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第173話、宗っち、出世街道まっしぐら。

 宗っちがメイルの家に転がり込んで一週間。

 メイルのランクがDだった事で、宗っちもDランクの依頼をこなしている。

 宗っちの出番は、少数相手の戦闘ではあまりない。複数のゴブリンが現れた時だけ魔法で援護する。そんな戦い方をしてる。


 うーん、確かにこれでもレベルは上がるけど、何か違うよな。


 白い空間で独りごちる。そもそも、宗っちを召喚したのは魔王に戦争を止めさせるためだ。だらだらと、ヒモの様な生活をさせるためじゃない。

 それにこのままでは、やがて来る魔王軍の来襲に応戦できなくなる。それでは困る。非常に困る。うーん、考えた末に、少しだけ介入する事にした。


 トリアムスの街には魔法の店はない。だから、多くの魔法を覚えたければ、別の街へいく必要があった。まぁ、この時代の人間もマナ量は少ない。だから魔法使いもごく少数しかいないわけだ。すると必然的に、魔法の使える者が住む街と、そうじゃない街に分かれる。このトリアムスもその一つだった。

 そこで、俺は怪しい露天商に化けた。見た目は爺の姿で……別にサラフィナの影響では決してない。だが、人知れず地上に降りるには都合がいいと思った。


 宗っちが通るのを待ち構える。そして、その時がくる。


「そこのお兄さん。魔法を覚える気はないかね?」


 うん。いかにも胡散臭い。こんな手に引っかかるバカが、どこの世界にいるというのか……。


「へぇ。魔法か!」


「ソウジなら頑張ればもっと強くなれるだに!」


「えっと、ちなみに魔法はスクロールですか? それとも書?」


 あん? バカが引っかかったよ。と思ってたらスクロールだと!

 何だソレ……脳内から神界へ接続して、スクロールを調べる。すると、なるほど……この時代の人族でマナが多い者は魔法陣を書いた紙を使って魔法を覚える。そう書いてあった。三百年後にはロストテクノロジーだぞ。紛らわしい。


「うちで扱ってるのは書だよ。残念だが、書で覚えてもらうしかないのぉ」


 これ買わないパターンだ。そう思った矢先、狼人の娘が声をあげた。


「それ、いくらだに?」


 あれ、いくらにするか……そう言えば決めてなかったな。


「おい、こんな怪しい店で買って大丈夫かよ?」


 誰が怪しいだ! 俺はこれでも神様だ!


「そうじゃのぉ。それじゃ金貨一枚でどうじゃ?」


「高いだに……」


「ほらな。ぼったくりに決まってんだって」


 あれ、失敗した。これじゃ何のために人界に降りたのか分からない。

 俺は咄嗟とっさに、値下げに走る。


「そうじゃのぉ。それじゃ銀貨一枚でいいぞ」


「ずいぶん値下げしただに。でも、それなら買えるだに」


「そうだな。その値段なら、偽物でも我慢はできる価格だ」


 何が偽物だ。これはサラフィナから昔もらった大事だいじな本なんだぞ!

 まぁ、神様になった俺には必要なくなったが。


「では、確かに……」


 本と交換に、銀貨一枚を受け取った。なんだか虚しい。


「へぇ、何だか本物っぽいね」


「良い買い物をしただに」


 俺にとっては釈然としないが、宗っちたちは、喜んで帰って行った。

 これで魔法を覚えれば、きっと勇者になれるだろう。期待してるぞ宗っち。


 それからさらに一週間。宗っちは順当に力を付けていた。最近では、ソロでオークを倒しては、拾った魔石を冒険者組合で大量に売りさばいているらしい。


 フフフ……予定通りだ。


「今日は、オーガを倒すだに!」


「おぉぉ。ゴブリン、スライム、オークの次はオーガか。やっと異世界らしくなってきたな」


「ソウジはたまに変な事を言うだに」


 何というか、俺より冒険者らしくなっていた。俺のしたかった異世界を謳歌おうかする日常。それをそのまま宗っちがしている感じだ。

 俺なんて、魔石は最初のスライム以降は拾ってなかったからな。

 この時間軸では、魔石を集めて魔方陣の動力源にしてた。なるほど、あのザイアークの塔も製作段階で魔石を組み込んで作ったのだろう。そう今なら思える。


 と言うことは、ザイアークのあった場所には別の魔法国家があると言うことだ。ちょっと調べてみるか。

 俺が調べ物をしている間にも、宗っちたちは樹海へ入っていく。


「なぁ、こんなに奥まで入って大丈夫なのか?」


「大丈夫だに。私の嗅覚は優れてるだに」


 俺でさえ序盤では入らなかった樹海にずんずん進む二人。そして、オーガは現れた。宗っちを見つけると奇声をあげる。


「おっ、いたぞッ」


「いつもの様にやるだに!」


 剣を抜きオーガへと駆け出すメイル。メイルの体には青い結界が張られている。うん。これは宗っちの努力の結晶だ。さすが、俺とは違う。


「はぁぁッ!」


 身長差で倍はあろうかというオーガに、メイルは飛びかかった。剣を振り下ろしながら。だが、その剣はオーガが腕をクロスさせると簡単に止められる。そこへ宗っちの放った風の刃が襲う。

 メイルに気を取られていたオーガの足が二本とも切断された。


「トドメだに!」


 身長差が関係なくなったメイルは剣先をオーガの首元へ。二人の連係プレーによって、呆気なくオーガは倒されたようだ。


「やっただに!」


「あはは。これで俺たちもCランクに上がれるぜ!」


「今晩はお祝いだに!」


 あれ。いつの間にオーガ倒したの? 俺、見逃したんだけど……。


 宗っちとメイルは、オーガの胸から赤い魔石を取り出した。へぇ、スライムより三倍は大きいじゃん。俺だって竜を倒してるんだぜ。誰に言うでもなく、吐いた言葉は神界に虚しく響き渡った。


 無事依頼を達成して街へ戻った宗っちたちは、ギルドランクCに上がった。

 今は、冒険者組合の酒場で乾杯してる。うーん、何だかつまらない。他人の武勇伝を見てても全然面白くない。もっと、宗っちには笑わせる要素があるはず。

 以前、ここで宗っちをボコボコにした大男たちも、宗っちを受け入れてる。   まぁ、FランクがDランクと組んでCランクのオーク、Bランクのオーガを倒せばね。力で認めさせたと言うことだ。本当に、他人の出世はつまらない。


 不謹慎ではあるが、そんな考えが俺によぎる。すると、それを反映した様にイベントは起きた。突然、冒険者組合の扉が開くと、そこに金持ちに仕える執事がやって来た。高圧的な態度で受け付けに来ると、羊皮紙を突き出し。


「近くに魔王軍が迫ってる。よって冒険者を招集する!」

お読みくださり、ありがとうございます。

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