表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WooTober異世界に立つ  作者: 石の森は近所です
堕天使復活編
172/208

第166話、タケ、再生する。

「タケさん、えっ……タケさんの髪が……」「タケ様、タケ様。その髪はどうしたんです?」「うはははは。わらわは神の妻になったのじゃ」


「俺は……誰だ?」


 俺の目の前には三人の女性が、いや、違うな。一人の美しい女性と、美少女。そして幼女がいる。一人は金髪に青い瞳。もう一人は銀の髪に翡翠の瞳。幼児の方は黒い髪に漆黒の瞳か。この三人は誰だっけ……。何でこんなに必死になってんだ。

まぁ、女性に触れられるのは悪い気はしない。

 それならこのままでいいか。ん、このベッドで干からびてるのは誰、あ゛っ。  あぁぁぁぁぁぁぁ。くそっ。思い出そうとすると頭が痛い。何でだ。それに、この死体を見ると切なくなる。どうして、何でだ。もしかして、この女性は俺にとって大切な人だったのか……。でも、何で死んでるんだ。なら、どうして死んだ。

 思い出せ。三人は俺をタケと呼んでる。という事は、俺はタケだ。

 タケの記憶を探れ。虚無の空間に忘れてきたその記憶を。


「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「タケさん!」「タケ様!」「ふむ……まだ記憶が安定していないのじゃな」


「俺は……タケ。タケなのか……」


「そうです。あなたは私たちの夫。タケさんです」


「タケ様、私をお忘れですか? サラフィナです」


「うーん、皆でキスでもすれば思い出すかもしれんのじゃ」


「「キス?」」


「そうなのじゃ。恐らく旦那様の意識は飛んでるのじゃ。視覚、聴覚、味覚から記憶を拾わせるのが一番なのじゃ」


 俺の目の前で、女たちは何か話してる。大人の女性が取り乱して、幼女の方がしっかりしてる感じを受ける。なんでだ……。


 次の瞬間、俺の口に柔らかい感触が走った。はぁ、甘い。甘い味がする。それに、とても良い匂いだ。抱き寄せられると、とても温かい。

 ぐふふっ。気持ちがいい。

 あれ、これと似た感覚を知ってる気がする。


 うむっ、まただ。さっきの味とはちょっと違うが嫌いじゃない。唇から伝わる熱が心地良い。それにこれも良い匂いがする。でも、温かいけど骨が痛いな。

あれ、この感覚……最近味わったばかりのような気がするぞ。


 むっ、なんだこの感覚は……一番甘い。でも、この味はお菓子の様な味だな。臭いはないな。なんだ……。誰かが俺を触ってる。これもどこかで経験した気がするような……。どこでだ? 


 俺の意識は広い真っ白な空間を漂う。おっと、【記録室】もしかしてここか?

 【記録室】と書いてある部屋に滑り込むと、いくつものモニターがあった。

 俺の出産から成長までの記録がここには収められていた。


 へぇ。俺の両親は俺を大事だいじに育ててくれてたんだな。

 結構真面目に生きてるじゃん。柔道かぁ、悪くないな。六年で地方大会出場しかしてないが、こんなものか……。

 おっと、社会人になった。ふふっ、順風満帆とはこの事だな。このまま行けば出世コースじゃん。はぁ? 何でだ。どうしてこうなった。なぜ俺が首に?

 会社の先輩は……そうか。嫉妬されてたのか。ははっ、心の狭いヤツらめ。

 本当に人間はどうしようもないな。

 それにしても、俺はこんな事で五年も引きこもったのか……。


 何をしてんだ……俺。


 へぇ。やっと自分のやりたいことを見つけたのか。WooTober。また変な事を始めたものだな。ははっ。全然人気がないじゃん。ウケるッ。

 おいおい、そんなダサい格好じゃダメだろ。もっとビジュアルを大事にしろよ!

 あぁ、奇抜な事をすれば良いってもんでもないだろうに。何やってんのコイツ。


 えっ、何、今の……瞬間移動なんて使えんの? 


