第183話、宗っち、騒動に巻き込まれる。③
突然、黒い蛇に巻き付かれ簀巻きにされた。
「何をするだに!」
メイルがメルクリーゼに飛びかかる。
「メイル、よせッ……」
僕はメイルに争いを避けるように口走るも一歩遅い。僕へ向けられた杖は、メイルに向けられその瞬間、メイルは意識を失い頽れた。
「人族を救いに入るとは、この獣人はお人よしなのだ」
メルクリーゼは何がおかしいのか、くつくつ笑う。そして、僕へと視線を戻すと甲高い声で問われる。
「お主は何者じゃ。わらわを見て恐れぬものはいない。じゃが、お主は笑った。なぜじゃ。その理由を知りたいのだ」
なぜ笑っただと、そんな事のために魔法を掛けたのか。
「それは……」
「それはなんなのだ?」
「それは……おまえの声がガキっぽかったからだ!」
「何じゃと! わらわの声が子供っぽいじゃと……それは初めて言われたのだ」
ウソだろと内心で毒づく。だが、ここでそれを言ったらマズい気がする。
そ、そうだ。この時こそ、結んだ縁の効果を利用する時だ。
「あッ、紹介が遅れたね。僕はソウジ。ブロジールの友人のソウジだ」
これで有効的な関係に持って行けるだろう。
「なッ……」
えっ、何で有効的になるはずが、距離を取られるんですか?
しかも、嫌がってませんか。かなり納得がいかないんですけど。
「えっと、ブロジールの友人だと何か不都合がおありで?」
「お……大ありじゃ! このド変態め!」
え、何この反応。これじゃ予定外なんだけど。もしかして、部隊長同士でも格付けがあって仲は良くないとか。それならこの拒否反応にも納得はいく。
「いえ、僕は普通ですよ」
「いや、お主は変態じゃ。そうでなければ納得がいかないのだ」
「いえ、本当に普通です」
「いや、断じて違う! わらわを見て笑う者が普通な訳はない。普通の反応というのは恐れ戦くものだ。じゃが、お主は笑った。しかもブロジールの友人じゃと。これは危険じゃ。お主に近づくと変態が移るのだ」
「…………………………」
ブロジール、おまえ魔王軍で何をやらかしてんだよ!
友好関係を築こうとしたけど、失敗じゃないか。
「まぁ、よい。わらわはこの国を支配しに来た。お主には後で話を聞くとして、しばらくそのままでいる事じゃ。分かったか?」
「いや、良くないし。そもそもこの国は今、獣人排斥運動の真っ最中だ。魔族に加担したとかで獣人は追い詰められてる。そんな所に魔族が現れてみろよ。ますます、獣人の立場は危うくなるだろ?」
「わらわには関係ないのだ……」
「関係あるじゃん。だって魔族なんだろ?」
「いかにも……魔族軍第二部隊長なのだ」
「なら関係あるじゃん。トリアムスの街を襲ったブロジールの件で、こんな騒ぎになってるんだからさ」
これで何とか、ごまかされてくれないかな。
「それはブロジールの失態じゃ。わらわには関係はないのだ」
あれ、もしかして魔王軍も一枚岩じゃない?
魔王の指示で行動はするけど、各部隊はバラバラみたいな感じなのか。
「ブロジールは街を破壊して帰って行ったけど。なら、ここはもう破壊しつくされた。これ以上ここに何の用があるわけ?」
「さっきも言ったのじゃが……わらわはここの管轄を魔王様より任されたのだ」
あれ、ブロジールは壊すだけだったけど、メルクリーゼは違うのか。
それだと、拘束された人族はどうなる、獣人は……。
「えっと、この国を管轄するのは分かった。それだとここの住民はどうなるんだ?」
「刃向かえば殺す。大人しく従うのなら奴隷落ちなのだ」
あれ、そんな事ブロジールは言ってなかったけど。どっちが正式な対応なんだ。
「ブロジールはそんな事してなかったけど?」
「変態の話は後ですると言ったのだ」
もしかすると、ここでメルクリーゼを放置したらマズい事になる?
さっきのサンダーでどれだけの被害が出てるのか、ここからでは分からない。けど、大勢の死者とか出たら……目覚めは最悪じゃないか。
ここは何とか引き留めないと。何か話題を……そうだ。これなら。
「ブロジールは二属性だったけど、メルクリーゼは何属性なんだ?」
魔法使いならこの話題はスルーできない筈。最悪は、ブロジールにバレた僕の属性の話で盛り上がる可能性も……」
「そんな極秘事項を、どこの馬の骨とも分からぬ者に話すと思うのか?」
「ですよねぇ……」
やっぱり、ブロジールがおかしいだけで、コイツは普通じゃん。
「ちなみにブロジールが認めた人族なら、獲物は何を使うのだ?」
獲物って何だ? あ、もしかして武器の事か。
「武器は使わないよ。僕の得意なのは魔法だからね」
おっ、初めて感心を示すような顔つきになった。やっぱり気になるのか。
「ほう、ちなみに属性は、二属性か、まさか、三属性か。それとも?」
「ふっ、それを正直に言うとでも?」
僕とメルクリーゼの視線がぶつかり合う。はは、少し余裕が出てきた。ちょっとだけほほ笑んでみるか。ニヤ。おお、目が大きく開いた。まるで百面相だな。
「お、お、お主。やはり変態なのだ!」
「どこからその発想は湧いてくるんだよ!」
「あれじゃ、ブロジールと同じ臭いなのだ。痛めつけると喜ぶ系の。キモい。ああ。悍ましい。どっかに消えてほしいのだ」
「消えてと言うなら、これを何とかしてくれない?」
ユニオンサークルとか僕も使える筈だけど、使った事はないな。でも、こういう効果なのか。これは参考になった。で、これで解放してくれるなら。そのすきに逃げればいいか。もちろんメイルを連れて。見た感じメイルのはスリーピだな。顔色も悪くない。それに、微かに寝息も聞こえる。うん。間違いない。
「うーん、はぁ。仕方ないのだ。なら、その獣人を連れて早く消える事だ。ここはもうすぐ……人族の血で染まるのだ」
「……えっ」
あれ、さっき抵抗したら殺すって言ってたよな。僕の聞き間違いだったのか。虐殺を見なくて済むのは助かるけど、それを聞いたら見捨てられないじゃん。
「ほれ、拘束は解いた。早く行くのだ」
「えっと、一つ聞いて良いか」
「ええい、何じゃ、わらわも忙しい身じゃ。用があるなら早くするのだ」
「うん。さっき抵抗しなければ奴隷落ちって行ってたよな」
「うむ。言ったのじゃ」
「それが何で人族の血で染まるんだ?」
「それは……ここの国の人族には、とある嫌疑が掛かっているからなのだ」
おっ、さすが、普通の部隊長だな。ブロジールと違って詳しい話が聞けそうだ。
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