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第172話、宗っち、冒険者になる。

 宗っちは四時間歩き続けた所で、木の柵に囲まれてる街に到着した。

 なるほど、三百年前のサラエルドの街には市壁はなかったんだな。

 それでも、俺の見つめるモニターにはそれなりに人が営んでいる様子が映し出されてる。俺の知る情報では、ここの城主の名前はトリアムス・カールステッド。

 街の名前はトリアムスの街だ。俺の記憶にあるサラエルドと比較するとかなりこぢんまりした街だが、まぁ、何とかなるだろう。宗っちだし。


 街に入るのに入門料は発生しない。

 一メートル程度の低い柵だ。ほぼ出入り自由みたいなものか。

 門番とも言えないような、見張り役にあいさつをして宗っちは街に入った。


 俺ならここで真っ先に仕事を探す。手持ち資金なんて持ってない筈だからな。

だが、何を考えたのか宗っちは、通りを歩いている若い女性に声をかけ始めた。

何やってんだ……。

 ちょっと音量のボリュームを上げて様子を窺う。


「やぁ、こんにちは」


「はぁ? どうも……」


「実は、この街には初めて来たから知らない事が多くてね。ちょっと聞きたいんだけど……時間いいかな?」


 なるほど、宗っちは情報収集を始めたのか。

 相手が良かったのか、宗っちにあれこれと説明してる。おおむね、俺の知ってる内容と変わりはない。城主の話、貨幣の話、仕事の話、物の相場などだ。


「ふーん。トリアムスの街ね。それじゃ、仕事をするなら冒険者組合に行けばいいんだね?」


「はい。頑張ってくださいね」


「うん、ありがとう。一儲けしたらお礼に何か奢るよ」


「ふふっ。では……」


 何だ……この感じ。何だかモヤモヤするな。まさか神である俺が嫉妬?

 いや。あり得ないし。それにしても宗っち、すげぇな。まさか、あの流れから次の予約まで入れちゃうんだから。これを見てしまうと、前回の時間軸で宗っちが奥さんを三人捕まえたのも頷ける。

 と言うか、宗っちホストの方が向いてんじゃね?

 おっと、宗っちが冒険者組合に向かったぞ。

 それにしても、この街はショボいな。木造一階建て。それに石畳なんて一つもない。唯一、石造りの建物は城主の館だけか。それも二階建てで侯爵邸と比べてもみすぼらしい。坂の上の林檎亭の方が立派に見えるくらいだ。

 そして、路地の至る所に落ちている汚物。下水の概念はないから仕方ないが。

 見てて気持ちの良い物ではない。


 そんな事を考えてる内に、宗っちは冒険者組合に入っていった。


「いらっしゃい。登録ですか? それとも職の斡旋あっせんですか?」


「はい、登録と斡旋をお願いします」


 ここの冒険者組合は俺の時とだいぶ違った。登録はこれまで通りだが、仕事は張り出されている紙の中からえらべない。ランクの低い者には、相応の仕事を勝手に組み合いの方から斡旋する。しかも、斡旋を三回断ると、組合員の資格を剥奪。


 こんな世界じゃなくて良かったぜ。


「ソウジさんのランクは最低のFランクです。なので、街の汚物集めからお願いします」


 ぐはっ。宗っちめっちゃショック受けてる。

 さすがに、これはねぇよな。魔法だって使えるのに、う〇こ集め……。


「あの、僕一応魔法が使えるんですけど、見合った仕事はありませんか?」


 やっぱり。そうなるよな……。

 でも、受付のお姉さん、嫌な客が来たなって感じだし。これマズいんじゃね?


「おう、兄さん。話は聞かせてもらったぜ。その上で、兄さんに忠告だ。……この街のルールに従えないなら出て行け!」


 かぁ。冒険者組合内の酒場で飲んだくれてたヤツに絡まれてるし。

 どうすんだよ。宗っち。

 顔色は、あらら。結構ビビってるな。腰引けてる。でも、悪くても死にはしないだろ。ちょっと様子見だな。


「ぼ、僕は別にルールを守らないとは言ってない。ただ、攻撃魔法が使えるから討伐の依頼を受けたいだけだッ」


「へぇ。そんなナリで討伐ね……ったく。最近のかけだしは……」


 一瞬の出来事だった。男は言葉を句切ると宗っちの足を蹴った。呆気なく転がされる宗っち。酒場で飲んだくれてる大男たちから冷笑が飛ぶ。


「無理無理。止めとけって」「全く、若造のために言ってんだ」「もやしが……いい気になってんなよ」「おい、ドロス。手加減しねぇでさっさとつまみ出せ」


「ふんッ。分かったか。ランクの低い物は上の者に逆らえない。そして、組合からの依頼は断るな。みんなそうやって育ってきてんだ。分かったらクソ掃除してこい」


 いや、厳しいね。でも、冒険者たちの言ってる事にも一理あるな。

 まだ宗っちはレベルが低い。俺の加護を与えてもいいが、それじゃ面白くねぇ。


 宗っちは大人しく受け付けに向かう。


「さぁ、討伐依頼をくれ」


「はぁ……」


 あらら。ここで意地張ってどうするよ。飯も寝床もなくなるぞ。

 受付のお姉さんもすっかりそっぽ向いてるし。こりゃヤバいかも。


「おう、クソガキ。いい加減にしろよ!」「ドロス、だから言わんこっちゃねぇ」「さっさとつまみ出せ!」「ガキが舐めんなッ」


 宗っちは、大男四人にボコボコにされた。さんざん痛めつけられて、外に放り出される。大怪我おおけがではない。でも、顔中に青たんができてた。

 宗っち、世渡り上手だと思ってたら……女相手だけかよ。もっと言い方も、やり方もあるだろうに……。どうすっかな。早いけど助け船を、うん?


 宗っちに冒険者組合の中に一人で居た女が接触した。

 肩より短いダークブラウンの髪に、灰色の瞳。そして、頭の上に耳が付いてる。 これ狼人か……珍しいな。筋肉質な胸を革の鎧で隠し、腰パンを履いてる。すらりと伸びる足が健康的だ。腰には剣を差してる事から剣士だろうか。

 そんな獣人が、胸っちに何の用だ。


「なぁ、あんたさっき魔法が使えるって言っただに。どんな魔法が使えるだに?」


 ボコボコに腫らした顔で女の方を見る宗っち。女の姿に一瞬、気圧される。それでも、かぶりを振るうとしっかりした口調で答える。


「んあ。サンダーしか使えない」


 血まみれの唇を震わせ、宗っちは答えた。

 でも、その魔法に興味を惹かれたのか、女は宗っちを立たせた。で、立つ事もつらそうな宗っちを気遣って、肩を貸してる。

 あれれ、もしかして俺の取り越し苦労なのか?


「それで十分だに。私の名前はメイル。これでもDランクの冒険者だに」


「俺は宗方。ムナカタ・ソウジだ。ソウジが名前な」


「そっか。よろしくだに。ソウジ」


 なんだ。この世界にもいい人はいるじゃん。宗っちに肩を貸した狼女は、宗っちを連れて家に帰って行った。

お読みくださり、ありがとうございます。

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