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第182話、宗っち、騒動に巻き込まれる。②

 怯えるメイルを背中に隠し、僕は扉の鍵を開けた。

 すぐに外側から押され、部屋の中に三人の男たちが入ってくる。


「おっ、開いた」「観念しろ獣人が!」「おい、獣人の娘はどこだ?」

「旦那方、ここは穏便に……部屋は壊さないでください」


 僕と目が合ったガタイのいい男が、メイルを引き渡せとののしる。大声に萎縮したメイルは震える体を、一層、僕の背中に押しつけてくる。

 ここは僕が何とかしないと。メイルは何も悪い事はしていない。


「何か誤解があるようですが……」


「誤解だぁ? 何を言ってやがる」「小僧は引っ込んでろ!」「昨日、到着したトリアムスの領主からネタは挙がってんだ!」


 はて、何を言ってんだ……。僕とメイルは街の住人を救いこそしたが、追われる様な事はしていない。あ……もしかして土壁で一時的に拘束した事か?


「トリアムスの城主様が何を言ってるのか知りませんけど、僕たちには関係のない話です」


「小僧、話はそれじゃ済まないんだよ」「あぁ、獣人が手引きして魔族を引き入れた証拠は挙がってんだ」「いいから獣人を引き渡せ、さもないと小僧も同罪だぞ」


 何だかややこしい事に巻き込まれてる事は間違いないな。

 それにしても、魔族を獣人が引き入れた……ね。何の話だよ。

 メイルも意識を失うくらいブロジールと戦ってた。あの街のために。そんな獣人が魔族と結託してるとか……あり得ないだろ。


「とにかくここじゃ宿の方に迷惑が掛かります。外に出ましょうか」


 こんな狭い場所じゃ、逃げるに逃げ出せない。

 魔法で倒せば簡単だけど、狭い室内だ。何があるか分からない。それなら外の方がいい。そう考えた僕は退室を促す。

 男たちも宿の主人に言いくるめられ、すごすごと外へ出た。

 外へ出ると、敵は一気に増えた。僕のではない。僕の背後に隠れたメイルのだ。


「いたぞ! 獣人だ!」「囲め! 逃がすな!」「引っ捕らえろ!」


「小僧、状況が分かっただろ。早くその獣人を引き渡せ!」


 そんな事できるかよ。

 今にも泣きそうな顔で、僕の肩袖かたそでをギュッ、と握ってるメイルに振り返る。


「大丈夫だから」


「何が大丈夫だ! 小僧も同罪だぞ、分かってんだろうな!」


 僕たちを中心に、一触即発の空気が流れる。

 男たちの背後には、剣の鞘に手を置く者。やりを掴んで息巻く者。そして、少し離れた場所では、獣人に危害を加える光景が飛び込んできた。


 男たちが部屋に入ってくる前に、結界は張ってある。万一、槍や剣で攻撃されてもこちらに被害はでない。

 男たちは、僕が黙っている間にもジリジリと距離を詰めに掛かる。


 どうするか……言葉では解決できそうにない。


 いっそ、メイルを抱えて飛ぶか。そう考えた時、大衆を割るように進んでくる者がいた。高そうな衣服を着た貴族に見える。そいつは僕たちの前まで来ると、声を張り上げた。


「コイツらだ! コイツらが魔族と一緒の馬車に乗ってるのを見たんだ!」


「はぁ?」


 一斉に大衆が騒ぎ立てる。逃がすな! なんて言葉はまだいい。中には縛り首だ!! そんな罵声すら叫ばれてた。

 冗談じゃない。罪のないメイルを処刑だと……。僕の体からマナは放出された。トリアムスの街で冒険者に使ったウインドハンマーだ。

 一斉に吹き飛ぶ民衆、そして開いた脱出路。僕はメイルを連れて走った。

 僕に手を引っ張られ、駆け出すメイル。その面持ちは暗い。


 一方、起き上がるや、一斉に放たれる追っ手は憤怒の表情だ。逃がさない。そんな意気込みが伝わってくる。

 人の気配がしない方を探して辺りを見回す。すると、あちこちで、同じ光景が広がっていた。素手の獣人に対し、武器を持った人族が襲い掛かっている。


 これ、もしかして人族が諸悪の根源なんじゃ。そんな想像が頭の中を駆け巡る。 一部の獣人と魔族しか知らないから、一概には決められない。でも、今の現状だけで考えると胸にストンと落ちる。

