第157話、タケ、獣人の国へ行く。③
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「やっと十階なのじゃ」
「これ、どこまで続くんでしょうか?」
「麗華様、お水を……」
俺たちはあれから延々とダンジョンを彷徨った。まず分かったことは、階を一つ下がる度に通路も一つ増えると言うこと。そして、どの通路にも罠があると言うこと。地下三階で通路が三つに増えてた時にはまさかと思った。それが、四階になって四つに増えると確信に変わった。どれか一つでも罠のない通路があれば、気を紛らわす事もできる。だが、増える選択肢の中で常に当たりは一つなのだ。
階数が少ない内はまだいい。だが、増え続けると言うことは、当たりを引く可能性はどんどん低くなる。
「クソッ。なんなんだよ。ここは!」
「タケ様、全くです。先の読めない展開、全てに張り巡らされてる罠。悪意しか感じません」
「タケさん、でも、ここも神殿の一部なんですよね?」
「その筈なのじゃ」
本当にそうなのか? そもそも、神殿とは聖なる神の領域へ続く空間だ。そこへ行くのに魔物に襲われる事がそもそも間違ってる気がする。
「なぁ、女神様よ。本当にここで合ってるのか?」
チッ。肝心な時には出て来ないのか。やってらんねぇぜ。
「とにかく進むしかないのじゃ」
少ない時間で体を休めた俺たちは地下十階へと進んだ。
「はぁ。やっぱりな」
「通路が十個ですね」
「まぁ、何とかなるのじゃ」
「ブラッスリー様は最後尾ですからねッ」
階段を下りると、広い部屋になっていた。そこには十個の扉が付いている。ということは十分の一の確率でしか正解はないと言うことだ。
探知の魔法で分かれば苦労はないが、そんな魔法は誰も使えない。気配察知なら皆使えるが、そもそも俺たちが侵入しないと魔物は出現しない。かといって魔物を察知して、戦わず引き返すのが正解かといえばそうじゃない。その先に階段があることだってあったのだ。そう。既にそれは試した。
「それじゃ、進むよ」
適当に真ん中の扉を潜る。中はひんやりしていて他の通路と変わらない。ちなみに先頭はサラフィナから俺に代わっている。途中で、虫が大勢湧くエリアがあってサラフィナがパニクったからだ。蛇は平気なのに虫がダメとは初ヤツめ。
通路の先に進めないほどの土砂を噴出された時には、どうするかと思ったぜ。
幸いにも、他の通路に階段はあったから良かったが……。
生き埋めにして、先に進めなくなったら詰む。
俺の魔法で吹き飛ばしてもいいが、それで魔物の大群に襲われてたのでは本末転倒だからな。下手に壁を破壊する訳にはいかなくなった。
通路に入って間もなく……これまでにもあった異変を察知する。ドン、ドン、ドン。あぁ、これはアレだな。一つ目のサイクロプス。
果たして、俺の予想は当たった。七階で出てきた魔物だ。普通は階を下りるごとに魔物のレベルは上がるものだが、ここにそれは当てはまらない。
「ワーダードレイン」
超高圧の水流はサイクロプスの首に当たる。少しだけ指を左右に振る。それだけで、あっという間に首を切断されたサイクロプスは絶命した。実に呆気ない。
「さすがタケさんですね」
「旦那様なら当たり前なのじゃ」
「まぁ、タケ様ですから」
皆の声援が心地良い。
エルフの里で海洋生物を討伐して以来、俺の魔力は常に漲ってる。なぜかは分からないが、俺の息子も元気だ。夜になって良い雰囲気になると必ず……まぁ、今はそのことはいいか。昨夜、俺の毒牙にかかった麗華さんを見る。
「……?」
「うん、何でもないよ。麗華さん」
「はい」
うん。体調に悪い所はなさそうだ。まぁ、昨晩頑張ったのは俺だからな。
腰にくるとすれば俺の方だろう。
さて、サイクロプスの死体を越えて進むことしばし。
「チッ。行き止まりか」
「「はぁ」」
「まぁ、次があるのじゃ」
俺たちは引き返す。不思議なことにその時点で、サイクロプスの死体は消えてる。全く不思議だ。自浄作用といっても死体だぞ。まさか、死体を回収することでマナを得ているなんてことはねぇよな?
