第174話、宗っち、魔族とバトル。①
「魔王軍だって……」「何だってこんな辺境に」「ウソだろ」「あはは……死んだ。俺、死ぬんだ」
なぜか領主からの強制招集が掛かると、冒険者組合の空気は一変した。
たかが魔族だろうに。何をビビってんだ。ここのヤツらは。白い世界でお供え物のまんじゅうを食みながら一人呟く。だが、この時、俺は失念していた。魔族はエルフと同等の魔力を持つ人種だと言うことを……。
「あわわ……ヤバい。マズいだに。ソウジ逃げるだに」
宗っちの連れのメイルは、恐れ戦いた表情でそんな事を言ってる。
「メイル、何を言ってんだ。この街の危機なんだろ、なら守り通さないと!」
うん。さすが。俺の見込んだ男だ。
「ソウジは知らないだに。魔族は恐ろしく強い魔術師の集団だに。狙われたら命はないだに」
うん? そんなに強かったのか?
石神はそいつらを倒してたぞ。中学生にできて宗っちにできない筈はない。
「大丈夫だって。だって、僕には……さまの……それがクエスト達成の条件だから」
「言ってる意味が分からないだに。とにかく危ないに。危険だに」
へぇ。宗っちは俺から与えられたクエストだと思ってんのか。そんなご大層なモノじゃないんだけどな。あくまでも俺の都合だ。でも、やる気になってくれてるのはありがたい。よし、サービスで神の祝福を授けよう!
宗っちとメイルに俺の祝福が降り注いだ。それは、俺が麗華さんと結婚式を挙げた時のアレだ。黄金色の粒子は二人に触れると、二人の能力が十パーセントアップした。よし、これでいい。
「今のは何だに……」
「…………さぁ」
冒険者組合の中は、神が勝利を祝ってくれてるぞ。とか、神の加護だ。とか言って盛り上がってる。まぁ、間違ってはいない。
宗っちだけには伝わってるだろ。神に選ばれてこの地へ来たんだからな。
街の門前には二十人弱の冒険者が集まっている。というか、これしか冒険者は居ねぇのか。サラエルドの半分以下かよ。
全員、上は革の鎧。下は、ももとすねを守るプロテクターを着用する。いかにも冒険者っぽい装いだ。まぁ、冒険者なのだが。宗っちもいつの間にそろえたのか、皆と同じ装備を着けている。メイルの防具は上半身だけで、下は相変わらずの短パンだ。獣独特の引き締まった足はなかなか……。ごほん。
そして緊張する冒険者達の前にやって来たのは、魔王軍の第五部隊長。ブロジールとその配下の男たち――五名。ブロジールは、褐色の肌に赤い髪。キリリとした瞳は黒く。頭には猛牛のように大きな角が乗っている。夏だからかビキニ・アーマーを着用し、胸当ての中には、はち切れんばかりの乳が詰まってた。
「うぉぉぉーすげぇ。でけぇ」
「確かに大きいだに……特に胸が……」
「いや、そうじゃないだろ。身長がだよ。百八十センチはあるんじゃないか?」
そう、このけしからん格好の魔族は背も、胸も角も大きかった。
これで第五部隊長とは、神をも恐れぬ所業である。実にけしからん。
それにしても総勢六名か。これは人族の圧勝だろうな。何の下調べもしていない俺はそう予想する。だが、それは次の瞬間放たれた魔法で吹き飛ぶ。
「我等、魔族と敵対する人族よ。ブロジールの魔法、死地で脳裏に刻み込め!」
そう告げると、ブロジールの手から魔法は放たれた。使った魔法はメテオ。
突如として街は影に覆われる。次の瞬間、天空より降り注いだ灼熱の隕石群はドドドドドドドドッ。と街ごと宗っち達を包み込んだ。
一瞬の出来事だった。木造の建築物はあっという間につぶされ業火に晒される。
城主の屋敷も、木っ端微塵となった。そして冒険者達は……宗っちとメイル以外は大やけどを負って倒れていた。
あれれ。こんなに魔族って強かったっけ。モニター越しにその一部始終を見てた俺も焦り始める。威力はサラフィナと同等、いや、下手するとそれ以上か。
