第158話、タケ、獣人の国へ行く。④
風を利用されるなら炎でどうだ。俺は目の前にファイアドラゴンを出現させる。
「あっ、タケ様ダメですッ」
「旦那様、それはダメなのじゃ」
「えっ、なんで?」
ブレスでひと思いに焼き尽くそうとした俺にストップが掛かる。
「八つ目カエルは全身が毒で覆われてるのじゃ。もし、アレを焼けば……」
「そうですよ、タケ様。この部屋に毒ガスが充満します」
なんだよそれ……滅茶苦茶ヤバいじゃん。間に合って良かった。あれ、でも俺の魔法に毒を無毒化する魔法があったような。でも、ここは穏便に行くか。
炎の竜を解除して次の魔法を詠唱しようとする矢先に、またさっきの液体を吐き出された。豪雨が土壁を襲う。しかも、今度はさっきよりも量が多い。
どんどん壁は破壊され、薄くなっていく。念の為、範囲結界魔法で皆を包み込む。青い膜が俺たちを包み込んだ瞬間、壁は砕け散った。
尚も、紫の液体は襲いかかる。結界に当たるとジュッ、と異臭を放ちながら消滅していく。なんだかゴムの焼けた臭いがする。
「タケ様、この臭いを嗅いではダメですよ」
遅いって。もう嗅いじゃったじゃん。
「ポアズンブレーク」
俺は解毒魔法を皆に掛ける。よし、なんともないな。それにしてもこいつは毒カエルかよ。焼いてダメなら砕くのみッ!
「アイスペリオン、アイスペリオン、アイスペリオン」
へへっ。氷魔弾の三連発だぜ。これでどうだッ。
青いマナの塊が、巨大なカエルを襲う。巨大な体に一つだけでは効果は薄い。でも、三発だからな。着弾した部分は徐々に青白くなっていく。
「やったか?」
「タケ様、それフラグですよ」
「タケさん、まだです。ブリザード!」
「旦那様も抜けてるのじゃ」
確かに、アイスペリオンの当たった部分しか凍ってない。口は大きく開いたままだ。そして、その口から液体が吐き出される刹那、麗華さんの放ったブリザードが八つ目カエルの全身を覆う。カエルは口を開けた状態で凍り付けになった。
「ははっ、ありがとう麗華さん」
「いえ、旦那さんをフォローするのが妻の役目ですから」
「そうですよ。タケ様」
「そうなのじゃ」
ははっ。俺一人で戦う気になっちゃダメってことか。頼りになるぜ。全く。
それにしても、何でこんな場所に出てきたんだ。まさかダンジョンボスじゃないよな。大きさだけは一番だけどさ……。
「なんだかドッ、と疲れたね」
「そうですね。これでは気が休まりません」
「タケ様、麗華様、これは確実に神殿に近づけさせたくない意図を感じます」
「うーむ、わらわも何かおかしいと思っていたのじゃ」
樹海の神殿も、アルフヘイムの神殿もこんな障害はなかった。だいたい再生能力を備えたダンジョンなんて、小説やアニメの中だけのシステムだと思ってた。
それなのに現実問題として、目の前の巨大なカエルは地面に溶けるように消えていく。
「これいつまで続くんでしょう……」
「麗華様、少しお休みになられてはいかがでしょう?」
「これでまだ十一階層かよ。まさか、地下百階層とかないよな……」
「「「………………………………」」」
あらら、皆も絶句しちゃったし。当然だよな。
でも、十一階層でこのざまだ。この先が思いやられるぜ。
そもそもこの神殿は女神様が造ったんだよな。どう考えても、意味のあるモノに思えないんだが。まさかゲームの様にレベル上げさせるためじゃないよな。俺が保有できるマナ量は既に最大値のはず。ならここで魔物を倒す意味はない。うーん。
「タケさん、少し休みましょう」
「うん。そうだね」
腰を落ち着けて間もなく。俺の目の前では不思議な現象が起きてる。俺が構築した土壁も、魔物の死体も、戦闘の傷跡も全てがキレイに消え去った。
消え去ったまでは良かったが、消えた途端に上からまた巨大なカエルが降ってきた。ドォォォン。カエルとの距離は離れているが、その姿は先ほどと全く同じ。
「「「なっ……」」」
