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第186話、宗っち、北方連合に着く。①

 獣人の国を出た僕とメイルは、人族の国が乱立している北へ向かった。

 そもそも、北にあるのは国といえば聞こえはいい。だがその実態は、覇権を競い合う豪族たちの土地争いである。いくつもの街は国を名乗り、頻繁に他の街へ侵略を行う。そんな群雄割拠している場所。それが北方連合だ。樹海の北側に位置するこの連合では常に争いが絶えない。

 そんな戦乱に明け暮れてる土地だから、温厚な民族である獣人は住んでいない。

 今回、この地に行く事を選んだのは僕だ。魔族と人族の関係性を考える上で、必要だと考えた。この世界のあらゆる人種を通して、何が正しいのか、何を間違ってるのかを考える判断材料にするために……。


「でも、メイルまで来ちゃって良かったの?」


 北の国に獣人がいない訳のもう一つは、力の強い獣人は戦闘奴隷にされる。

 そのため、この地に足を踏み入れる獣人は普通はいない。

 そんな中にメイルを連れていっていいのか、現在も悩んでた。


「うーん、危なかったら逃げればいいだに。それよりも、ソウジの見聞を広げるのが先だに」


「まぁ、見聞といっても大した事ないけどね」


 大まかな話は獣人達や、魔族から聞いている。そして、人族の方が差別的だという事実も知ってる。

 だから、北方連合を回り、最終的に魔法国を見てから決めようと思ってた。


 今後、どちらにつくのが正しいのか。


 僕を召喚した神様の意図は分からない。けれど、魔王を殺すなということは、魔族を一方的に倒せば解決するとは思えなかった。だから、多くの情報がほしい。


 進む道を間違えない様に……。


 北方連合へは北西から回り込めば行ける。でも、僕たちの経験値を上げるためにあえて樹海の中を通っている。獣人の国で時間を食いすぎたのが一番の理由だが、それを口にはできない。大陸中を回って、獣人の居場所がなければメイルの安住の地になる筈だから。


 樹海でも浅い場所を通り、出くわす魔物を倒していく。


「この辺は強い魔物は少ないだに」


「そうか? それにしては、地竜とか、アリゲーターとかヤバそうなのが出てくるけど」


「それを地形操作で身動きを封じて、一方的に倒すソウジは異常だに」


 獣人の国で地形操作を使いまくったら、使える回数が上がってた。内包するマナは、魔物を倒すだけでなく、魔法を使うことでも拡張されている。それを確認できたのは大きい。


 獣人の国を出て二週間。樹海に入って六日で、ようやく目的の場所に着いた。

 他の国では小麦の刈り取りまで時期的に早い。でも、ここでは見渡す限りの荒れ地が広がっている。元は畑だった土地は荒廃していた。それも、大勢の足跡を残した状態で。


「ここの特産って何だか知ってる?」


「北の国も特産は小麦のはずだに」


 その割に、麦畑なんてどこにもない。これは引き返した方がいいかな。もし、戦いに明け暮れて、作物さえも放置されてる国なら食料に不安がある。そんな場所へノコノコと顔を出しても碌な事はない。

 小麦を栽培していなくても、ジャガイモや野菜を栽培してるなら緑の葉の畑が広がってる筈だ。それもないと言う事は、この地は収穫もせずに戦ってる事になる。


 ひたすら相手側の食料を強奪して。奪い合いを繰り返す訳だ。

 情報収集のために足を踏み入れたけど、この展開は予想していなかった。

 さて、どうしようかと考える。


「あっちに街があるだに」


 メイルの声に誘われて、指し示された方を見る。

 確かに、岩を雑に積み上げた囲いが見えた。でも、街と言うより塹壕と例えた方がしっくりくる。しかも、囲いの中は見張り台まで付いてる。

 争いの多い土地とは聞いてたけど、これは予想外すぎだ。


「北方連合を回るの止めようかな……」


「それが賢明だな」


 メイルの声とは明らかに違う声色に、声の出所へと視線を向ける。

 そこには、赤い髪を短髪に切りそろえ、黒い瞳を顔に貼り付けた魔族がいた。

 見上げる程の大男だ。背中に大剣を背負い、何かの鱗を加工した鎧を着ている。ツンツンに立たせた髪は昔のパンクバンドを思い起こさせる。

 そんな男が、僕たちのすぐ後ろに立っていた。


「――ッツ」


 メイルが慌てて距離を取る。一方で、僕は友好的に返事を返した。


「いつの間にそこにいたんですか?」


「ソウジ、離れるだに!」


「おいおい、獣人の娘よ。危害を加えない内からそれはないだろうよ? それと、いつから……ね……おまえたちが樹海から出た時からだが?」


 僕もメイルも気配察知には自信がある。だが、この男の言う事が確かなら、いつでも僕たちを殺せた。なのにそれをしなかったと判断できる。


「ははっ、世の中広いですね。気配察知には多少自信があったんですが……」


「おいおい、それは鍛錬不足ってものだぜ」


 屈託のない笑顔で指摘され、僕は苦笑いで返す。

 僕と魔族の会話の流れからメイルも警戒を弱めた。でも、鞘には手をかけている。いつでも抜けるように。


「そこの獣人の娘。おまえもそんなに息巻くなよ。おまえたちだろ? ブラッスリーとメルクリーゼに接触をしたのは。ブラッスリーなんて友達ができたって大喜びで言いふらしてたぞ。全く、俺たちが何を相手にしてるのか……分かってんのかねぇ。あれで部隊長だってんだから世も末だぜ」


 あれ、まさかもう魔族の間で知れ渡ってんのか。いや、でも獣人の国を築くのに手間取ったからな。日数で言ったら三週間近い。なら通信手段の遅れてるこの世界でもあり得るか。でも、それを知ってるから声を掛けてきたとしても、いったい何が目的だ……。まさか、また魔王軍への勧誘でもあるまいし。


「僕は誰とも敵対関係になろうなんて考えていませんよ」


「あ、あぁ。その様だな。敵対するなら今、二対一で始末しに来ても不思議じゃない。だが、それをしないという事は……おまえ、何を考えてる? ブラッスリーとは戦った癖に、メルクリーゼとは戦わなかったんだろ。そこが知りたいんだよ。魔法師ならブラッスリーよりメルクリーゼと戦いたい筈だ。それをなぜ避けた?」


 そのために態々(わざわざ)足を止めて様子を見てたのか。コイツ。


「そもそも僕は戦闘狂じゃないんですよ。だから強者きょうしゃを見れば戦いたくなる趣味はありません。それに……」


 男は僕の言い分を静かに聞き入ってる。


「ソウジは優しいだに。だから、好きで戦ってる訳じゃないだに」


「五属性の魔法を操れるヤツがか? それは何の冗談だ?」


 おい、ブロジール。ペラペラと人の秘密をばらしてんじゃない!

お読みくださり、ありがとうございます。


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