケーノが強いのは一目瞭然だった。

 次々と倒されていく人族。その数、実に数百人。とても人間業には思えない。


「なんだ……この野郎……」「強い。強すぎる……」「逃げろぉぉぉ」


 仲間の多くが蹂躙じゅうりんされていく中で、人族の士気は地に落ちる。

 逃走を始める者。家屋へ逃げ込む者。武器を捨てて許しを請う者。

 ほんの数十分でこの街は制圧された。ブロジールとメルクリーゼは街を最初に破壊した。だが、このボルケーノは、剣の腕だけで制圧したのだ。


 ちょっとだけカッコいいと思ってしまう。


「すげぇな。これが剣を極めし者か……」


「マナで身体強化の魔法を掛けてるみたいだに」


「なるほどね」


 身体強化魔法は僕にも使える。でも、いくら敏捷びんしょうと力が上がっても、技のない僕にあんなマネはできない。

 僕たちの接近に気付いたボルケーノが背後を振り返る。


「おまえたちも一戦やるか?」


「遠慮しときますよ」


 魔族ってのは戦闘狂が多いのか。すぐに戦いたがるな。


「そういえば、紹介がまだだったな。魔王軍第一部隊長ボルケーノだ」


「僕はソウジ。こっちは……」


「相方のメイルだに!」


 ここで僕は異変に気付いた。普通、数百人を斬り殺せば血の臭いがする。だが、これだけ近づいても鉄錆の臭いはしなかった。


「あれ、殺してないのか?」


 何言ってんだ。そんな顔をされた。そして、ニカッと笑って。


「コイツらには聞きたいことがあるからな。殺しはしねぇよ」


 あれ、メルクリーゼも似たような事を言ってたな。やっぱり、魔族は何かを探してんのか? でも、街を全て襲ってまで知りたい事って何だ……。


「俺も聞き取りに立ち会わせてもらっても?」


「悪いな。そればかりはできない」


「それはなぜ?」


「ソウジがそれを知ってるとは思えない。そして、今後、俺たち魔族と人族が争う中で、ソウジには介入されたくねぇ。それが理由だ!」


 うん、どういう事だ。俺はこの世界をまだよく知らない。だから一つは納得できる。でも、何で介入されたくないんだ。


「介入すると言ったら?」


「今、ここで斬る!」


 それまで穏やかだったボルケーノの空気が張り詰めたモノに変わる。

 メイルも僕も一歩も動けない。まるで蛇に睨まれたカエルだ。

 ボルケーノに切りつけられても、結界でかわせる自信はある。それでも、魔族と戦うとすれば今じゃない。そんな気がする。僕は強張った顔を崩す。


「ふっ……分かりました。今回は諦めます。でも、僕に話せば何かの糸口につながるかもしれませんよ?」


「それはねぇよ。ソウジがそれを知ってれば、きっと……してるはずだからな」


 くっ、もう少しだったのに。荒野に吹きすさぶ風に声はかき消えた。

 僕がその原因を知っていたら、行動を起こしてる。そう聞こえた。うん。確かにそう言ったように思う。僕が動くのはいつ、どんな時だ。


「さて、俺はこれからする事がある。用事がないなら、どこへでも行け」


「うーん、この街で宿泊する予定だったんだけど?」


「ふん、北方連合のどの国も、ここと変わらない。旅人、商人は襲われるだけだぞ」


「あれ、もしかしてもう全ての国に行ったんですか?」


「あぁ。ここが最後だ。他の国では何も収穫がなかったからな」


 すげぇな。いつブロジールとメルクリーゼから話を聞いたのか分からないけど、それが本当ならほんの二、三日で北方連合を落としたと言うことか。


 魔族ってヤツらは……化け物揃いかよ。


 でも、それだとどうするか。あと行っていない国は魔法国だけか。確か、ここから北方連合の国土を通っていくとかなり遠回りになるんだったな。

 ここまで来て戻るのか。やっぱり馬車くらいはほしいな。


「あっ、そうだ。馬車。ここで馬車とか売ってないかな?」


「あん? そんなもん、奪えば良いじゃねぇか。ここはそういう土地だぞ」


「いや、そうかもしれないけどさ。やっぱり犯罪はね」


 面倒くせぇなって感じで、ボルケーノは倒した男に詰め寄る。


「おい、ここに馬車はあるか? あるなら一台寄こせ!」


 ボルケーノに脅された兵士っぽい男は、慌てて街の中へ駆けていった。しばらくして、一頭の馬に引かれた馬車を持ってくる。


「えっと、さっきの話聞いてました? 強奪は忌避感があるんですけど」


「細かい事は気にすんな。んで、ソウジは次どこに向かうんだ?」


「はぁ。それを僕が言うとでも? あ、でもそっちが教えてくれたら口を滑らせちゃうかも? どうしますか?」


 二カァ、と笑って舌を出された。なんだよ。あっかんべぇって。本当に訳の分からないヤツらだな。魔族は。気の良いヤツらの集まりで。こんなヤツらが意味なく人族に押し入るとはますます思えなくなっていた。


 やっぱり何かあるのか……神が助けたくなる何かが……。


お読みくださり、ありがとうございます。


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