第160話、タケ、獣人の国へ行く。⑥
「それで、その復活した堕天使ってのはどこに?」
『それが分からないのです。既に人に憑依されてしまって、追跡できないのです』
くそっ。何のためにここまで来たんだよ。全く冗談じゃねぇぞ。
『申し訳ありません』
「「「「………………………………」」」」
謝られても……な……。
そもそも、戻るにしても、どうやって戻ったら良いのか。少なくともここまで上に上がる階段はなかった。神殿に行けば、最下層に着きさえすれば戻れると考えたからだ。それをこんな場所で言われても……。
「それで女神様、神殿はもうないのですよね?」
『はい。それを確認に行っておりました。最下層の神殿は崩壊しております』
「それでは、ここから脱出すると言うことですね」
『はい。その通りです』
「ちょっと待てよ。脱出するっていったって、ここは地下十二階だぞ。また引き返しても上へ行く階段なんてなかったけど」
「確かに、ここは下へ下りる階段しかないのじゃ」
「それで、どうすればいいのでしょうか?」
『すみません。ここでは私たちの力は及びません。自力で上がってもらうしか……』
はい?
炎属性の魔法も使えない状態で、ここを自力で戻れだって。ふざけんな。
ここまでさんざん魔物と戦い、罠に翻弄されてきたんだぞ。それをまた繰り返せだって。それこそあり得ねぇだろうに。せめて一泊する余裕はないのかよ。
『ですからそれは認められません。ここは既に堕天使の領域。この先に何が待ち受けているか……私ですら想像は付かないのです』
「そんな無責任な……」
『娘よ。申し訳ないとは思います。しかし、そもそもの原因は……』
チッ。言葉尻で俺の方を向くんじゃねぇ。小女神。
俺が原爆で、樹海の神殿を吹き飛ばしたのが原因と言いたいんだろ。
何度も言われなくても知ってるよ。
「はぁ。せめて戻るにしても炎属性を使えればねぇ」
『炎の属性に拘る必要はありません。あなたには創造魔法があるではないですか』
いや、確かに創造魔法はあるけどさ。
まさか今、ここで、魔法を造れとでも言うのか?
『そうしてもらえると……』
「ふふっ。タケさんならできそうですね」「はい。タケ様ならできます」「わらわの見込んだ男なのじゃ。できるのじゃ」
えっ、何で皆して期待のこもった視線を送ってくれてるの。そりゃ、ネットを接続する時は頑張って造ったけどさ。攻撃魔法の創造ってどうすんだよ。
『答えは出ましたね。では、お願いします。一刻も早く、ザイアークにお戻りください』
ザイアークで何かあったのか?
『………………では、お願いしますよ』
バカ女神、ふざけんな。ちゃんと説明しろって。ザイアークにはアロマがいるんだぞ。アリシアも、侯爵も、エリフィーナも、陛下はどうでも良いけど……王子とか、それもどうでもいいか。あっ、宗っちもいたな。
とにかく急がないとダメってことかよ。
その前に、ここにいたらムカデに復活されちまう。さっさと光魔法で消し飛ばすか。
「ホーリーライツ!」
麗華さんのブリザードで、全身を凍らされたムカデに光の粒子をぶつける。光の奔流はムカデの巨体を飲み込むと粉々に砕いていく。光が収まった時、そこには塵一つ残っていなかった。
よし。これでムカデの復活はないな。
「んじゃ、麗華さん、サラフィナ。ちょっと考える時間をくれ。どの魔法なら使えるか考えるから」
「「はい」」「分かったのじゃ」
ふぅ。一番できそうなのは、テレプスの豪華版だな。普通なら視界に収まる範囲だけしか転移できない。だが、それを視界ではなく、記憶の中から引き出して行ったことのある場所に変えれば良いのかな。
そもそも、転移ってどういうプロセスを組んでるんだ。そこにあるモノを、目に見える場所に移す。これは時空に歪みを造って移動してるのか。それとも、移動する対象そのものが消えているのか。
移動する対象が消えるなら、簡単にいきそうな気がしねぇ。
時空を歪めて、この場所とザイアークを結ぶ。うん、この方が理論的にしっくりくる。でも待てよ。俺の使うスプリルボイドなんかは、異次元に飛ぶよな。これまでアレを使ったときに、現在地とか意識しなかった。だから、消えた場所に戻された。だが、ザイアーク王都をイメージして戻れば……。
魔法を新たに造るより、そっちの方が楽そうではあるな。
でも、いきなりザイアークでは距離が離れすぎてる。異次元に距離の概念があるのかは知らんけど。もし関係があれば失敗することも考えられる。
「タケさん、紅茶をどうぞ」
「うん。ありがとう麗華さん」
俺の嫁さんたちは、思考の渦に入ってる間に茶会を開いてる。本当に頼もしい限りだな。堕天使が復活したと聞いた癖に。不安など微塵も感じさせない。
いや、違うな。こうでもしてないと落ち着かないのだろう。
これから俺たちの向かう先に居るのは、女神の天敵だ。戦力的には俺と互角。
下手すれば、誰かが命を落とす可能性もある。だから、普段と同じ行動をとってるんだ。心を落ち着かせるために……。
はぁ。異世界で嫁をもらって、もっと気楽な生活を送る筈だったんだけどな。
いつからこんな風になったんだか。そもそも、WooTobeがこの時代に攻めてきたのが事の発端だ。そして、それを送り込んだのは三百年前に存在した勇者。
考えてみれば変な話だな。この世界を救った勇者が、何でそんなマネを。
この時代の人族に幻滅したのは確かだろう。でも、それだけなのか。
勇者だって俺とか宗っちのように、仲のいい女の一人や二人いてもおかしくはない。そいつらが不幸になることを本当に望んでるのか?
うーん、今は考えても仕方ないか。
とりあえず、ザイアークに戻ることが最優先だな。
「旦那様、このクッキーは美味しいのじゃ」
「うん。ありがとう」
ブラッスリーにまで気を遣われてるよ。……本当は全部独り占めしたい癖に、俺にクッキーを差し出してくる。
「タケ様、紅茶のお代わりはいかがですか?」
「うん。もらうよ。ありがとうサラフィナ」
みんな良い子たちばかりだ。この女性たちを俺は守らないといけない。
「タケさん、分からない事があったらいつでも相談してくださいね」
「そうなのじゃ」
「皆……」
「「だって私たちはあなたの妻なんですから」」「なのじゃ!」
ふっ。泣かせてくれる。
こうなったら意地でも守り抜かないとなッ。
お読みくださり、ありがとうございます。
何度もすみません。誤字脱字報告、ありがとうございます。
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