 と思ったら、違った。何だ、異世界へ転移させられたのか。マヌケなヤツめ。

 ふぅーん、良い仲間に恵まれたんだ。良かったじゃん。

 そう思ったら、何だ、呆気なく仲間が死んでるし。ダメダメだな。おまえ。

 ははっ。コイツの人生、後悔しかないのかよ。ダサすぎだろ。常考。

 コイツ、面白すぎ。婆に教えを乞うてるし。しかも、異世界にまで来てアルバイトかよ。正社員はどうした。臨時雇用なんて先が見えてるだろうに。

 へぇ、兄弟分の仇討あだうちか。少しは男らしくなったじゃん。でも、落ち着く先がまたアルバイトか。だっせぇな。

 しかも、ちょっと努力しただけで結局、他力本願かよ。情けねぇ。


 俺は次々に再生される記憶を、まるで人ごとの様に見ていく。


 そして、今の現状に至った訳を知った。


「そういう事だったのか。全く、納得がいかねぇ。こんなのは俺の人生じゃねぇ。何を考えてたんだ。何で、こんなにバカなんだよ。俺ならもっとうまく生きる。ははっ、それでか。それでこのザマか。くだらない。実にくだらない。なぁ、あんた達も災難だったな。そうは思わねぇか?」


「た、タケさん?」


「どうしたんですか?」


「記憶の齟齬そごなのじゃ」


「あぁ、聞き方が悪かったな。俺についてきたから今の様な事になってんだろ。だから災難だったなって言ったんだ。違ったか?」


「災難だなんて……タケさんがいるから、タケさんがいたから今の私はいるんです」


「そうです。タケ様がいたから、私たちはここまで来られたんですよ」


「わらわは……男を見る目は確かなのじゃ」




 何だというのか。あんな男のせいでこんな目に遭ってるのに。この娘たちは。そんなにこの男が大切なのか。どこがいいんだか。理解に苦しむね。


『返せ。俺の体を返せ』


 ははっ、負け犬のタケか。俺の思考に勝手に入って来んな。それに何を言ってるんだ。これは俺の体だ。おまえの役目は終わったろ?


『それは、俺の体だ。おまえのじゃない』


 だいたいおまえは雑魚いんだよ。ヘタレなんだよ。ほら映像の中でも言われてたじゃん。キモいんだよ。


『それでも、それは俺だ。おまえのモノじゃない』


 はぁ、聞きわけがないね。おまえは負けた。自分でもそう認めてたじゃん。


『違う。俺は、やり直すために生まれ変わったんだ。おまえの好きにはさせない』

 

 へぇ、ここからおまえは巻き返せるってそう思ってるのか? ははっ。笑わせてくれるね。


『それでも、俺は麗華さん、サラフィナ、アロマ、ブラッスリー、皆を救う』


 死んだ者は生き返らない。そう学んだ筈じゃないか。もう忘れたのかい?


『ふん、おまえには教えない。これは俺が決めた俺の戦いだ』


 へぇ。ならやってみると良いよ。でも、ダメだったら。次はないからね。


『…………』


 次こそこの体は俺のモノになる。それまで頑張る事だ。


「タケさん」「タケ様」「正気に戻ったのじゃ」


 俺の瞳に生気が戻る。ははっ。アイツの自由になんてさせない。俺の人生だ。

 全く、また心配を掛けちまたな。でも、それももう終わりだ。

 あれっ、そういえば俺の髪って天然パーマだったよな? 視界に入り込んだ髪の色が金色に変わってるぞ。しかも、肩までのストレート。マジ?

 もしかして、ビジュアルが大分変わってる?

 おっと、それよりも、奥さん達に何て言ったらいいかな。やっぱ、ここは格好良く『お待たせ』これかな……もっと良いのはないか。おっ、これだな。


「イェェェイ、タケ生まれ変わりました!」


お読みくださり、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