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第185話、宗っち、獣人の国を作る。②

「これはなんだに?」


 まさか、秘境へたどり着いたと思ったのにこんな物に出くわすとは。


「さぁ、なんだろうね。半分以上は土に埋もれてるようだけど……」


 そう。遺跡の塔と思われる部分の先端だけが、地面から突き出ていた。これはピラミッドか? そんな感じを最初は受けた。


「掘れるだけ掘ってみるよ。ここが何かの遺跡だとしたら、遺物とか、お宝が出るかもしれないからね」


 遺跡を掘り進めるのに地形魔法を何度か試した所で、土魔法は使えなくなった。ここを掘るまでに既に何度か整地してたから、属性の限界が訪れたのだろう。

 別に急いで掘り進める事もないか。そう判断して、この日の発掘を中止した。


 時間的にも夕方だから、ちょうど良かった。それから皆で輪になって、新天地での夕食を食べた。迫害され、人族の街を追い出された獣人たちだ。長旅の疲れもあり落ち込んでいるかと思われたが、そうでもなかった。きっと獣人の国という新たな希望に酔いしれているのだろう。

 翌日も国を作る上で必要な整地や伐採を手伝った。余った時間を遺跡の発掘にあてる。そうして三日後、二十メートル近く掘り下げた所で神殿の底が見えた。

 僕はメイルを伴ってフライで地底に降り立った。そして、扉の模様に手を触れた時にそれは起きた。

 それまでは一本の塔だけだった。それが、土の中から何本もの塔が現れたのだ。


「あわわ……これはなんだに?」


「えっと……なんだろうね……」


 さすが異世界ファンタジーの世界だ。無から有が生まれた。そうとしか考えられない光景が広がっていく。僕の掘った穴は塔の浮上とともに消え去った。――きっと塔の土台が持ち上がったことで、土は消えたのだろう。

 あり得ない光景が広がっていた。塔は全部で十本。いずれも平衡に二列に並んでいる。そしてその先には白亜の神殿が顔を出していた。


「何だか分からないけどスゴいだに!」


「本当にね。これはびっくりだよ。ピラミッドかバビルの塔をイメージしてたんだけどね。まさか……神殿だったとは……予想外だよ」


「ソウジの言ってる事も謎だに」


 異変に気付いた獣人たちもゾロゾロと集まってきた。子供はキレイな白亜の塔の周りを駆け回って遊んでいる。なんだか緊張している僕の方が滑稽な感じだ。

 皆は第一発見者の僕が、この神殿をどうするのか見守ってる。


「うーん、ちょっと気後れするけど入ってみようか」


「そ、そうするだに?」


「危険だったらすぐ出ればいいよ」


 メイルが首肯してくれた事で、二人で並んで神殿の入り口へと進んだ。

 神殿に入ると内部の白亜の石は青く光った。それは、この奥へと誘導してくれている様に感じられる。僕が一歩進んだ所で、メイルは足を止めた。


「私はここから先へは入らない方がいいだに」


「えっ、どうして?」


「うーん、ハッキリとは言えないに。でも、この先は魔力のある者しか入れない感じを受けるだに」


 詳しく話を聞くと。魔力の少ない獣人は、この青い光は見えない。そして、メイルが一歩足を踏み入れると激しく恐怖心が湧き上がったらしい。

 これは獣人特有の勘なのか、それとも危機察知に優れてるメイルだから予見できたのかは分からない。

 でも無理強いはできないので、メイルをその場に残し僕だけ奥へ進むことにした。『何かあったらすぐ出てくるだに!』のおまけ付きで。


 幻想的な光景の中をどんどん奥へ進むと、広い空間に出た。それは百八十度パノラマの世界だった。僕を中心に扇形のひな壇が広がっている。それは、三段に分かれていて、どの階にも白い石像が置いてあった。

 中央の通路を進んで階段を上がる。階段は一番上段の真ん中まで続いていた。階段を上り終えると、そこには一回り大きな女神と思しき像が鎮座している。

 女神像は上段だけでも七体。中には男神の様なモノもあるが、男神には興味はない。僕は中央の女神像に見惚みとれてた。胸は控えめだが、髪は長いストレートで腰まである。そして、薄い衣をまとい、首にはストールらしきものまで巻いている。

 見惚れついでに触れてみる。ひんやりした。まぁ、石像だから当然だ。


*    *     *


 俺はモニターを見ていた。ここまでの宗っちの行動を疑問に思いながら。


「あれ、この場所って獣人の国だよな。ブラッスリーに乗って移動した日の記憶が鮮明に思い出される。まさか、ここを築いたのが宗っちだったとは。これは予定外だな。石神は人族に利用されたけど、魔族に肩入れするとこうなる訳か。

 でも、宗っちが獣人を連れてきたから獣人の国ができたのか、それとも、石神が動いた結果が俺の経験した獣人の国につながってるのか。なんだかややこしいが、結果は同じになったと考えた方がいいのか……。

 それにしても、宗っちのお呼び出しなんだけど、どうするかな。天御中主神からは下界に干渉するなっていわれてるし……ここは羽が戻るまではシカトだな」



*    *     *


 石像に触れても何も起きなかった。ここはきっと神を祭ってるだけの神殿だな。

 そう結論づけた僕は、元来た道を戻った。入り口では不安そうな面持ちのメイルが待っていてくれた。


「ただいま」


「大丈夫だっただに?」


「うん。奥に神様の石像があったけど、それだけだったね。お宝もなさそうなんで戻ってきたよ」


「それは残念だに」


 塔は僕が出てしばらくすると、最初の一つを除いて全て消え去った。

 ここに城でも築いて、代々守らせればいいか。神々の祭られてる神殿に守られる国。うん、なんだか格好もいいし。良い感じだ。

 そして、僕たちの開拓は始まった。一週間後には、かなりの木々が伐採されそれなりの規模の国が出来上がっていた。


「さぁ、最後の大仕事と行きますか!」


 ここは僕の関与する国だ。人族の国のような木の柵にするつもりはない。

 魔物に襲われないように、安全に皆が暮らせるように市壁を作る。土壁の魔法を何度となく使い、一日の限界まで市壁造りに明け暮れた。そして、さらに一週間が経過した。獣人の国は、外敵から身を守るために強固な石の壁で覆われていた。

 幅一メートル。高さ三メートルの壁に覆われたここは、この世界でも類を見ない国になったと自負している。そして、恥ずかしい事に、この国の名に僕の名前から取ってソージュ国と名付けられた。


 市壁を完成させた翌日、僕たちは皆に見送られながらソージュ国を後にした。


お読みくださり、ありがとうございます。


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