ともかく、このままではヤバい事は確かだ。宗っちとメイルは結界のおかげでかろうじて無事だ。だが、無傷な者を見逃す程魔族は優しくない。
「……チッ。アレから逃れる者が居たとはなッ」
ブロジールは舌打ちすると、一気に駆け出す。宗っちの手前まで来ると、腰に刺した鞭を抜いた。サイドスローの様に、横から振るわれる鞭。それに対し、宗っちは、呆然と立ち尽くしてる。
おいおい、何やってんだよ。俺の声援も虚しく、鞭は宗っちの左腕を直撃した。
「がぁぁぁぁぁッ」
その衝撃に吹き飛ばされる宗っち。
「ソウジ!」
慌てた様子で剣を引き抜き、ブロジールに斬りかかるメイル。だが、ブロジールは器用に羽をバタつかせバックステップを踏んでかわす。それを捕らえようと、メイルはさらに跳躍する。だが、ブロジールの方が一歩速い――。逆にメイルの背後に回ると、鞭を振るった。それは、メイルの背中に当たる。だが、仰け反ると思われたその時、メイルはムーンサルトを決める。その遠心力で逆にブロジールに斬り掛かった。
一進一退の攻防が繰り広げられている戦場で、宗っちは棒立ちだった。
背の高い極悪美女VSかわいい系の狼女。そのバトルに見惚れてる。
「ソウジ!」
不意に名前を呼ばれ気付くと、他の五人の魔族が宗っちに迫っていた。
宗っちは剣を持ってない。使える武器は魔法だけだ。宗っちは、フライで上空に上がると、魔族にサンダーを放った。剣を持っている三人の魔族にそれが襲いかかる。感電した魔族は地に倒れた。死んでは居ない。だが、痙攣している様だ。
「クソッ、良くも人間風情がぁぁぁ」
残りの二人が、指を絡め魔法を詠唱する。使われたのはアイスペリオンとファイアペリオン。炎と氷の魔弾が宗っちに襲いかかる。宗っちは、テレプスで移動すると、魔族の背後へと回り込んだ。そして……驚く魔族の背中へウインドハンマーを叩き込む。空気の塊が魔族の背中を直撃する。
その魔族は二十メートル吹き飛んで動きを止めた。
「クソッ、クソッ、クソッ……」
残った一人は、宗っちに駆け寄る。だが遅い。それを察知した宗っちは、再度フライで飛び上がる。そして、魔族にサンダーを放った。魔法慣れしている魔族は油断しなければ簡単に魔法を食らうことはない。特に、距離の開いている今は。
咄嗟に、痙攣している仲間の剣を拾った魔族は、それを手前の地面に突き刺す。稲妻が着弾する瞬間、バックステップでそれを回避された。
「やったか?」
「バカめ。ここだよ!」
宗っちが、魔族を仕留めたと確信した瞬間、魔族はその隙を突いて宗っちのいる空中に飛び上がった。宗っちは声に引きつけられ下を向く。次の瞬間、魔族からアイスペリオンが放たれた。魔法は確実に宗っちを捕らえた。
だが、それは結界に当たると左後方へ逸れていった。
「なにっ……」
驚愕に彩られる魔族の男。その顔面に宗っちはウインドハンマーを叩き付けた。
ものスゴい勢いで落下していく魔族。地面に衝突した魔族は、二、三回バウンドして気絶した。
へぇ。すげぇな。宗っち。もうこんなに魔法を覚えたというか、使いこなしてやがる。やっぱ、詠唱短縮の影響か……。サラフィナからもらった本には詠唱短縮の重要性が書かれてある。それをこの時間軸の宗っちはうまく利用していた。
宗っちはメイルの方を見る。メイル自慢の革の鎧はボロボロに裂かれ、手足は切り傷だらけだ。ふらふらな状態のメイルをいたぶる様にブロジールは鞭を振るう。 メイルに掛けた結界はいつの間にか切れていた。
ブロジールがトドメだ。とばかりに鞭を振るう。
そこへ宗っちの放ったアイスペリオンが襲いかかった。魔力感知でそれを察知したブロジールは回避する。
メイルとブロジールの距離が離れた隙に、二人の間に宗っちが割り込んだ。
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