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第181話、宗っち、騒動に巻き込まれる。①

 冒険者組合を出た僕たちは、この国で最大の繁華街へと足を運んだ。

 もっとも、繁華街とは名ばかり。数点の露天、食堂が軒を連ねているだけの日本でいうところの昭和の時代の商店街といった感じだ。

 そこで、食堂を見つけて腰を下ろした。酒の弱い僕は、果実を搾って水で薄めただけのジュースと食事を頼む。メイルは果実酒を頼んでいた。トリアムスの街で過ごした一週間の期間に、メイルが酒を飲んだ所を見た事がない。

 やはり、仲間の獣人が暮らす国だからか、心なしか気が緩んでいる様に見える。

 テーブルに並べられた、った豆、ベーコンサラダ、パンを味わいながらメイルが愚痴を漏らす。ワームの買取代金が金貨一枚に減った件だ。


「それにしても随分安くなったものだに……」


「僕のせいじゃないよ」


「分かってるだに。でも、何で途中から魔法を使えなくなっただに?」


 そこなんだよね。問題は。あの後、他の魔法を試してみたけど使えた。でも再度、水属性の魔法を使ったら使えなかった。そこで、僕はある仮説を立てた。


「あくまでも仮説なんだけど、魔法の本にはマナ量は成長とともに増加すると書いてあるんだ」


「それがどうしただに?」


「うん、増えたマナの内訳というか、属性ごとの容量が決まってると仮定すると分かり易いかな?」


「ソウジの言ってる事はむずかしいに。分かりにくいだに」


「例えば、僕のマナの最大値が百八十だとするでしょ。それを全属性使えると仮定して、六で割る。すると……一つの属性で使えるマナは三〇という事になる」


「私は計算は苦手だに……もっと分かり易い説明はないだに?」


 仕方ないなといった顔で、僕は皿に乗ってる豆を十八個用意した。それを三個ずつ別々に離す。


「この一八個の豆が僕の魔力量だと仮定するね。それで、この三個は水、もう三個は炎、もう三個は光、これは分かるかな?」


「うん、それなら分かるだに」


「じゃあ続けるね。この氷の三個の内、氷魔法を一つ使うと一つ減るよね」


 そう言いながら、その豆を口に放り込む。


「うん」


「それじゃ、後二回氷魔法を使えばどうなる?」


 今度は、豆を二個食べた。


「なくなったに……」


「そう。それがマナの仕組みだと僕は考えた訳だ。だからあの時、氷魔法は使えなかった。でも、他の属性は減ってないから使えた」


「なるほどだに。でも。氷魔法は確か五回使ってたに……三回じゃないに」


「うん、これはあくまでも分かり易く説明しただけだから。やってみないと分からないけど、多分、火の魔弾を五回撃ったら六発目は撃てなくなってた可能性が高い」


 この先、僕の成長に合わせて撃てる数は増えるはず。でも、残弾数を知っていれば、今後の対策に役に立つ筈だ。命がけの戦いの最中に弾切れなんてシャレにならない。ワームの動きが遅くなってたから助かったけど、一歩間違えば死んでた。

 うん。これからは、マナの容量と使える回数は調べていかないと。

 大成する前に死にたくない。僕は大きくなるんだ。


「あっ、それ僕のベーコン」


「男はケチケチしたらダメだに」


 酒が入って気持ち良さそうに【にへら】と笑いながらメイルは、僕の皿からベーコンをかっ攫う。この食堂のメインディッシュはこの厚く切ったベーコンだ。豆はあくまでも前菜。未練がましい目でメイルを見るが、うまそうに頬張ってる姿を見るとこれ以上の追及はできなかった。


 ワームを倒したのは僕なんだけど……。


 僕が強くなってからは、二人の付き合い方はこんな感じだ。

 ヒモから、たかられる側へジョブチェンジした。

 味気ない硬いパンと一緒に、ベーコンの消えたサラダを口に含む。こうすれば、サラダの塩気が混ざってパンも美味しく食べられる。

 そんな時だ。隣の席の獣人たちの会話が耳に飛び込んできた。


「何だって魔族が暴れ出したんだ?」


「それが良く分からないんだと。あちこちの人族の街で暴れてるらしいぞ」


「それじゃ、ここにも?」


「遅くない内に現れるだろうな」


 その会話に耳を澄ます。魔族の王は野心家だと思ってた。それが、この話を聞くとそうではないようだ。魔族が暴れる事を不思議に感じてるのはなぜだ?


「そういえば、さっき逃げ込んできた人族はトリアムスの街から来たって言ってたな。何でも、魔族に襲われて街は壊滅したんだと」


「そいつは災難だったな。だが、これまで大人しかった魔族がどうして?」


「さぁな、それが分かれば危機感は抱かないって」


「それもそうだ」


 へぇ。あの状態の街から逃げてこられた人がいたのか……。

 まぁ、家屋は全滅してたけど生きてる馬は多かったからな。きっと金持ちが馬で逃げ出したんだろう。幸い、ブロジールは国へ戻っていったし。ここは大丈夫。

 この時、僕は楽観視してた。ブロジールとえにしを結んで、魔族と友達になったと。 最悪、ブロジールの名前を出せば穏便に済ませられるかもしれないと。


 宿のベッドは藁にシーツを乗せただけの粗末なものだった。ゴワゴワした寝心地になかなか寝付けなかった僕は、朝、寝過ごした。

 そこに、隣のベッドで寝てたメイルから声が掛けられる。


「ソウジ、大変だに……早く起きるだに」


 眠い目を指で擦りながら起きると、メイルは既に旅装に着替えていた。所持金が心許ないとは言っても、随分張り切ってるな。そう考えたが、次の言葉で眠気が消し飛んだ。


「大変なんだに……街で……街で獣人狩りが始まったに……」


「何をバカな事を……」


「ウソじゃないに……外を見るだに!」


 僕は鍵の付いてないスライド式の木窓を開けて外を見る。すると、大勢の人族が、獣人を追い立ててた。なぜ? 昨日までは普通に仲良く暮らしてた。それが、なぜ、突然こうなる。人族の手には槍、剣が握られている。一方の獣人たちは武器を持っていない。相手を一方的に責め立ててる様に見えた。


「何がどうなってるんだ?」


「そんなの、私にも分からないだに」


 突然巻き起こった獣人への排斥運動に、メイルも不安そうな面持ちを浮かべてる。昨晩までの空気が一変したのだから当然だ。


 すると、扉の外から人の声が聞こえてきた。


「ここです、ここに獣人の娘が宿泊しています!」


 扉の外から感じられる気配は最低でも三人。次の瞬間――ドンドン、と殴りつける様に扉はたたかれた。


「開けろ! ここに獣人がいるのは分かってんだ!」「獣人を匿うと重罪だぞ!」「早くしろ!」「ここはうちの宿です、どうか、壊さないようにお願いします」

「チッ、大人しく扉をあけやがれ! 薄汚い獣人が!」


 メイルはその声にビクッと飛び跳ねる。今にも泣きそうだった。

お読みくださり、ありがとうございます。

すっかり寝過ごしてしまいました。お陰で頭はすっきりです。


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