第178話、宗っち、黒歴史を刻む。
「それでアンタはどこの生まれなんだい?」
「それは……ノーコメントで」
「コレもかい。なら、アンタはどうやって魔法を覚えた?」
「それも……ノーコメントで」
「アンタの好みの女はどんな女だい?」
「はぁ。その時好きになった子がタイプですよ。さっきから何なんですか。何度も質問攻めにして」
「そうだに。そんな事をしてもソウジは魔王軍には入らないだに!」
ブロジールの馬車に乗り、ルイジムス国へと向かう。その車内では、ブロジールによる僕への追及は後を絶たない。本当にいい加減にしてもらいたいものだ。魔法を覚えたのは書の力が大きい。だが、僕の魔力が普通と違う。コレの最大の要因は神からの贈り物だから、軽率には話せない。それを知ってか知らでか、この女は根掘り葉掘りと質問してくるのだ。
「良いじゃないか。強い男はどうして生まれるのか。遺伝じゃないのは解明されてる。なら、どうしてアンタは強くなった。それを知りたいと思うのは……当然だろ」
「そう言われても……自分でも知りませんよ。魔物を多く狩っただけです」
よし、ウソは言ってない。実際、この一週間、かなりの数の魔物を倒してる。メイルと一緒に……。そして気づいた事もある。この世界で魔物を多く倒せば、筋力も、魔力も少なからず上昇する。そう、まるでゲームの様に……。だからなぜ強くなると聞かれたら、魔物を多く倒した。そう答えても間違いじゃない。
「アタシも多くの魔物を屠ってきた。でもね、属性ってヤツは決まってるんだよ。普通の生物は使えても二種類だ。エルフでも、魔族でも数千、数万人に一人は三種類の属性を持つものは生まれる。けどね、アンタは水、風、土を使った。そして結界もね。アタシの使う結界は水の膜を張ってる。だが、アンタの結界は光だ。この意味はわかるだろ。アタシは火と水の属性を操る。アンタのは四属性だ」
へぇ。そうなんだ。この世界でも稀なのが三属性。僕は恐らく全属性使える。そうなると、このアドバンテージを軽はずみには話せないな。と言うか、無属性を使える事もバレたらマズいのか。それは……困った。この数日の道中、僕のアイテムボックスの食料は当てにできないと言う事になる。
「ふん。ソウジはアイテムボックスだって使えるんだに!」
「バカッ!」
っち――。ブロジールの視線がギラついたじゃん。今、隠そうと思ってた所なのに。メイルってやっぱり天然かよ。
「へぇ……それじゃ五属性という事になるんだね……」
ほら見ろ。怪しさ通り越して、ロックオンされてんじゃないか!
「何の事かな?」
「ソウジは謙虚だに!」
「ふーん。アタシの知る限りでは、そんな属性持ちは一人もいない。多分、この世界中探しても……見つからないだろうね。それをアンタは持っている。本当にアンタ……何者だ!」
ブロジールは威圧を掛けてる訳ではない。でも、ねっとりとした視線に思わず尻込みする。これは迂闊に口を開けない。神の使者だとバレれば、一生狙われる。あの街での情報収集で、魔族は独自の神を自分たちで作ってると聞いてる。
そんな中に、本物の神の使者が現れれば――あれ? 別に問題はないんじゃないか。逆に、崇め奉られる可能性だってあるか。
悪魔崇拝なら支障がある。でも、別の神を信奉する者なら、いやいや。その可能性は閉まっておこう。
「僕は刺さればケガもするし、血も流れる普通の人ですよ」
「それは間違いないだに。実際、最初にあった時は冒険者たちに打ちのめされてたに」
本当に、メイルはペラペラと良く喋るな。ギルド解消するぞ!
「へぇ。その話。詳しく聞きたいね。獣人の娘。名前は何ていった?」
「私はメイルだに!」
「そっか。それでメイル。それは何時の事だい?」
「うーん、私と出会った時だから一週間前だに」
あぁ、バカ。本当にお喋りだな。ブロジールから向けられる視線は完全に人を見る目じゃなくなってるよ。きっと、ほぼ、確信に近づいてる。そんな眼差しだ。
「ふーん。メイルはそれから一緒に魔物を狩ってるのかい?」
「そうだに。ソウジはスゴいに。あっという間に、私より強くなっただに」
あぁぁー終わった。完全に終わった。僕と一緒に狩りしてきたメイルにブロジールは圧勝してる。なのに、たった一週間でブロジールよりも強くなれば――。これはもう人外の力が働いてるってバラしてる様なものだ。
はは、メイルを置いて逃走したくなってきた。まぁ、仲間だし、僕の大恩人だから見捨てないけどさ。
「へぇ……たった一週間で、メイルより弱かった者がねぇ。普通に他人から聞かされた話なら、アタシは信じなかっただろうね。だが、実際にアタシは負けた」
「分かればいいだに」
「ちなみにメイル達は何ランクなんだい?」
「私はCランクに上がったばかりだに。ソウジはEランクだに」
はぁ。もういい加減に口を閉じてほしいな。確か、そんな魔法があったはず。でも、それをここで使えば、闇属性も使える事がバレる。それで詰む。
全属性なんて勇者しか思い浮かばない。あれっ、今まで気付かなかった。でも、よく考えると……もしかして僕は勇者なのか?
そもそも、神に召喚された僕は選ばれし存在。と言うことは、僕は勇者!
おぉぉ。これLIVE配信者より稼げるんじゃ。最初は文句ばかり言ってた気がするけど、これは、神に感謝しないといけない展開だったのか。
LIVE配信でお金を稼いで、実家の両親と弟に仕送りはできなくなった。
でも、ここで成り上がれば、ハーレムも夢じゃない!
これはチャンスだ。神が与えてくれた保証付きの。
あははは。もうなるようになれ。
ふふ、まるで崇拝するように僕を見るブロジールとメイル。
少なくとも、僕にはそんな風に見える。
僕の口から何を語られるのか、今か今かと待ち構えてる感じがする。
ふふ、この際全てバラすか。
「実は、メイルにも黙ってた事がある。僕はきっと勇者だ!」
一瞬の静寂が訪れる。しかし、メイルの爆笑で霧散する。
「あはは、あは、はははっ。ソウジが強いのは本当だに。でも勇者はないだに」
「ふふっ。本当だ。一瞬、ドキッとしてしまったぞ」
はい?
どういう事だ。全属性の使える僕は勇者のはず。何か問題でもあるのだろうか。
「えっと、僕が勇者だと不都合でも?」
「あははは、いや、そういう訳じゃない。ただな、勇者は剣が得意だ。神から与えられるエクスカリバーを生まれながらに内包すると聞くぞ。だが、ソウジは剣は使えないじゃないか。五属性を使えるのは大したモノだが……勇者ではない」
あれ……おい、神様。どうなってるの?
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