「休ませない気なのじゃ」
どんだけ悪質なんだよ。全員、すぐさま戦闘態勢に入る。
「エグザガーダル」「ファイアドラゴン」
「ブリザード」
「ウインドウォール」
ちょっとサラフィナ。また風の壁はないだろうよ……。少しは麗華さんを見習ってくれ。俺は範囲結界を張ったあと、すぐさま炎の竜を顕現させた。俺の仮説が正しければこれで正解のはず。
「いけぇーブレス!」「タケ様、それは……」「それは悪手なのじゃ」
幸い、八つ目カエルはまだ口を開いていない。その間に炎の竜から夥しい熱量のブレスが噴出された。グワァァァオ。苦痛に喘ぐカエル。黄色い外皮は熱を当てた蝋燭の様に溶け出す。と同時に臭気を発する。
「アロマデストロイ!」
とっさに放った魔法は、緑色の粒子となってこの部屋全体に充満した。
「これでどうだ……」
緑の粒子は黄色い毒ガスと混じり合う。次の瞬間、毒はキレイに除去されていく。
「おっしゃぁぁぁぁ!」
尚も、炎の竜はブレスを吐き出し続ける。たかだか数十秒程の戦闘。でも、それで十分だった。八つ目カエルは、最後に悶絶すると蒸発した。炎の竜を解除しながら様子を窺う。黄色いガスはヤツの居た場所にまだ少し残ってる。しかし、それも空中に漂っていた緑の粒子に飲み込まれていった。
「あははははは。どうだ、見たか! 毒カエルめ!」
「なるほど、臭滅魔法ですか」
「サラフィナさん、臭滅魔法とは……」
「わらわが説明するのじゃ。アレは臭いを消し去る魔法なのじゃ。主に、汚物の臭いを消すために使われておるのじゃ」
へぇ。そうなんだ。ポイント交換で入手した魔法だからな。そんな用途だとは知らなかった。でも、効果は猛毒のガスにも有効と書いてある。成功して良かった。
「でも、退治したならまたすぐに復活するのでは?」
「うん、それはないと思うよ。麗華さん」
「何でじゃ?」
「俺の予想だけど、魔物を消滅させた場合は復活しない。雪女の時と、骸骨の時は復活しなかったからね。確定じゃないけど……そうなんじゃないかな」
「でも、タケ様のおっしゃることが正しければ……」
「はぁ。少しはゆっくり休めそうですねッ」
「もうこりごりなのじゃ」
スマホの時間を見ると、もう午後三時だった。少し遅くなったが、アイテムボックスから乾パンを取り出して昼食をとる。侯爵家を出発したのは朝の八時。獣人の国に着いたのが一〇時。既に、ダンジョンに落とされてから五時間が経過した。
「これ今日中に終わるんでしょうか?」
不安そうな面持ちで麗華さんが呟く。全員、心なしか元気がないように見える。
当たり前だな。神殿でサクッとマナを補充するだけの予定だった。こんな所で、面倒な戦闘をするなんて予定になかったんだから。
「はぁ。最悪は安全地帯で一泊もありえますね」
「サラフィナさん、それでは……」
「はい。もう十一階層ですが、まだ十一階層かもしれません。このまま持久戦に持ち込まれると……困りましたね」
「何にしても、魔物を消滅させれば復活しないことは分かったんだ。無理をしないで休める時は休もうね」
「はい。タケさん」
この雰囲気は良くないな。皆の士気がだだ下がりじゃん。それも仕方がないけど。まさか、アルフヘイムに続いてここでも……あれ、そういえば忘れてたけど、エルフの長は何て言ったっけ。確か、【獣人の国で気を付けろ】とか何とか。
もしかして、このことか……。くそっ。分かり難いんだよ。
お読みくださり、ありがとうございます。
昨日に引き続き、誤字脱字報告ありがとうございます。
昨日、書き終えてから朝まで一話から読み直ししてたんですけど、言葉って難しいですね。
何気なく使っている言葉でも、間違っているものが多くありました。
また、漢字の意味も似てるようで違ったり……。これを細かく指摘できる読者の方は凄いと思います。
今後とも、ご教授いただけたら嬉しいです。
遅くなりましたが、ここから最低でも二話はアップする予定です。