 他の獣人も助けたい。でも、今の僕の力ではメイルだけで精一杯だ。


「とにかく、安全な場所まで逃げよう」


「……分かっただに……」


 くそっ。すっかりメイルは気落ちしてるし。何だっていうんだ。

 人族のいない方へ、騒がしくない場所を探して僕たちは走る。

 そうして彷徨うことしばし、突然、国の上空が暗くなった。これを僕は使った事がある。ただし、僕の使った魔法よりも広範囲に被害を及ぼす魔法だ。そう理解した僕は咄嗟とっさに、土壁の檻を形成すると自分で囲いの中に入った。


 その瞬間、木の柵に囲まれた国全体に夥しい量の稲妻が降り注いだ。


 それは木造の家屋を一瞬でバラバラに破壊する。外で武器を振り回してる人族に直撃していく。しかし、素手の獣人には左程影響はないようだ。

 僕は土壁の中からその光景を目撃する。驚愕に色を失う。

 僕のサンダーではここまでの制御は不可能だ。あえて武器を持ってる者へは強い威力で、無抵抗の者へは弱い威力の攻撃を。こんな使い方は魔法の書にも記載されてない。

 雷が収まった時、そこに立っている者はいない。

 僕たちを犯人だと叫んだ貴族風の男も、周りの男たちも全て倒れている。


 何が起きている。何が……。


 僕たちは土壁の檻から動けなかった。正直、怖かった。足を踏み出せない。逃げなきゃ。そう頭では分かってる。なのに、足が動かなかった。


 そうしている間に、砂を蹴る数人の足音が聞こえだした。

 ゆっくり、まるで誰もいない無人の荒野を進む様な、そんな足音だ。

 建物の連なる場所でそれは消えた。いや、足を止めた。少しの物音でも心臓が波打つ。僕は勇者だ。なのになぜこんなに怖いのか。


 そして、次に聞こえてくる声色に――拍子抜けした。


「わらわは魔王軍第二部隊長メルクリーゼじゃ。この国はわらわの管轄とする!」


 甲高い、まるで子供の様な声に別の意味で驚く。

 どんな姿なのか急に興味が湧いた。

 土壁に隠れながら、顔を出した。すると、目が合った。しかも、バッチリ。

 それもその筈。メルクリーゼは、すぐ前に居たから。訝しそうに睨む幼児。思わず目をしばつかせる。

 僕の視界には、小学生と思われる身長に、褐色の肌、ブロジールと同じ赤い髪に黒い瞳の幼女が映り込んでいる。髪がおさげなのが一層幼さに拍車を掛ける。

 でも、着用しているのは皮のワンピースで戦闘用だ。武器にはつえを所持している事から魔法使いだと思われた。


 そんな幼女に睨まれ、思わず照れ笑いを浮かべた。


「なんじゃ、わらわを見て笑うとは無礼なヤツじゃ」


 咄嗟に放たれたその魔法に僕は気付かなかった。メルクリーゼは言い終わるや否や杖の先を僕に向けて、拘束魔法を放っていた。地面から吹き出した黒い蛇は体に巻き付いてくる。逃げようとしても、足がもつれて走れない。

そして、僕は無様に地面に転がった。


お読みくださり、ありがとうございます。


暑くなってきましたが、ちょっと一時間ばから散歩に行ってきます。

帰ってから、気力が残ってればまた書きます。

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