もし、そうなら完全に消し炭にしてやった方が、あとあと楽になる気がする。
「次はこっちですね」
ここは麗華さんの第六感に頼る。麗華さんの勘は鋭いからな。八階は麗華さんの勘が冴え渡った。ブラッスリーのなんちゃってとは大違いだ。
「じゃ、ここも俺が先に行くね」
代わり映えのない通路を進む。しばらくして罠は発動した。突然、空気が冷たく感じる。まるで麗華さんが放つ極寒の息吹の様だ……。って、モロそれじゃねぇか!
「チッ……ファイアドラゴン!」
冷気を炎の竜のブレスで押し返す。ブレスの明かりで敵の正体が見えた。
「何あれ……」
「雪女ですね……」
「麗華様、雪女とは?」
「あはは、冷たい女なのじゃ」
真っ白な裸体を晒し、現れたのは雪女だった。こんな場所でなんで裸なんだよ。そんな突っ込みはない。ブレスが到達すると、徐々に溶け始める。ぎゃぁぁぁ、と叫ぶ声には色気も感じない。さっさと溶けて消えてしまえ。威力を高めると、そこには水たまりだけが残った。
「情け容赦のない攻撃だったのじゃ」
「いや、魔物に情けなんて掛けないからね」
「そうですよ。凍らされたら寒いでしょ。ブラッスリーちゃん」
「恥ずかしくないんでしょうか。あんな格好で……」
麗華さん、凍ったら確実に死ぬからね。それと、魔物は寒いとか感じないでしょうよ。サラフィナ……まぁ、目の保養にもならなかったけど。
水たまりを飛び越し、進むとそこには下へと続く階段があった。
「さすが麗華さんの勘は冴えてるね!」
「いえ、何となくですよ」
「たいしたモノなのじゃ」
「さすがです。麗華様」
皆に褒められてはにかむ麗華さんはかわいい。うん、さすがは俺の嫁。
階段を下りた先はまた広い空間だ。地下十一階層。うん、扉も十一だな。次も麗華さんに決めてもらうか。と思った矢先。天井から巨大な物体が落ちてきた。
ドォォォン、と地響きが鳴る。
「「きゃぁっ」」
「あ゛ッ」
「……なんじゃ」
よろけながら視界に飛び込んできたのは、大きなカエル?
両生類独特の目は八つ。足も八つ。色は黄色の気味の悪いカエルだ。
はぁ?
「タケ様、呆けてる場合じゃありませんよ。アレは八つ目カエルです」
そのまんまかよ!
カエルは麗華さんに向かって舌を伸ばしている。そうはさせるかッ!
そう思い、魔法を詠唱しようとした俺の体にもう一つの舌が巻き付いた。
「えっ……」
「旦那様、こやつは全てが八つあるのじゃ」
「おいおい、そんな話は先に言ってくれ」
俺に巻き付いた舌はそのまま巨大な口へ引き戻される。視界の隅には麗華さん、ブラッスリーが映り込む。二人とも舌に捕まっていた。サラフィナを探す。と、背後からサラフィナの声が聞こえた。
「ウインドウォール!」
突然、巨大カエルの目の前に風が吹き荒れる。それは風の壁を構築した。途端、俺たちに巻き付いた舌は全て切り刻まれた。
通路に投げ出される三人。舌を切られたカエルの口から紫の液体が噴出する。
あれと似たものを最近見たな……そんなどうでも良いことを考える。がしかし、風の壁に当たると、液体は巻き取られた。
「はぁ?」
「タケ様、すぐに障壁を……」
何が起きてるのか分からない。だが、サラフィナの言うとおりにサンドウォールを前面に展開した。その刹那、風に巻き取られた紫の液体が壁に向けて降り注いだ。まるで横殴りの豪雨にでもあったかのように、激しく打ち付ける。
それが収まった時、土の壁に銃弾を撃ち込まれた様な無数の穴が開いていた。
「やばっ。なんだこりゃ」
「タケ様、普通は風の障壁を貫通して来ることはありません。ですが……あの液体はマズいです。私の放った風の壁を利用して反撃されました」
なんだって……。確かに普通なら風圧で飛んできた方向へ押し戻すはずだった。それが液体であることが災いして、風に同化された。結果、弾かれる方向が変わったらしい。あれ、考えてみればそれってサラフィナの魔法の影響なんじゃ?
「何ですか……タケ様。私の魔法がなければ今頃は口の中でしたよ」
「ですよねぇ」
とにかく仕切り直しだ!
お読みくださり、ありがとうございます。
昨日から何度も誤字脱字報告をいただいてます。まだまだ注意力の欠如に反省させられるばかりです。
自分でも気付いていない部分も多く、読者の皆様にはお目汚しされてることと思います。
こんな作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。




